送電鉄塔の構成を「守る部品の集合体」で攻略
電験三種「電力」科目で出題される送電鉄塔の部品を、丸暗記ではなく『何から何を守るための部品か』という役割の分担で整理して解説。がいし・架空地線・埋設地線・アークホーン・ダンパ・アーマロッド・クランプ・ジャンパ線の違いと、フラッシオーバ/逆フラッシオーバの向きまで一気に区別できるようになる1記事です。
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この記事で身につくこと
送電鉄塔の勉強に入ると、いきなりカタカナと漢字が10個ほど並びます。がいし、架空地線、埋設地線、アークホーン、ダンパ、クランプ、ジャンパ線、アーマロッド……。テキストを開いて「これ全部覚えるのか」とページを閉じた経験、ありませんか。
でも、安心してください。この単元は覚える量が多いだけで、理屈はひとつも難しくありません。難しくないのに落としてしまうのは、部品を「名前の羅列」として覚えようとしているからです。
この記事では、10個の部品を名前順ではなく「何から、何を守っているか」という役割の順に並べ直します。並べ替えるだけで、いままで混ざっていた架空地線と埋設地線、アークホーンとアーマロッドが、きれいに別々の引き出しに入ります。
- 鉄塔の部品を「上・下・横」の3方向で整理できるようになる
- 架空地線と埋設地線を、二度と取り違えなくなる
- フラッシオーバと逆フラッシオーバを、電流の向きで言い分けられるようになる
- アークホーンとアーマロッドを、守る対象の違いで区別できるようになる
- 微風振動とダンパの関係を、原因から説明できるようになる

暗記フレーズ:鉄塔は守る部品の集合体
まず、この一文を口に出して読んでみてください。
鉄塔は「守る部品」の集合体。上は雷から、下は振動から、横はがいしで絶縁!
この一文が、10個の部品を並べる棚になります。棚さえ用意しておけば、あとは覚えた部品を上か下か横に放り込むだけです。
| 方向 | 何から守るか | 代表的な部品 |
|---|---|---|
| 上 | 雷 | 架空地線、アークホーン、埋設地線(足元だが役割は雷対策) |
| 下 | 振動・断線 | ダンパ、アーマロッド |
| 横 | 電圧(絶縁) | がいし(懸垂がいし・長幹がいし)、クランプ、ジャンパ線 |

ステップ1:架空地線と埋設地線は「位置が真逆」
この単元でいちばん多い取り違えが、名前の似たこの2つです。どちらも「地線」と付くので混ざるのですが、居場所を思い出せば一発で区別できます。

| 項目 | 架空地線 | 埋設地線 |
|---|---|---|
| 位置 | 鉄塔の最上部 | 鉄塔の足元の地中 |
| 役割 | 送電線への直撃雷を身代わりに受ける | 鉄塔の接地抵抗を下げる |
| ねらい | 電線に雷を当てさせない | 雷電流を大地へスムーズに逃がす |
架空地線は、いちばん高いところで手を挙げて「雷はこっちに落ちてくれ」と引き受ける役です。いっぽう埋設地線は、受けた雷電流を地面に流し込むための出口を広げる役。上で受けて、下で逃がす。この一連の流れで覚えると、もう混ざりません。
ステップ2:フラッシオーバと逆フラッシオーバは「矢印の向き」
次のヤマ場が、この2つです。名前に「逆」が付いているのだから何かが逆なのですが、何が逆なのかを説明できる人は意外と少ないところです。逆なのは、電流が流れる向きです。

| 項目 | フラッシオーバ | 逆フラッシオーバ |
|---|---|---|
| 電流の向き | 電線 → がいし → 鉄塔 → 大地 | 鉄塔 → がいし → 送電線 |
| 原因 | 送電線側に生じた異常電圧 | 鉄塔・架空地線への直撃雷 |
| 対策の主役 | がいしの絶縁強化、アークホーン | 埋設地線で接地抵抗を下げる |
普通のフラッシオーバは、電線のほうが高い電圧になったので鉄塔側へ飛ぶ。逆フラッシオーバは、鉄塔に雷が落ちて鉄塔のほうが高い電位になったので電線側へ飛ぶ。電位が高いほうから低いほうへ飛ぶという当たり前のことを思い出せば、向きは毎回その場で導けます。丸暗記しなくていいのは、この単元でいちばんうれしいところです。
そして、ここで埋設地線が効いてきます。鉄塔に雷が落ちたとき、接地抵抗が大きいと鉄塔の電位が跳ね上がって逆フラッシオーバに至ります。だから足元の地中に地線を埋めて抵抗を下げておく——ステップ1の話が、そのままここにつながります。
ステップ3:アークホーンは「がいし本体」を守る
放電が起きること自体を、送電線路は完全には防げません。そこで発想を変えて、起きるならせめて壊れてほしくない場所を避けて起こさせるという設計をします。それがアークホーンです。

がいし連の両端に角(ホーン)を突き出しておくと、放電はいちばん飛びやすいホーンとホーンの間で起こります。がいしの磁器部分を直接アークが焼くことがなくなり、がいしは無傷で残る、という仕組みです。
放電を「止める」のではなく「行き先を決めてやる」。これがアークホーンの発想です。
ステップ4:微風振動とダンパ——「そよ風」が電線を切る
雷の話が終わったら、次は「下」、つまり振動の話です。ここで意外に思われるのが、電線を疲れさせるのは強風ではなく、そよ風だという点です。

電線に毎秒数メートル程度のゆるやかな風が当たると、電線の背後に渦(カルマン渦)が交互にできます。この渦が電線を上下に揺すり、電線の固有振動と合ってしまうと、小さな揺れがずっと続きます。これが微風振動です。
厄介なのは、揺れそのものではなく、その揺れが電線を鉄塔に留めている支持点に集中することです。何万回、何十万回と曲げられた金属は、いつか折れます。金属を同じ場所で何度も曲げると折れる、あの現象(疲労)がそのまま起きるわけです。
その対策が、電線に取り付ける重り状の部品、ダンパです。振動のエネルギーを吸い取って、揺れを続かせません。
なお、電線そのものの構造(1相を何本の電線で構成するか)によっても振動やコロナのふるまいは変わります。このあたりが怪しいと感じたら、先に〈多導体方式を「太さを分割でごまかす裏ワザ」で攻略〉に目を通しておくと、ダンパやスペーサの話がすっと入ってきます。
ステップ5:アーマロッドは「電線そのもの」を守る鎧
ダンパで揺れを減らしても、支持点付近の電線には力が集中します。そこで、その部分の電線に金属の細い棒をらせん状に巻きつけて補強します。これがアーマロッドです。

名前のとおり「アーマー(鎧)」で、電線に鎧を着せるイメージです。振動による疲労を分散させるだけでなく、アークが飛んだときに電線が溶けて細るのも肩代わりしてくれます。
ここで、先ほどのアークホーンと並べて整理しておきましょう。名前が似ていて混ざるのは、守っている対象が違うことを見落としているからです。
| 部品 | 取り付け場所 | 守る対象 | 何から守るか |
|---|---|---|---|
| アークホーン | がいし連の両端 | がいし本体 | 放電(アーク)の熱 |
| アーマロッド | 電線の支持点付近 | 電線そのもの | 振動による疲労・アーク |
ステップ6:がいしの「ひだ」には意味がある
「横は、がいしで絶縁」の部分です。がいしは電線を鉄塔から電気的に切り離しつつ、機械的にはしっかり支えるという、二役をこなす部品です。

代表格が懸垂がいしで、皿のような形のがいしを必要な枚数だけつないで使います。電圧が高いほど枚数が増える、という素直な関係です。棒状の長幹がいしもあり、こちらはつなぎ目が少ないぶん汚れに強いという特徴があります。
あの細かい「ひだ」も飾りではなく、次の2つの仕事をしています。
| ひだの働き | 内容 |
|---|---|
| 雨洗効果 | 雨が表面を流れて、付着した塩分やほこりを洗い落とす |
| 沿面距離を稼ぐ | 表面をたどった距離が長くなり、漏れ電流が流れにくくなる |
海の近くでは、この2つが効かないと表面に塩分がたまり、そこを伝って電気が流れてしまいます。これが塩害です。だから海沿いでは、ひだの深いがいしを使ったり、枚数を増やしたり、定期的に洗浄したりします。
ステップ7:クランプとジャンパ線——「留める」と「つなぐ」
最後は、電線を鉄塔に取り付ける金具まわりです。ここは機械的な仕事と電気的な仕事を分けて考えると、あっさり片付きます。
| 部品 | 仕事の種類 | 内容 |
|---|---|---|
| クランプ | 機械的 | 電線を握って固定する。重さと張力を受け持つ |
| ジャンパ線 | 電気的 | 途切れた電線どうしを渡してつなぐ。張力は負担しない |
電線をぐっと引っ張って留める鉄塔(耐張鉄塔)では、電線がいったんそこで切れます。切れたままでは電気が先に進めないので、鉄塔の手前と先を短い電線でつなぎ直します。これがジャンパ線です。力を受け持つのがクランプ、電気を通すのがジャンパ線。役割分担がはっきりしているぶん、覚えやすいところです。
この「1本の線が実際には何本で構成され、図の上ではどう描かれるか」がまだ曖昧な人は、〈単線図と複線図を「ホンモノ図とマトメ図」で攻略〉を先に読んでおくと、鉄塔の図面が読みやすくなります。
ステップ8:実力試し——「何を守る部品か」で言えるか
ここまで来たら、名前を見て守る対象を即答できるかを試してみてください。これが言えれば、この単元は合格ラインです。
| 部品 | 何から | 何を守る |
|---|---|---|
| 架空地線 | 雷 | 送電線(身代わりに受ける) |
| 埋設地線 | 雷 | 鉄塔(電位上昇=逆フラッシオーバを防ぐ) |
| アークホーン | アーク | がいし本体 |
| ダンパ | 微風振動 | 電線(揺れを吸収する) |
| アーマロッド | 振動・アーク | 電線そのもの(鎧を着せる) |
| がいし | 電圧 | 鉄塔(電線と絶縁する) |
| クランプ | 張力 | 支持点(機械的に固定する) |
架空送電線路そのものの全体像が薄いままだと、この表も暗記に戻ってしまいます。心当たりのある人は、〈架空送電線路を「弱点をぜんぶ裏返した2本の線」で攻略〉で土台をならしてから戻ってくると、驚くほど頭に残ります。
まとめ
送電鉄塔の部品は、名前を10個覚える単元ではありません。「上は雷から、下は振動から、横はがいしで絶縁」という3つの箱に放り込む単元です。
| 箱 | 部品 | ひとことで |
|---|---|---|
| 上(雷) | 架空地線 | 最上部で直撃雷を身代わりに受ける |
| 上(雷) | 埋設地線 | 足元の地中で接地抵抗を下げる |
| 上(雷) | アークホーン | 放電をホーン間に誘導してがいしを守る |
| 下(振動) | ダンパ | 振動エネルギーを吸収する |
| 下(振動) | アーマロッド | 電線に巻いて断線から守る |
| 横(絶縁) | 懸垂がいし・長幹がいし | 電線を鉄塔から絶縁して支える |
| 横(固定) | クランプ | 機械的に握って固定する |
| 横(接続) | ジャンパ線 | 電気的につなぎ直す |
最初にページを閉じたくなった10個の名前が、いまは3つの箱に収まっているはずです。苦手だったのではなく、並べ方を知らなかっただけ。この単元は、そういう性格の単元です。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元は素直な内容なのに、選択肢の一行に引っかかって落とす人が多いところです。特に狙われる3つを挙げておきます。
❌ 「がいしは内部で絶縁破壊するように作られている」と思ってしまう ✅ 逆です。がいしは、破壊が起きるなら表面(外側)で起こるように設計されています。理由は単純で、内部の磁器が割れてしまうと直しようがなく、その一枚は完全に使えなくなるからです。表面で飛んでくれれば、雷が去った後もがいし自体は使い続けられます。アークホーンで放電をホーン間に誘導するのも、この「外で起こさせる」という同じ考え方の延長です。内部で壊す設計にする理由はどこにもない、と押さえてください。
❌ 「ダンパと名の付くものは、着雪も防いでくれる」と思ってしまう ✅ ダンパの仕事は振動を抑えることであって、雪を付きにくくすることではありません。特にトーショナルダンパは、電線がねじれる向きの振動を抑えるための部品です。着雪やギャロッピングへの対策は別の部品の担当で、難着雪リングや相間スペーサがその役を持ちます。「ダンパ=振動対策」まで分かっている人ほど、雪の話が出たときに勢いで丸を付けてしまいがちです。雪と聞いたら、ダンパから手を離す。これだけで1点変わります。
❌ 「アークホーンとアーマロッド、どっちも電線を守る部品でしょ」と思ってしまう ✅ 守る対象が違います。アークホーンが守るのはがいし本体、アーマロッドが守るのは電線そのものです。取り付け場所を思い出すのが確実で、がいしの端に付いていればがいしを守る側、電線に巻きついていれば電線を守る側です。
過去問ではこう出た
送電鉄塔の構成は、電力科目でくり返し出ている定番テーマです。実際の出題を年度で並べると、次のようになります。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和7年上期 | 問8、問12 |
| 令和7年下期 | 問11 |
| 令和5年下期 | 問8 |
| 令和4年下期 | 問8 |
| 令和1年 | 問9 |
| 平成28年 | 問16 |
| 平成27年 | 問17 |
問8前後のA問題に、ほぼ毎年のように顔を出しているのが分かります。出題の形は、部品の名前と役割を組み合わせた正誤問題が中心です。「〜は〜のために取り付ける」という一文の、後半だけがすり替えられている——という作りが定番なので、部品名を見た瞬間に「守る対象」を思い出せるかどうかで勝負が決まります。平成28年問16のようにB問題側で問われた年もあり、暗記だけでなく理由まで答えられる状態にしておくと安全です。
なお、このテーマで照合できる過去問は、電験ジムの収録範囲だけで65問あります。名前と役割の対応は、読むより解くほうが圧倒的に速く定着します。
よくある質問
Q. 架空地線があるのに、なぜ埋設地線も必要なのですか?
架空地線は雷を「受ける」係で、そこから先の「逃がす」係は別に必要だからです。架空地線が雷を受け止めても、鉄塔から大地へ流れる道の抵抗(接地抵抗)が大きいままだと、鉄塔の電位が一気に持ち上がります。そうなると鉄塔側のほうが電線より高い電位になり、鉄塔から電線へ放電する逆フラッシオーバが起きてしまいます。埋設地線は、その出口を広げて電位の跳ね上がりを抑える部品です。受ける係と逃がす係、両方そろって初めて雷対策になると考えてください。
Q. 微風振動は「そよ風」で起きるのに、なぜ強い風のほうが安全なのですか?
風が強ければ電線は大きく揺れますが、それは不規則な揺れで、同じリズムが続きません。微風振動が怖いのは、ゆるやかな風がきれいな周期の渦(カルマン渦)を作り、電線の揺れやすい周期とぴったり合ってしまうからです。同じ場所が同じリズムで何十万回も曲げられ、金属が疲れて折れます。大きさより回数が効く、というのがこの現象の本質です。
Q. 部品の名前がどうしても頭に入りません。何から手を付ければいいですか?
名前から入らないことです。まず「上は雷、下は振動、横は絶縁」の3つの箱だけを覚えてしまってください。箱が3つしかないので、これは今日じゅうに覚えられます。そのうえで、部品名を見たら「これはどの箱か」だけを答える練習をします。箱が言えるようになると、不思議なことに名前のほうが後から付いてきます。10個を平らに並べて覚えようとするから苦しいのであって、3つに束ねれば急に軽くなる——この単元は、そういう構造をしています。
Q. OPGWという言葉を見かけましたが、覚える必要はありますか?
名前と正体だけ知っていれば十分です。OPGWは光ファイバを内蔵した架空地線で、雷を受ける本来の役目に加えて、通信回線としても使われています。光は電気ではないので、送電線のそばを通っても電磁誘導の影響を受けないという利点があります。試験で深追いされることは多くありませんが、「架空地線が通信も担っている」という事実を知っておくと、架空地線という部品そのものが記憶に残りやすくなります。
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