R-L直列回路を「電圧の三角形をIで割る」で一発攻略する
電験三種「理論」でつまずく人が多いR-L直列回路を、たった一つの考え方で攻略します。電圧の三角形をI(電流)で割ればインピーダンス三角形——この操作を覚えるだけで、Z=√(R²+XL²)も位相差φも丸暗記が不要になり、交流回路計算が直流と同じ感覚で解けるようになります。
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この記事で身につくこと
「抵抗とコイルが直列につながっただけなのに、なぜ電圧が単純に足せないのか」——ここでつまずいて、交流回路を丸暗記でごまかしてきた方は本当に多いです。安心してください。この単元は、覚えることがたった一つしかありません。
その一つとは、「電圧の三角形を、電流Iで割る」という操作です。
これができるようになると、公式集を開かなくてもインピーダンスの式が自分の手から出てきます。この記事を読み終えたときには、次の3つができる状態になっています。
| できるようになること | 具体的な中身 |
|---|---|
| 電圧の合成 | VRとVLを、ピタゴラスの定理でVにまとめられる |
| インピーダンスの導出 | 電圧の三角形を÷Iして、Z=√(R²+XL²)を自力で出せる |
| 位相差の把握 | tanφ=XL/Rから、電圧が電流より進む角度を求められる |
直流回路で「V=IR」が使えた方なら、まったく同じ感覚で交流も解けます。苦手意識の正体は、公式の数ではなく「÷I」という一手を知らなかっただけなのです。
暗記フレーズ:電圧の三角形をI(電流)で割ればインピーダンス三角形
今日持ち帰っていただきたいのは、この一行だけです。
「電圧の三角形をI(電流)で割ればインピーダンス三角形」
R-L直列回路の問題は、まず電圧の直角三角形を描き、それを電流Iで割ってインピーダンス三角形に変換する——この二手で片づきます。Z=√(R²+XL²) という式も、この操作の結果として自然に出てくるだけなので、暗記する対象ではありません。

ステップ1:まず「電流Iが共通」を押さえる
R-L直列回路とは、抵抗RとコイルL(誘導リアクタンスXL)が一本道でつながった回路です。ここで最初に確認したいのは、直列だから電流Iはどこでも同じという事実です。

この「共通なもの」が一つあるだけで、あとの計算がすべてつながります。抵抗にかかる電圧VRも、コイルにかかる電圧VLも、同じIから生まれるからです。
一方で、電源電圧Vだけは単純な足し算になりません。ここが最大の関門です。
ステップ2:VR+VLを普通に足すと間違える
いちばん多い失敗が、次のような計算です。

なぜ足せないのか。理由は一つで、VRとVLには位相のズレ(90°)があるからです。向きの違う矢印どうしを、長さだけ足しても正しい長さにはなりません。
コイルが電流を遅らせる性質そのものが怪しい、という方は、先に〈インダクタンスのみの回路を「コイルは周波数が上がるほど嫌がる」で攻略する〉を読んでおくと、この90°の出どころがすっきりします。
ステップ3:基準ベクトルは電流Iにとる
ベクトル図を描くときに迷わないコツは、基準を電流Iに固定することです。直列回路では電流が共通なので、これを横向きの矢印として置くと全体が整理されます。

基準をIにすると、2つの電圧の位置は次のように決まります。
| 素子 | 電圧 | 電流Iに対する位相 | ベクトル図での向き |
|---|---|---|---|
| 抵抗R | VR=RI | 同相(ズレなし) | Iと同じ向き(横) |
| コイルL | VL=XL I | 90°進み | Iから90°上向き(縦) |
抵抗は「素直」でIと同じ向き、コイルは「あと出し」で90°ずれる——R・L・Cの役割分担があいまいな方は、〈R・L・Cの働きを「Lはあと出し、Cは早出し」で一発整理する〉で先に整理しておくと、この向きを取り違えなくなります。
ステップ4:電圧の直角三角形を作る
横にVR、縦にVLを置くと、この2本は直角に交わります。つまり合成した電源電圧Vは、直角三角形の斜辺になります。

あとはピタゴラスの定理を当てるだけです。
ここまでで、交流回路の計算は「中学校で習った直角三角形の問題」に変わりました。難しい数学は一切出てきていません。
ステップ5:三角形を÷Iしてインピーダンス三角形へ
さて、いよいよ本題です。電圧の三角形の3辺は、すべて次のように書けます。
この3辺を、まとめて電流Iで割ってしまいます。

| 電圧の三角形 | ÷I すると | 得られる量 |
|---|---|---|
| VR(横) | VR÷I | 抵抗 R[Ω] |
| VL(縦) | VL÷I | 誘導リアクタンス XL[Ω] |
| V(斜辺) | V÷I | インピーダンス Z[Ω] |
3辺を同じ数で割っただけなので、形(角度)はそのままで、大きさだけが変わった相似な三角形ができます。これがインピーダンス三角形です。
Z=√(R²+XL²) という式は、ここから勝手に出てきたにすぎません。丸暗記して忘れていた式が、自分の手で作れる式に変わったわけです。
直流のオームの法則が、そのまま拡張されている
さらに言えば、V=ZI という形は直流のV=RIとうり二つです。交流では抵抗Rの席にインピーダンスZが座っただけ、と捉えてください。
ステップ6:インピーダンス三角形の読み方
インピーダンス三角形ができたら、そこから読み取れる情報を確認しておきましょう。

| 三角形の部位 | 表す量 | 意味 |
|---|---|---|
| 底辺 | R | 電力を実際に消費する成分 |
| 高さ | XL | 電力を消費せず、電流を遅らせる成分 |
| 斜辺 | Z | 交流全体としての流れにくさ |
| 底辺と斜辺の角 | φ | 電圧と電流の位相差 |
注意していただきたいのは、Zは常にRやXLより大きいという点です。斜辺は必ず他の2辺より長いので、リアクタンスが増えれば電流は流れにくくなります。
ステップ7:位相差φを求める
三角形が手元にあれば、角度も出せます。底辺R、高さXLですから、タンジェントの定義そのままです。

このφが意味するのは、「電圧が電流よりどれだけ進んでいるか」です。言い換えれば、電流が電圧よりφだけ遅れています。
また、力率はこの三角形の底辺÷斜辺で読めます。
ステップ8:数値で一通り解いてみる
ここまでの流れを、具体的な数値で確認します。R=12Ω、XL=16Ω、電源電圧V=200Vとしましょう。
① インピーダンスZを求める
② 電流Iを求める
③ 各素子の電圧を求める
ここで手を止めて、検算をしてみてください。120+160=280Vでは、電源の200Vと合いません。しかしベクトル和で計算すると、きちんと一致します。
「足すと合わないが、ピタゴラスなら合う」——この一致を自分の手で体験しておくと、もう単純な足し算に戻ることはありません。
ちょっと寄り道:工場のモーターと「遅れ力率」
試験範囲から少し外れますが、この回路は現場のあちこちにあります。
| 現場の事例 | R-L回路との関係 |
|---|---|
| 蛍光灯・工場のモーター | 内部にコイルを持つため、電流が電圧より遅れる「遅れ力率」になる |
| 電力会社の請求書の「力率」 | まさにこのインピーダンス角φの余弦(cosφ)から計算されている |
つまり、いま学んでいるφは、そのまま電気料金の話につながっているのです。ちなみにコンデンサは逆に電流を進ませる性質があり、これが力率改善に使われます。その理屈は〈静電容量のみの回路を「コンデンサは周波数が上がるほど喜ぶ」で攻略する〉で確認できます。
まとめ
R-L直列回路は、次の3手で必ず解けます。
| 手順 | やること | 使う式 |
|---|---|---|
| ① | 電流Iを基準に、VRを横・VLを縦に描く | VR=RI、VL=XL I |
| ② | 電圧の直角三角形の3辺を÷Iする | Z=√(R²+XL²) |
| ③ | 角度が必要なら三角形から読む | tanφ=XL/R、cosφ=R/Z |
覚えるのは「電圧の三角形をIで割ればインピーダンス三角形」だけ。公式を思い出そうとして手が止まっていた方も、この一手を握っておけば、試験本番で図から式を作り直せます。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元で失点する原因は、計算力ではなく「ベクトルであることを忘れる」ことに集約されます。
❌ インピーダンスの差を、そのまま抵抗の増減とみなしてしまう → ✅ 「Zが10Ωから20Ωに増えたから、抵抗が10Ω増えたのだろう」と考えるのは危険です。Zは斜辺なので、底辺Rだけを10増やしても斜辺は10増えません。Zが関わる比較は、必ず二乗した形(Z²=R²+XL²)に直してから引き算するのが安全です。大きさの差と、追加された成分は別物だと割り切ってください。
❌ リアクタンスの二乗を落としてしまう → ✅ 直列と並列を等価に置き換える問題では、分子にXLの二乗が出てくる形になります。焦ると二乗を書き忘れたり、分母と分子を入れ替えたりします。そういうときは単位で見張るのが一番です。Ω²÷Ω=Ωになっているか、式の形を単位だけで検算してみましょう。次元が合わない式は、その場で捨てられます。
❌ 打ち消し合っているから電圧はゼロだと思ってしまう → ✅ LとCが互いに打ち消すのは「合成したとき」だけです。個々の素子の端子電圧は、電源電圧より大きくなることさえあります。「合計ゼロ=各部もゼロ」という早合点で、選択肢を1つ取り違える人が毎年います。
過去問ではこう出た
R-L直列回路は、理論科目のなかでも出題頻度が安定して高いテーマです。実際に、次の年度で問われています。
| 出題年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和7年度 下期 | 問9 |
| 令和6年度 上期 | 問13 |
| 令和3年度 | 問9 |
| 平成25年度 | 問10 |
| 平成24年度 | 問8 |
傾向としては、インピーダンスZを出させてから電流や各部の電圧を答えさせる素直な流れが中心です。数字はきれいな直角三角形(3:4:5など)になるよう作られていることが多く、√の計算で詰まる場面はほとんどありません。
逆に言えば、図を描けたかどうかだけで正誤が決まります。手を動かして三角形を描く習慣をつけておけば、得点源にできる単元です。
よくある質問
Q. なぜコイルの電圧だけ90°ずれるのですか?
コイルは電流が変化しようとするのを妨げる性質を持っており、電圧が先に立ち上がってから電流がついてきます。そのため、コイルの端子電圧は電流より90°進みます。抵抗は電流に素直に比例するのでズレはゼロです。この「ゼロと90°」の差があるから、直角三角形になるわけです。理屈の部分は、インダクタンスのみの回路の記事で丁寧に扱っています。
Q. VR+VLが電源電圧を超えてしまいましたが、計算ミスでしょうか?
ミスではありません。先ほどの例でも、120V+160V=280Vで、電源の200Vを超えていました。ベクトルの世界では、長さの単純な合計が斜辺より長くなるのは当たり前です(三角形の2辺の和は斜辺より長い)。必ず√(VR²+VL²)で確認してください。ここを「おかしい」と感じたなら、むしろ正しく理解が進んでいる証拠です。
Q. インピーダンス三角形は、いつも自分で描かないといけませんか?
はじめのうちは、必ず描いてください。描かずに公式だけで解こうとすると、R-L-C回路になった瞬間に手が止まります。慣れてくれば頭の中に三角形が浮かぶようになり、そこから「Zは斜辺だから最大」「φは底辺と斜辺の角」と即座に判断できるようになります。図は補助輪ではなく、本体です。
Q. 位相差φは、必ず角度(度)で答えるのですか?
問題文の指示に従います。角度で答える問題もありますが、多くはcosφ(力率)の形で問われるほうが実用的です。そのときは角度を出さず、cosφ=R/Z と三角形の辺の比だけで済ませられます。わざわざtan⁻¹を計算する必要はありません。
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