合格後の進み方(全3回・第1回)
電験三種に受かったのに、選任されない ── なぜ、そこで止まるのか
受かったのに何も変わらなかった。その原因はあなたの実力ではなく、制度の形にあります。まず、その形を見てください。
2026年8月24日 公開 / 2026年8月28日 更新
電験三種に受かった。
それなのに、職場では何も変わらなかった。選任もされないし、電気の仕事が回ってくるわけでもない。
「この資格、取る意味あったのかな」
そう思っている方に向けて書いています。結論から書くと、意味はあります。ただし、止まっている場所が悪いだけです。
しかも、その場所で止まっているのは、あなたのせいではありません。制度の形が、そうなっているからです。この記事では、その形を先に見てもらいます。形が分かると、出口も分かります。
合格者が止まる「出口のない輪」
電験三種に受かった人が止まるのは、だいたい同じ場所です。順番に見ていきます。
① 受かった。でも選任されない
職場に高圧の設備がない。あるけれど、すでに別の人が選任されている。あるいは、外部に委託していて、そもそも社内に選任者がいない。
どれも、あなたの実力とは関係のない理由です。
② だから、実務経験にならない
電気管理技術者として独立するには、決められた年数の実務経験が要ります。そして、何を実務経験と数えるかは、制度で決まっています。
高圧の設備に関わっていない仕事は、何年やっても1日も数えられません。
③ 独立するには、証明が要る
年数を満たしたとしても、それだけでは足りません。「実務経歴証明書」という書類に、勤務先の名前で証明してもらう必要があります。
自分で「5年やりました」と書いても通りません。会社の証明が要ります。
④ でも、「独立したいので」とは言いにくい
ここで、多くの人が止まります。
会社にとって、社員の独立は困る話です。若いうちに育てて、中堅以降にその分を回収する、というのが会社の基本的な考え方だからです。だから、渋い顔をされます。相手が悪い人だから、ではありません。
⑤ 言えないから、選任もされない
そして①に戻ります。輪になっています。
独立している人の4人に3人は、第三種です
「独立するなら二種以上でないと無理でしょう」
そう思っている方が多いのですが、数字は逆を示しています。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 電気管理技術者のうち、第三種の免状の人 | 4,281人 / 5,577人 = 76.8% |
| 電気管理技術者の総数(協会に所属している人) | 約5,556人 |
| 受託件数の合計 | 約194,039件 |
| 1人あたりの平均受託件数 | 34.9件 |
出典:経済産業省・全国電気管理技術者協会連合会の公表資料(平成30〜31年時点)
独立している人の4人に3人は、あなたと同じ第三種です。上位の資格を持っているかどうかは、独立の条件ではありません。
壁は、資格ではなく、実務経験の証明のほうにあります。
なお、この数字は協会に所属している人の集計です。協会に入らずに個人でやっている人の実数は、公表資料では確認できませんでした。
急いだほうがいい理由があります
これは、いちばんお伝えしたい数字です。
| 年度 | 第三種の免状取得者(年間) |
|---|---|
| 令和4年度まで | 5,000人台 |
| 令和5年度以降 | 約10,900人 |
出典:経済産業省の公表資料(令和6年時点)
試験が年2回になったことで、合格者が一気に増えました。
ここで言う「急ぐ」は、転職することではありません。今日から無料でできることが、いくつもあります。この記事の最後に書きます。
「人手不足だからチャンス」とは書きません
独立をすすめる記事では、よく「主任技術者が足りないから今がチャンス」と書かれています。この記事では、それを書きません。国の最新の見通しが、正反対だからです。
令和12年度までに不足が生じないと見込んでいる
── 経済産業省の公表資料(令和8年2月時点)
「◯年に◯千人不足する」という数字は、古い予測が独り歩きしていることが多いです。最新の資料をあたると、見通しは変わっています。
電力の需要についても、正確に見ておきます。
| 項目 | 実際の数字 |
|---|---|
| 全国の電力需要(2026年度) | 前年度比 +0.5%(急増ではありません) |
| データセンターの新増設に伴う需要 | 2025年度 47万kW → 2034年度 616万kW |
| 半導体工場の新増設 | 2034年度 99万kW |
| 合計(2034年度) | 715万kW ぶんの設備が増える見込み |
出典:電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2026年度)」2026年1月公表
引き継ぎの機会は、これから生まれ続けます
| 事実 | 数字 | 時点 |
|---|---|---|
| 電気管理技術者協会の会員は、71歳以上が半数近く | — | 令和6年 |
| 太陽光発電設備の外部委託件数 | 約14,000件 → 約32,000件(2倍超) | 平成27年→令和6年 |
| 外部委託が使われている割合 | 約9割で安定 | 令和6年 |
| 受託先の約2/3 | 保安協会・電気管理技術者協会 | 令和6年 |
出典:経済産業省・全国電気管理技術者協会連合会の公表資料
この4つを並べると、業界の形が見えてきます。
- 仕事の入口は「外部委託」で固まっています(9割)。だから独立の型は「電気管理技術者」になります
- 太陽光の案件が10年で2倍を超えました
- 見ている人の半数近くが71歳以上です。引き継ぎは、これから続けて発生します
ただし「席が空くから入れる」という単純な話ではありません。受託の2/3は協会と保安協会が持っています。個人が入るには、入口の確保が要ります。
輪から出る道は、4本あります
冒頭の輪に戻ります。出口は、ちゃんとあります。
| 道 | 内容 |
|---|---|
| ① 年数を短くする | 講習・訓練・設備の条件で、5年が最短1年になります |
| ② 選任されなくても数える | 選任者の下で常駐する/補助者になる/工事で数える |
| ③ 証明のもらい方を変える | 頼む相手・頼む順番・添える資料を変える |
| ④ 小さく始めて広げる | 先に小規模設備で開業し、働きながら対象を広げる(国が認めています) |
よくある3つの誤解
最後に、この分野でとくに多い誤解を3つ、正しておきます。
誤解①「二種を取らないと独立できない」
先ほど見たとおり、独立している人の76.8%は第三種です。そして、必要な実務経験の年数も、保安管理業務講習を受けてしまえば三種と二種で同じになります(どちらも3年)。
「独立のために二種を取る」よりも、「講習を受けて年数を縮める」ほうが、目的に対しては近道です。
誤解②「資格を取れば、会社が選任してくれる」
会社が選任するかどうかは、あなたの資格ではなく、その事業場に選任の枠があるかどうかで決まります。すでに選任者がいれば、席は空きません。外部に委託していれば、そもそも社内に席がありません。
ただし、あきらめる前に確認してほしいことがあります。選任されなくても、選任者の下でその事業場に常駐していれば、期間はそのまま数えられます。この点は第2回で詳しく書きます。
誤解③「実務経験さえ積めば、あとは手続きだけ」
ここがいちばん危険な誤解です。年数を満たしても、勤務先が実務経歴証明書に証明してくれなければ、独立の申請はできません。
そして、その依頼をする相手は、あなたが辞めることで困る側です。年数を積むことと、証明をもらうことは、別の課題として準備する必要があります。
今日からできること
お金も転職も要りません。
| # | やること |
|---|---|
| 1 | 自分の仕事が実務経験に当たるか確かめる(第2回) |
| 2 | 自分に必要な年数を計算する(第3回) |
| 3 | 在職中の方は、書類の控えを取りはじめる |
3について、少しだけ先に書いておきます。
保安規程、点検記録、単線結線図、主任技術者の選任・交代の届出の控え。これらは、証明をもらう日に必要になります。
よくある質問
Q. 電験三種に受かっても選任されないのは、なぜですか。
選任は資格ではなく、その事業場に選任の枠があるかどうかで決まります。すでに選任者がいれば席は空きませんし、外部に委託していれば社内に席そのものがありません。
Q. 独立するには第二種が必要ですか。
必要ありません。電気管理技術者として独立している方の76.8%は第三種です。また、保安管理業務講習を受ければ、必要な実務経験の年数は第三種も第二種も同じになります。
Q. 選任されないと、実務経験は積めませんか。
いいえ。選任された方の下でその事業場に常駐していれば、期間はそのまま数えられます。ほかに、電気管理技術者の補助者として積む道、電気工事業者として積む道もあります。
Q. 実務経験の年数さえ満たせば独立できますか。
できません。年数を満たしても、勤務先が実務経歴証明書に証明してくれなければ申請できません。年数を積むことと、証明をもらうことは別の課題です。
Q. 在職中の今、やっておくことはありますか。
保安規程、点検記録、単線結線図、主任技術者の選任・交代の届出の控えを集めておいてください。辞めてからでは、まず手に入りません。
次は、あなたの仕事がそもそも実務経験に当たるのかを確かめます。ここが×だと、年数の計算に意味がなくなります。
この記事の内容は2026年8月時点で確認したものです。制度は改正されます。 最終的な判断は産業保安監督部が行います。手続きの前に必ずご確認ください。