送電鉄塔の振動を「風と雪のいたずら5兄弟」で攻略
電験三種「電力」科目で毎年のように問われる送電線の振動現象を、微風振動・サブスパン振動・ギャロッピング・スリートジャンプ・コロナ振動の5つに整理して解説。原因を『風で暴れる系』と『雪関連系』に分け、ダンパ・アーマロッド・スペーサ・難着雪リングの4つの対策とセットで覚えられるようにまとめました。
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この記事で身につくこと
「微風振動、サブスパン振動、ギャロッピング、スリートジャンプ、コロナ振動……」
テキストでこの並びを見た瞬間、そっとページを閉じたくなった方。安心してください。ここは電力科目のなかでも、名前だけで難しく見えている単元の代表格です。
実際にやっていることは、こうです。
電線が風や雪で揺れる。困る。だから揺れないように部品を付ける。
たったこれだけ。計算もほとんど出てきません。にもかかわらず点が取れないのは、5つの名前が似ていて、どれがどれだか分からなくなるからです。
逆に言えば、「原因で仕分けるルール」を1つ持てば、この単元はまるごと得点源に変わります。この記事では次の状態を目指します。
| 目指すゴール | 到達点 |
|---|---|
| 5つの振動を切り分ける | 「風で暴れる系」と「雪関連系」に一瞬で分けられる |
| 対策装置を言い分ける | ダンパ・アーマロッド・スペーサ・難着雪リングの役割を混ぜない |
| 引っかけを見抜く | 直感と逆になっている部分(微風振動の3条件など)を覚えている |
暗記量としては、原因5つ・対策4つ。合計たった9個です。1回の学習で十分に片付く量なので、肩の力を抜いていきましょう。

暗記フレーズ:振動は風と雪のいたずら5兄弟
この単元は、次の一行を頭に置いてから読み進めてください。
「振動は風と雪のいたずら5兄弟。原因5つ・対策4つはワンセットで覚える」
ポイントは2つあります。
1つめは「風と雪」。 5つの振動は、突き詰めれば原因が 風 か 雪(氷) かのどちらかに寄っています。名前を丸暗記するのではなく、「これは風の子か、雪の子か」と最初に仕分けるクセをつけると、記憶が一気に軽くなります。
2つめは「ワンセット」。 原因だけ覚えても、試験では対策とペアで問われます。「この振動には、この部品」と対にして覚えておかないと、選択肢で役割を入れ替えられたときに見抜けません。

ステップ1:微風振動 — 弱い風が起こす、いちばん地味な振動
5兄弟の長男は 微風振動 です。名前のとおり、台風のような強い風ではなく、日常的に吹いている弱い風で起こります。

なぜ弱い風で揺れるのか
電線のような丸い棒に風が当たると、その背後に渦ができます。これを カルマン渦 といいます。渦が電線の上下に交互にできることで、電線がゆっくり上下に押され、細かい振動が続きます。
強風で豪快に暴れるのではなく、弱い風でいつまでもチマチマ揺れ続けるのが微風振動の性格です。地味ですが、長く続くぶん金属疲労を招き、断線につながるのが厄介なところです。
起きやすい3条件(ここが引っかけの本命)
微風振動には、発生しやすくなる条件が3つあります。
| 条件 | 起きやすいのは | ひとこと |
|---|---|---|
| 電線の重さ | 軽いほど | 軽いものほど風に押されやすい |
| 径間の長さ | 長いほど | 長い弦ほどよく揺れる |
| 張力 | 大きいほど | ピンと張った弦ほどよく震える |
この3つは、多くの人の日常感覚とズレています。「重いほど揺れそう」「ゆるいほどブラブラ揺れそう」と思ってしまいがちですが、正解は逆です。ギターの弦をイメージしてください。細くて(軽くて)、長くて、ピンと張った弦ほど、よく震えます。あの感覚がそのまま正解です。
ステップ2:サブスパン振動 — 多導体だけに起こる、強風の振動
次男は サブスパン振動。これは条件がはっきりしているので、覚えるのが楽な部類です。

覚えることは、次の2点だけです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 多導体に限る(単導体では起きない) |
| 風の強さ | 10m/sを超えるような、強めの風 |
微風振動が「単導体でも起きる・弱い風」だったのに対し、サブスパン振動は「多導体だけ・強い風」。ちょうど対になっていると思って押さえると、取り違えにくくなります。
なお「サブスパン」とは、多導体に取り付けたスペーサとスペーサの間の区間のこと。この区間ごとに電線が振動するので、この名前が付いています。多導体そのものの構成があいまいな方は、先に〈送電鉄塔の構成を「守る部品の集合体」で攻略〉に目を通しておくと、この後のスペーサの話まで一本の線でつながります。
ステップ3:ギャロッピング — 雪をまとって暴れ出す
三男の ギャロッピング から、いよいよ「雪関連系」に入ります。

電線に雪や氷が付くと、丸かった断面がいびつな形に変わります。そこへ風が当たると、飛行機の翼のように揚力が生まれ、電線が 上下に大きく激しく暴れます。ギャロッピング(gallop=馬が駆ける)という名前のとおり、他の振動とは迫力が違う、派手な現象です。
ここで押さえる順序は、必ず「着雪が先、風が後」です。
着雪・着氷で形が変わる → そこに風が当たる → 上下に大きく暴れる
雪だけでも、風だけでも起きません。両方そろって初めて起こるのがギャロッピングです。この「合わせ技」という性格が、次のスリートジャンプとの区別にそのまま効いてきます。
ステップ4:スリートジャンプ — 雪が落ちた反動で跳ね上がる
四男の スリートジャンプ は、5つのなかで最もイメージしやすい現象です。

電線に積もっていた雪や氷が、あるときドサッと落ちます。重しが急に無くなった電線は、その反動で大きく跳ね上がります。これがスリートジャンプです(スリート=みぞれ)。
枝に積もった雪が落ちて、枝がバインッと跳ね上がる。あの光景そのままだと思ってください。
ギャロッピングとの違いは、次の一点に集約できます。
| 雪の状態 | 風は必要か | |
|---|---|---|
| ギャロッピング | 雪が付いている間 | 必要(風が当たって暴れる) |
| スリートジャンプ | 雪が落ちた瞬間 | 不要(落下の反動だけ) |
「付いているときがギャロッピング、落ちたときがスリートジャンプ」。この一行で区別が付きます。
ステップ5:コロナ振動 — 放電が水滴を弾き飛ばす
五男の コロナ振動 だけは、風でも雪でもありません。原因は コロナ放電 です。

雨の日などに電線に水滴が付いているとき、コロナ放電が起こると、その水滴が弾き飛ばされます。飛んでいった反動で電線が揺れる。これがコロナ振動です。
5兄弟のなかで唯一、気象ではなく電気現象が原因という、はぐれ者のポジションです。「風と雪のいたずら5兄弟」のなかで一人だけ毛色が違うので、かえって覚えやすいでしょう。
ここで一つ注意があります。「コロナ」は本来、振動の名前ではなく放電現象の名前です。試験では、振動の種類を答える空欄に「コロナ」を紛れ込ませる選択肢が出ることがあります。コロナ振動という現象は確かに存在しますが、「振動の代表例を挙げよ」という文脈で反射的にコロナを選ぶと、足をすくわれます。
ステップ6:対策4つ — 「吸収・補強・すき間・雪落とし」
ここからは対策側です。装置は4つ。それぞれやっている仕事がまったく違うので、そこさえ区別できれば混ざりません。

ダンパとアーマロッド — 混同ナンバーワンのペア
この2つは必ずセットで問われ、そして必ず役割を入れ替えられます。
| 装置 | 役割 | 一言で |
|---|---|---|
| ダンパ | 振動のエネルギーを吸収する制振装置 | 吸収する |
| アーマロッド | 電線に巻きつけて断線を防ぐ補強材 | 補強する |
覚え方はシンプルに、「吸収するダンパ・補強するアーマロッド」。
ダンパは「ダンピング(減衰)」から来ている名前なので、揺れを抑える=吸収。アーマロッドは「アーマー(鎧)+ロッド(棒)」で、電線に鎧を着せて守る=補強。名前の由来まで押さえておくと、本番でど忘れしても導き出せます。
スペーサ — 振動を止める装置ではない
スペーサの目的は、多導体の 電線どうしが接触するのを防ぐ ことです。「スペース(すき間)を保つ部品」と読めば、そのまま意味が分かります。
ここを「スペーサ=振動対策の装置」と丸ごと覚えてしまうと、目的を問う問題で外します。振動の場面によく一緒に出てくるだけで、本来の仕事は接触防止である、と区別しておきましょう。
難着雪リング — 雪を滑らせて落とす
難着雪リングは、電線に沿って 雪を滑らせて落とす 仕組みの部品です。そもそも雪を積もらせなければ、雪が原因の振動は起こりません。
したがって、この一つで ギャロッピングとスリートジャンプの両方 の予防になります。「雪関連系の2つをまとめて面倒みる装置」と覚えておくと、対策を選ぶ問題で迷いません。
ステップ7:現場ではどう考えているか
試験には直接出ませんが、知っておくと理解が深まる話をひとつ。
微風振動の3条件(軽い・長い・大きい張力)は、そのまま設計の注意事項になっています。実務では送電線を設計する段階で、この3つが重ならないように調整します。「なぜ試験でこの3条件ばかり問われるのか」と思っていた方も、現場で本当に気にしている数字だと分かれば、覚える気になるのではないでしょうか。
ちなみに、電線の重さ・長さ・張力といった性質は、送電線の電気的な性質(線路定数)とも地続きの話です。このあたりを体系で捉えたい方は、〈線路定数を「送電線の生まれつきの体質」で攻略〉も合わせて読むと、送電線という設備の全体像が立ち上がってきます。
まとめ
5兄弟と対策を、一枚の表にまとめます。ここだけ切り取って、試験直前に見返してください。
| 振動 | 系統 | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 微風振動 | 風 | 弱い風+カルマン渦 | 細かく揺れ続ける。軽い・長い・張力大で起きやすい |
| サブスパン振動 | 風 | 10m/s超の強い風 | 多導体限定 |
| ギャロッピング | 雪 | 着雪・着氷 +風 | 上下に大きく暴れる |
| スリートジャンプ | 雪 | 着雪の落下の反動 | 跳ね上がる |
| コロナ振動 | (電気) | コロナ放電+水滴 | 水滴が弾かれた反動 |
| 対策 | 役割 | 主な相手 |
|---|---|---|
| ダンパ | 振動エネルギーを吸収 | 微風振動 |
| アーマロッド | 電線を補強して断線を防ぐ | 微風振動 |
| スペーサ | 多導体の接触防止(振動対策が目的ではない) | 多導体 |
| 難着雪リング | 雪を滑らせて落とす | ギャロッピング・スリートジャンプ |
「振動は風と雪のいたずら5兄弟。原因5つ・対策4つはワンセットで覚える」
この2つの表と1つのフレーズ。それだけで、この単元の出題範囲はほぼ覆えます。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元の失点は、ほとんどが決まった3か所で起きます。あらかじめ知っておくだけで防げますので、ここは丁寧に確認してください。
❌「ギャロッピングは大きい現象だから、多導体では起きにくいはず」
→ ✅ ギャロッピングは多導体で発生しやすい 現象です。
「あんなに激しく暴れる現象なら、電線が何本も束ねてある頑丈な多導体では起きにくいだろう」——この直感が罠です。選択肢に「多導体では発生しにくい」という一文が混ぜてあると、それらしく読めてしまいます。多導体=頑丈=起きにくい、という連想は捨ててください。
❌「電線は重いほど、張力がゆるいほど揺れやすいはず」
→ ✅ 微風振動は 軽い・長い・張力が大きい ほど起きやすい。
洗濯物のロープを思い浮かべると「ゆるい方がブラブラ揺れる」と感じますが、電線の微風振動はそうではありません。ギターの弦のイメージに置き換えるのが確実です。細くて長くてピンと張った弦ほどよく震える。この置き換えを本番で思い出せるかどうかが、そのまま1点になります。
❌「振動の代表例? ならコロナも入れておこう」
→ ✅ 「コロナ」単体は放電現象の名前であり、振動の種類を答える欄に入れる語ではありません。
コロナ振動という現象は存在しますが、空欄に入れるべき語が振動名なのか放電名なのかを、問題文で必ず確認してください。似た罠として、ダンパとアーマロッドの役割を入れ替えた選択肢も定番です。「吸収か、補強か」を頭の中で一度声に出してから選ぶ習慣をつけると、ここは確実に守れます。
過去問ではこう出た
この単元は、電力科目のなかでも出題頻度が高い部類です。実際に、次のような形で繰り返し問われています。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成27年 | 問8 |
| 令和4年 上期 | 問10 |
| 令和6年 上期 | 問8 |
| 令和7年 上期 | 問12 |
| 令和7年 下期 | 問11 |
| 令和8年 上期 | 問8/問9/問16 |
傾向として目立つのは、次の2点です。
ひとつは、5つの振動の名前と原因を突き合わせる空欄補充。もうひとつは、対策装置の役割を入れ替えた誤りの選択肢です。つまり、この記事で扱った「原因の仕分け」と「装置の役割」を押さえておけば、出題の大半はカバーできます。
なお、令和8年上期では問8・問9・問16と複数箇所で関連する内容が問われています。テーマ語で照合した範囲では、電験ジムの収録問題のうち 59問 がこの単元に関係します。名前を覚えただけで止めず、実際の選択肢の言い回しに慣れておくことを強くおすすめします。
よくある質問
Q. 5つの振動、名前を全部覚えないとダメですか?
はい、5つとも名前で問われます。ただし、丸暗記する必要はありません。「風で暴れる系(微風振動・サブスパン振動)」「雪関連系(ギャロッピング・スリートジャンプ)」「電気が原因(コロナ振動)」 の3グループに分けてしまえば、思い出す負担は大きく減ります。
試験中に名前が出てこなくなったら、「これは風の話か、雪の話か」と自分に問いかけてください。グループさえ絞れれば、残りは2択です。
Q. ダンパとアーマロッドは、いつも両方付けるものですか?
両方とも微風振動への備えですが、狙っているものが違います。
| 狙い | |
|---|---|
| ダンパ | 揺れそのものを小さくする(原因側への対処) |
| アーマロッド | 揺れても電線が切れないようにする(結果側への備え) |
試験対策としては、「どちらが振動を吸収するか」「どちらが電線を補強するか」の2点さえ即答できれば十分です。併用の可否そのものが単独で問われることは、まずありません。
Q. スペーサは多導体に付けるのに、そのスペーサの間でサブスパン振動が起きるのは矛盾しませんか?
矛盾しません。ここはスペーサの目的を取り違えると混乱するところです。
スペーサは、多導体の電線どうしがぶつからないようすき間を保つための部品であって、振動を止めるための装置ではありません。すき間は保たれていても、スペーサとスペーサに挟まれた区間(=サブスパン)では電線が自由に動けるので、そこに強い風が当たれば振動します。
「スペーサは接触を防ぐ係であって、振動を止める係ではない」。この一線を引いておけば、混乱しなくなります。
Q. 電線が揺れるだけで、そんなに困るものですか?
困ります。振動が続けば金属疲労で断線に至りますし、ギャロッピングやスリートジャンプで電線が大きく動けば、上下の電線どうしが接触して短絡(ショート)します。停電の原因になるわけです。
送電線は、ただ電気を流しているだけの線ではありません。無負荷でも電流が流れているという話に驚いた方は、〈充電電流を「無負荷でも生きている送電線」で攻略〉も読んでみてください。「ただの電線」という印象が変わり、こうした対策が必要な理由が腹落ちするはずです。
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