インダクタンスのみの回路を「コイルは周波数が上がるほど嫌がる」で攻略する
電験三種「理論」の交流回路でつまずきやすい、インダクタンスLのみの回路を徹底解説。電流が電圧よりπ/2遅れる理由、誘導リアクタンス XL=ωL=2πfL の意味、抵抗との決定的な違いまで、コイルの気持ちになって考えれば一本道で理解できます。
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この記事で身につくこと
交流回路に入ると、多くの人が最初に「うっ」となるのがコイルです。抵抗だけの回路までは順調だったのに、コイルが出てきたとたんに、π/2だの、ωだの、リアクタンスだの、見慣れない記号が一気に押し寄せてきます。ここで「交流は苦手だ」と決めつけて、参考書を閉じてしまう人が本当に多い単元です。
ですが、安心してください。インダクタンスLのみの回路は、覚えることがたったの3つしかありません。
| 覚えること | 内容 |
|---|---|
| ① 位相 | 電流は電圧より π/2(90度)遅れる |
| ② 流れにくさ | 誘導リアクタンス XL=ωL=2πfL[Ω] |
| ③ 抵抗との違い | 抵抗は周波数に無関係、XLは周波数に比例 |
この3つが頭に入れば、この単元の計算問題は、ほぼオームの法則の焼き直しで解けてしまいます。むしろ抵抗回路より計算が単純なくらいです。

この記事を読み終えるころには、「コイルが出てきたら、まずXLを出して、電流は遅れ」と、手が勝手に動くようになっているはずです。
暗記フレーズ:コイルは周波数が上がるほど嫌がる
今回のフレーズはこれです。
コイルは周波数が上がるほど嫌がる(XL=ωL、fが増えれば妨げも増える)

コイルは、電流がコロコロ変わるのが大嫌いです。周波数が高いということは、それだけ電流の向きがめまぐるしく入れ替わるということ。コイルからすれば「そんなに忙しく変わられたら困る」という状態で、その嫌がる度合いがそのまま電流の流れにくさになって表れます。
このフレーズ一つで、XL=2πfL という公式の「なぜfが分子にあるのか」が腹落ちします。嫌がる度合い(XL)は、周波数(f)が増えるほど大きくなる。それだけの話です。逆にf=0、つまり直流ならXL=0で、コイルはただの電線になります。
ステップ1:まず結論、電流はπ/2遅れる
インダクタンスLのみの回路で、絶対に外せないルールがこれです。

電圧を基準にしたとき、電流は π/2(90度)だけ遅れて流れます。電圧が先に山を迎え、そのあとを追いかけるように電流が山を迎える、という関係です。
「進みなのか遅れなのか、どっちだったか分からなくなる」——これは本当によく聞く悩みです。そういう方は、直前の〈R・L・Cの働きを「Lはあと出し、Cは早出し」で一発整理する〉を先に読んでおくと、L と C の向きが一発で区別できるようになります。Lはあと出し、これだけ握っておけば、この単元で迷子になることはありません。
なお、位相の「進み・遅れ」という言葉そのものが怪しい方は、〈位相と位相差を「+なら進み、−なら遅れ」で一発整理する〉に戻ってから読むと、この先の説明がすっと入ってきます。
ステップ2:なぜ遅れるのか、犯人は逆起電力
丸暗記でも点は取れますが、理由を知っておくと忘れなくなります。犯人は逆起電力です。

流れは3段構えで、この順番で覚えると崩れません。
| 段階 | 起きていること |
|---|---|
| ① 変化 | 交流電圧がかかり、電流が変化しようとする |
| ② 妨害 | コイルが、その変化を妨げる向きに逆起電力を発生させる |
| ③ 遅れ | 電流はすぐには立ち上がれず、電圧に対して後ろにずれる |
コイルは、電流の変化に対して常に「ちょっと待った」を掛けてくる存在です。電圧が「さあ流れろ」と命令しても、コイルが渋るので、電流は素直について行けません。この渋りの結果が、ちょうど π/2 という遅れになって現れます。
人にたとえるなら、コイルは腰の重い職人です。指示(電圧)はすぐ届くのに、実際に手が動き出す(電流)のはワンテンポ遅れる。しかも、指示がコロコロ変わる(周波数が高い)ほど、動きが渋くなります。
ステップ3:誘導リアクタンスは「コイル版の抵抗」
次は、電流の大きさの話です。抵抗回路では、電流の流れにくさを表すのが抵抗R[Ω]でした。コイルにも、同じ役目をする値があります。それが誘導リアクタンス XLです。

単位はRと同じオーム[Ω]。使い方もオームの法則とまったく同じで、Rの場所にXLを置くだけです。
つまり、電流の大きさを出すだけなら、抵抗回路と何も変わりません。新しく覚えるのは「Rの代わりにXLを使う」という一点だけ。ここが分かると、コイルへの苦手意識がかなり薄れます。
ステップ4:抵抗との決定的な違いは「周波数」
では、XLは単なるRの言い換えなのかというと、そうではありません。決定的な違いが1つあります。

| 項目 | 抵抗 R | 誘導リアクタンス XL |
|---|---|---|
| 単位 | Ω | Ω |
| 周波数の影響 | 受けない(一定) | 比例して大きくなる |
| 直流(f=0) | そのままR | 0Ω=ただの電線 |
| 位相 | 電圧と電流が同相 | 電流がπ/2遅れる |
| 電力の消費 | 消費する | 消費しない(やり取りするだけ) |
抵抗は、周波数が何ヘルツだろうと10Ωなら10Ωのままです。ところがコイルは、周波数が上がるほど値そのものが大きくなります。同じコイルでも、50Hzのときと5,000Hzのときでは、電流の流れにくさが100倍違うわけです。
この差が、そのまま暗記フレーズの「周波数が上がるほど嫌がる」に対応しています。逆に、周波数がゼロ(直流)ならコイルは嫌がるものが何もないので、XL=0Ω、すなわちただの電線として扱えます。この性質は、あとで直流回路の問題を解くときに効いてきます。
ステップ5:ω=2πf はセットで暗記する
XLの式に出てくる ω(オメガ)は角周波数といって、1秒あたりに位相がどれだけ進むかを表す量です。単位は[rad/s]。

ここが、この単元でつまずく人が一番多い場所です。公式を「XL=ωL」の形だけで覚えていると、問題文に「周波数50Hz」と書いてあったときに、そこから先へ進めなくなってしまいます。
対策はシンプルで、ω が出てきたら反射的に 2πf に書き換える。これを癖にしてください。問題文が与えてくるのは、ほぼ必ず周波数f[Hz]の方だからです。
| 覚え方 | 使う場面 |
|---|---|
| XL=ωL | 式の意味を理解するとき・理論の説明 |
| XL=2πfL | 実際に数値を代入して計算するとき |
ステップ6:公式 XL=2πfL の完成
ここまでを1本にまとめると、この単元の主役の式が出来上がります。

式をよく見てください。f と L がどちらも分子にいます。これは「周波数が高いほど流れにくい」「コイルが大きいほど流れにくい」という、暗記フレーズそのものを数式にしたものです。フレーズを覚えていれば、公式の形を思い出せます。公式を忘れても、フレーズから復元できる——これがこの単元の強みです。
電流を出す式も、分母にXLを置くだけ。ここでもフレーズが効きます。分母にfがあるので、周波数が上がれば電流は減る。感覚と式が一致していますね。
ステップ7:実際に数値を入れて解いてみる
理屈が分かったところで、手を動かしてみましょう。試験で問われる形はほぼ決まっています。
例題:インダクタンス L=0.1H のコイルに、実効値100V・周波数50Hzの交流電圧を加えた。誘導リアクタンス XL、電流I、電圧と電流の位相差を求めよ。
① 誘導リアクタンスを求める
② 電流を求める
オームの法則のRをXLに置き換えるだけです。
③ 位相差を答える
コイルのみの回路なので、考えるまでもなく 電流が電圧より π/2 遅れ です。ここは計算不要、覚えているかどうかだけの勝負になります。
解く手順は、いつでもこの3ステップで固定です。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | fとLから XL=2πfL を計算する |
| 2 | I=V/XL で電流の大きさを出す |
| 3 | 位相はπ/2遅れ(計算せずに即答) |
なお、ここで扱っているVやIは実効値です。最大値や瞬時値と混ざると答えが√2倍ずれるので、自信のない方は〈瞬時値・最大値・実効値・平均値を「4つの顔」で一発整理する〉で足元を固めてから戻ってきてください。
ステップ8:現場ではこう効いている
試験には直接出ませんが、知っておくと記憶が定着します。
| 場面 | コイルの性質がどう効いているか |
|---|---|
| 変圧器・モーターの巻線 | 「インダクタンスのみの回路」に近い性質を持ち、起動時に大きな遅れ電流(突入電流)が流れる |
| IH調理器 | コイルに高周波電流を流し、誘導リアクタンスの性質を逆手に取って鍋そのものを発熱させている |
現場でモーターを起動した瞬間に照明が一瞬暗くなる、あの現象の正体が突入電流です。教科書の中の話だと思っていたコイルが、職場の設備の中でそのまま働いている——そう思うと、この単元も少し身近になってきませんか。
まとめ
インダクタンスLのみの回路は、押さえるところを間違えなければ、理論科目の中でもかなり得点しやすい単元です。
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| 位相 | 電流は電圧よりπ/2(90度)遅れる |
| 遅れる理由 | 逆起電力が電流の変化を妨げるから |
| 流れにくさ | 誘導リアクタンス XL=ωL=2πfL[Ω] |
| 電流の大きさ | I=V/XL=V/(2πfL)[A] |
| 抵抗との違い | Rは周波数に無関係、XLは周波数に比例 |
| 直流のとき | XL=0Ω、コイルはただの電線 |
そして、全部を束ねる一言がこれです。
コイルは周波数が上がるほど嫌がる(XL=ωL、fが増えれば妨げも増える)
覚えるのは3つだけ。位相、公式、抵抗との違い。この記事を閉じたあと、何も見ずにこの3つを口に出して言えれば、この単元はもう合格ラインです。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元で失点する人の多くは、理解不足というより「思い込みの取り違え」でつまずいています。よくある3つを挙げておきます。
❌ 遅れと進みを逆に覚えている
コイルなのに「電流が進む」と答えてしまうミスです。原因はたいてい、コンデンサの性質と混ざっていること。
✅ 対策は、理由とセットで覚えることです。コイルは逆起電力で電流の変化を嫌がる=電流が電圧についていけない=後ろに遅れる。「嫌がる → 渋る → 遅れる」と3語で唱えれば、コンデンサと混同しなくなります。
❌ 直流回路でもコイルをリアクタンスとして扱ってしまう
直流の定常状態を扱う問題なのに、コイルを何かしらの抵抗値として計算に入れてしまうミスです。
✅ 直流はf=0なので、XL=2πfL=0Ω。コイルは単なる電線(短絡)として扱います。回路図から素直にコイルを消して、ただの導線に描き替えてから計算に入るのが確実です。「電線に置き換える」という一手間を先にやってしまえば、後の計算はただの直流回路になります。
❌ ωのまま数値を入れようとして手が止まる
XL=ωL の形だけで暗記していると、問題文の「周波数50Hz」を使えず、計算が始められません。
✅ ωを見たら即座に 2πf に書き換える。数値計算のときは XL=2πfL の形しか使わないと決めてしまうのが、最も事故が少ないやり方です。
過去問ではこう出た
インダクタンスと交流回路のテーマは、電験三種の理論で繰り返し問われている定番です。実際に、テーマで照合できる過去問だけでも次のように出題されています。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和7年 下期 | 問8 |
| 令和6年 下期 | 問5・問15 |
| 令和6年 上期 | 問13・問15 |
| 令和5年 下期 | 問8 |
| 令和5年 上期 | 問8 |
| 令和4年 上期 | 問8 |
見てのとおり、問8前後のA問題での登場が目立ちます。上期・下期を問わず、ほぼ毎回どこかで顔を出していると考えてよい単元です。
出題のされ方は大きく2系統。1つは、L・f・Vを与えてXLと電流・位相差を求めさせる基本計算。もう1つは、R・L・Cが組み合わさった回路の中で、Lの部分だけを正しく処理できるかを問うものです。どちらも、この記事の3ステップ(XLを出す → I=V/XL → 位相はπ/2遅れ)が土台になります。問15のような後半の問題でも、使っている道具は結局これと同じです。
なお、テーマで照合した範囲では、電験ジムに関連問題が155問収録されています。読んで分かった気になったところで、実際に手を動かして確かめておきましょう。
よくある質問
Q. コイルは電力を消費しないのに、なぜ電流が流れるのですか?
コイルは、送られてきたエネルギーを磁界の形で一時的に貯めて、また電源へ返しているからです。抵抗のように熱にして使い切ってしまうわけではありません。行って帰ってを繰り返しているだけなので、消費電力は0。それでも電流そのものは実際に流れていますし、電線も発熱しますから、設備の容量としてはちゃんと考慮する必要があります。この「消費しないのに電流は流れる」という感覚が、後で学ぶ力率の話につながっていきます。
Q. π/2 遅れというのは、時間でいうとどれくらいですか?
1周期の4分の1です。1周期が2π(360度)で、π/2は90度ですから、ちょうど4分の1周期分だけ後ろにずれることになります。50Hzなら1周期が0.02秒なので、遅れは0.005秒。数字にすると一瞬ですが、正弦波の形の上では、電圧が山のてっぺんにいるときに電流はちょうどゼロ、というはっきりした関係になります。
Q. 誘導リアクタンスが大きいコイルは、良いコイルなのですか?
良い悪いではなく、用途によって使い分けるものです。電流を抑えたい場所ではXLが大きい方が都合がよく、逆に電流を通したい場所では邪魔になります。しかも同じコイルでも、周波数が変われば値が変わるのがポイントです。ある周波数では十分に電流を通し、別の周波数では強く妨げる——この性質があるからこそ、コイルは特定の周波数だけを選り分ける用途に使えます。試験対策としては「値の大小」より、周波数によって変わるという事実の方をしっかり押さえておいてください。
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