R・L・Cの働きを「Lはあと出し、Cは早出し」で一発整理する
電験三種「理論」の交流計算でつまずく最大の壁が、R・L・Cの位相の違いです。抵抗Rは電圧と電流が同相、コイルLは電流がπ/2遅れ、コンデンサCは電流がπ/2進む——この3つを「Lはあと出し、Cは早出し」の一言で固定し、ベクトル図まで迷わず描ける状態に仕上げます。
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この記事で身につくこと
交流に入ったとたん、急に難しくなった気がする——独学の方から一番よく聞く声です。直流のときは「電圧÷抵抗=電流」だけで最後まで押し切れたのに、交流になると「遅れ」「進み」「位相差」といった言葉が突然出てきて、何を計算しているのか分からなくなる。あの感覚、よく分かります。
でも安心してください。交流が難しく感じる原因は、たった1つです。R・L・Cの3つで、電流の妨げ方がそれぞれ違う——ここを整理しないまま先へ進むから、インピーダンスも力率も共振も、全部あやふやになるのです。
逆に言えば、この記事の内容さえ体に入れば、交流の計算は一気に見通しがよくなります。この記事を読み終えたとき、あなたは次の状態になっています。
| 身につくこと | 到達レベル |
|---|---|
| R・L・Cの位相関係 | 同相・遅れ・進みを、考えずに即答できる |
| LとCの取り違え | 「あと出し・早出し」で二度と混同しない |
| ベクトル図 | 電圧を基準に、電流の矢印を正しい向きに描ける |
| リアクタンス | XL と XC の式と、周波数との関係が言える |
| π/2の理由 | なぜ90°ちょうどズレるのかを、人に説明できる |
暗記に頼らず「なぜそうなるか」まで押さえるので、忘れても自力で導き直せます。ここが独学者にとって一番おいしいところです。

暗記フレーズ:「Lは電流あと出し、Cは電流早出し」
この単元は、覚えることを1行に圧縮できます。
Lは電流あと出し、Cは電流早出し (電流は、Lでは遅れる・Cでは進む)
「あと出し」「早出し」は、じゃんけんのイメージそのままです。Lは相手(電圧)が出したのを見てから、遅れて手を出す。Cはせっかちで、相手より先に手を出してしまう。それだけです。
ここで一番大事な注意を先に言っておきます。遅れる/進むの主語は、必ず「電流」です。「Lは遅れ」とだけ覚えていると、試験本番で「遅れるのは電圧だったか電流だったか」で必ず迷います。フレーズの中に「電流」という言葉が入っているのは、そのためです。

ステップ①:抵抗Rは、電圧と電流がぴったり同時に動く

まずは一番やさしいRからです。抵抗は、交流になっても直流のときと何も変わりません。
電圧 が大きくなれば、電流 もその瞬間に大きくなる。電圧がゼロの瞬間は、電流もゼロ。波の山と山、谷と谷が、ぴったり重なります。この状態を同相、位相差は です。
なぜRだけズレないのか
抵抗には「電気をためる」機能も「変化を嫌う」性質もありません。エネルギーを熱として捨てるだけの、正直者です。ためる仕組みがないから、遅れようがない——そう理解しておくと、次のLとCとの違いが際立ちます。
ステップ②:コイルLは、電流がπ/2遅れて出てくる

コイルは、電流の変化を嫌う部品です。電流を増やそうとすると「増やすな」と逆向きの起電力を出し、減らそうとすると「減らすな」と食い下がる。この頑固さのせいで、電圧をかけてもすぐには電流が立ち上がりません。
結果として、電流は電圧より (90°)遅れます。これが「Lはあと出し」です。
そして、コイルが電流を妨げる度合いを表す量が誘導リアクタンス です。
単位は抵抗と同じオームですが、熱を出さずに電流を妨げる点が抵抗とは決定的に違います。
| 変えるもの | XL はどうなる | 電流はどうなる |
|---|---|---|
| 周波数 を上げる | 大きくなる | 流れにくくなる |
| 周波数 を下げる | 小さくなる | 流れやすくなる |
| 直流() | 0になる | ただの導線と同じ |
コイルは「速い変化ほど通しにくい」。だから高周波を止めたいときにコイルを使う、と現場では覚えられています。
ステップ③:コンデンサCは、電流がπ/2進んで先に流れる

コンデンサはコイルと正反対です。電圧をかけた瞬間、空っぽの器に水がなだれ込むように、いきなり大きな電流が流れ込みます。そして満タンに近づくにつれて電流は減っていく。つまり、電圧が最大になるより前に、電流のほうが先にピークを迎えるわけです。
だから電流は電圧より (90°)進みます。これが「Cは早出し」です。
コンデンサが電流を妨げる度合いは容量リアクタンス で表します。
分母に があるところが、コイルとの決定的な違いです。
| 変えるもの | XC はどうなる | 電流はどうなる |
|---|---|---|
| 周波数 を上げる | 小さくなる | 流れやすくなる |
| 周波数 を下げる | 大きくなる | 流れにくくなる |
| 直流() | 無限大 | まったく流れない |
コイルとコンデンサは、周波数に対する反応がきれいに逆さまです。この「逆さま」の関係が、後で学ぶ共振の正体になります。
ステップ④:ベクトル図は「電圧を基準」に置いて描く

「遅れ・進み」を言葉だけで覚えようとすると、必ずどこかで裏返ります。そこで使うのがベクトル図です。ルールはたった2つ。
- 電圧 を基準(右向きの矢印)に置く
- 電流の矢印が、そこから上に傾けば進み、下に傾けば遅れ
このルールに当てはめると、3つの部品はこうなります。
| 部品 | 電流の矢印の向き | 読み方 |
|---|---|---|
| R | 電圧と同じ向き(真横) | 同相 |
| L | 電圧から90°下(遅れ側) | 電流が遅れる |
| C | 電圧から90°上(進み側) | 電流が進む |
反時計回りが「進み」の向きだ、と決めておけば、あとは figure を描くだけで答えが出ます。基準をどちらに置くか毎回変えていると混乱するので、電圧を基準に固定するクセをつけてください。
なお、「進み」「遅れ」の符号ルールそのものが怪しいという方は、先に位相と位相差を「+なら進み、−なら遅れ」で一発整理するを読んでおくと、この先がぐっと楽になります。
ステップ⑤:LとCが電流を妨げる量=リアクタンス

ここで、3つの部品の「妨げ方」を一枚の表に並べておきます。試験直前は、この表だけ見直せば十分です。
| 部品 | 妨げる量の名前 | 式 | 電流の位相 | 周波数を上げると |
|---|---|---|---|---|
| 抵抗 R | 抵抗 | 同相 | 変わらない | |
| コイル L | 誘導リアクタンス | π/2 遅れ | 妨げが強くなる | |
| コンデンサ C | 容量リアクタンス | π/2 進み | 妨げが弱くなる |
3つをひとまとめにした「交流回路全体の流れにくさ」がインピーダンス です。
と が引き算になっているのは、両者の向きが真逆(一方は90°上、もう一方は90°下)だからです。単純な足し算にならない理由は、ベクトル図を思い出せば納得できるはずです。
ステップ⑥:なぜπ/2ちょうどなのか

「90°ズレる」と丸暗記している方が多いのですが、理由を知っておくと忘れなくなります。位相差がπ/2になるのは、電圧と電流が「変化のしかた」で結ばれているからです。
コイルは、電流が変化する勢いに応じて電圧が決まります。コンデンサは、電圧が変化する勢いに応じて電流が決まります。どちらも「その瞬間の値」ではなく「変化の速さ」で相手が決まる関係です。
正弦波は、山の頂上で変化が止まり、ゼロを横切るところで変化が最も速くなります。つまり「値が最大の点」と「変化が最大の点」は、必ず90°ずれる。この事実がそのまま位相差π/2の正体です。
波形そのもののイメージが薄い方は、瞬時値・最大値・実効値・平均値を「4つの顔」で一発整理するで正弦波の見方を固めてから戻ってくると、この説明がすっと入ります。
ステップ⑦:実戦クイズ「LとCが直列だとどうなる?」
ここまでを使って、1問考えてみてください。
コイルLとコンデンサCを直列につないだ。回路全体のリアクタンスはどうなるか?
「 と を足す」と答えたくなりますが、違います。答えはこうです。
Lは電流を90°遅らせ、Cは90°進めます。向きが真逆なので、互いに打ち消し合って引き算になります。
- なら、回路全体はコイルらしくふるまう(電流が遅れる/誘導性)
- なら、回路全体はコンデンサらしくふるまう(電流が進む/容量性)
- なら、リアクタンスがゼロになる(これが直列共振)
も も周波数で変わりますから、周波数を変えれば同じ回路が誘導性にも容量性にもなります。このあたりが不安なら、周期と周波数を「1秒間に何回まわるか」で一発理解するで の意味を確認しておくと安全です。
まとめ
長くなりましたが、覚えるべき核は驚くほど小さいです。
| 部品 | 位相 | リアクタンス | 周波数を上げると |
|---|---|---|---|
| R | 同相 | 変化なし | |
| L | 電流がπ/2遅れ | 通しにくくなる | |
| C | 電流がπ/2進み | 通しやすくなる |
Lは電流あと出し、Cは電流早出し
この1行と、上の表。これだけで交流回路の入口は突破できます。インピーダンス、力率、共振、三相交流——この先に出てくるものは全部、ここで作った土台の上に積み上がっていきます。逆に言えば、ここが固まっていない状態で先へ進むと、必ずどこかで崩れます。今日この場で固めてしまいましょう。
ちなみに現場では、この性質がそのまま仕事になっています。工場のモーターは誘導性負荷なので電流が遅れます。そこで電力会社や需要家は力率改善用コンデンサを設置し、進み側の性質で遅れを打ち消しているのです。オーディオのスピーカーネットワークも同じで、高い音を通す・低い音を通すという振り分けは、LとCの周波数特性そのものを利用しています。教科書の中の話ではなく、あなたが働く現場で毎日動いている理屈です。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元は、覚え間違いのパターンがほぼ決まっています。3つだけ挙げておきますので、自分に当てはまっていないか確認してください。
❌ 「Lは遅れ」とだけ覚えている
→ ✅ 遅れるのは電流です。「Lは遅れ」で止めると、本番で「電圧が遅れるんだったか?」と揺れます。実際、コイルでは電圧のほうが電流より進んでいるので、主語を落とすと真逆の答えを選びかねません。暗記フレーズに「電流」を入れているのは、この事故を防ぐためです。
❌ リアクタンスも熱を出す抵抗の一種だと思っている
→ ✅ リアクタンスは熱を出しません。単位がオームで同じなので混同されがちですが、抵抗はエネルギーを熱として消費し、リアクタンスはエネルギーを一時的にためて返すだけです。この違いが分かっていないと、有効電力・無効電力の単元で必ずつまずきます。
❌ 直列のLとCのリアクタンスを足し算してしまう
→ ✅ 引き算です。抵抗の直列は足し算だという直流の感覚を、そのまま持ち込むのが原因です。LとCは位相の向きが真逆——つまり打ち消し合う関係にあることを、ベクトル図で確認するクセをつけてください。 と を足してしまうと、共振という現象そのものが説明できなくなります。
3つとも、根っこは同じです。「大きさ」だけでなく「向き(位相)」まで一緒に扱う。交流はこれに尽きます。
過去問ではこう出た
R・L・Cの位相関係は、単独で問われることもあれば、インピーダンス計算や力率の問題の中に前提として埋め込まれることもあります。実際の出題としては、令和2年 問4でこのテーマが扱われています。
出題のされ方には、だいたい次の傾向があります。
| 出題パターン | 問われ方 |
|---|---|
| 位相そのものを問う | 「電流は電圧に対して進むか遅れるか」を選ばせる |
| 計算問題の前提として | リアクタンスを求めさせ、その上で位相角や力率を計算させる |
| 正誤の組合せ問題 | R・L・Cの性質を並べ、誤っている記述を1つ選ばせる |
厄介なのは3つ目です。選択肢の中に「LとCの遅れ・進みだけを入れ替えた」ものが混ぜてあることがあり、あやふやなまま読むと素通りしてしまいます。選択肢を読むときは、必ず主語が電流か電圧かを指差し確認する——これだけで正答率が変わります。
過去問は読むだけでは身につきません。実際に手を動かして解いてみてください。
よくある質問
Q. 「進み」「遅れ」は、電圧を基準にした言い方ですか?
はい。この単元で「電流が遅れる/進む」と言うときは、電圧を基準にしています。ベクトル図で電圧の矢印を右向きに固定し、電流の矢印がそこからどちらに傾くかを見る、という約束です。まれに電流を基準にした説明もありますが、それだと表現が逆さまになって混乱のもとです。電験の学習では電圧基準に統一しておくのが安全です。
Q. リアクタンスと抵抗は、どちらも単位がオームなら同じものでは?
単位は同じですが、中身はまったく別物です。抵抗はエネルギーを熱として消費して外に捨てますが、リアクタンスは電源からもらったエネルギーを磁界(コイル)や電界(コンデンサ)にため、次の瞬間に電源へ返します。差し引きで消費しないので、熱くなりません。この「返す」性質が、無効電力という考え方につながっていきます。
Q. コイルとコンデンサ、どちらが進みか、どうしても覚えられません
C(コンデンサ)は充電が早い=電流が先に流れ出す=進み、と1本に絞って固定してください。3つ全部を覚えようとするから混ざるのです。Cさえ「進み」と決まれば、Lは自動的に反対の「遅れ」になり、Rは何も起きない「同相」しか残りません。覚えるのはCだけ——これが独学者にとって一番省エネな覚え方です。
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