直流電動機のトルクと出力|ωT=EaIa『最強の等式』で機械が解ける
電験三種「機械」科目で頻出の直流電動機。トルクは『電機子電流Iaに比例』、出力は『ωT=EaIa』というたった2行で、機械式アプローチと電気式アプローチを自在に行き来できるようになる解説記事。複雑な計算問題も、この最強の等式に立ち返れば必ず糸口が見つかります。
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この記事で身につくこと
直流電動機の計算問題を前にして、「T の式と Po の式、どっちを使えばいいんだ……」と手が止まった経験はありませんか。公式集には T=K₂ΦIa、Po=ωT、Po=EaIa と3つも並んでいて、どれが本命なのか分からない。これが直流電動機でつまずく人のほぼ全員が通る道です。
でも安心してください。この単元は、覚えることが実質2つしかない、機械科目のなかでもかなり親切な分野です。
| 覚えること | 中身 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ① トルク | T = K₂ΦIa | トルクは電機子電流に比例する |
| ② 出力 | Po = ωT = Ea Ia | 出力は「力×スピード」、それが電力とも等しい |
しかも②の後半、ωT = Ea Ia という一行が、機械の世界(回転数・トルク)と電気の世界(電圧・電流)を橋渡ししてくれます。問題文が「回転数は毎分1200min⁻¹」と言ってきても、「端子電圧は200V、電流は50A」と言ってきても、この橋を渡れば同じ答えにたどり着ける。だから丸暗記が要らないのです。
この記事を読み終えるころには、複雑そうに見える計算問題も「与えられた条件を、この2本の式に翻訳するだけ」に見えてきます。一緒に整理していきましょう。
暗記フレーズ:トルクはIa比例、出力はωT=EaIa
試験会場に持っていくのは、この一行だけで十分です。
トルクはIa比例、出力はωT=EaIa
前半の「トルクはIa比例」で、トルクを聞かれたら電機子電流を探す、という反射が生まれます。後半の「出力はωT=EaIa」で、機械側と電気側のどちらからでも出力を計算できるようになります。
問題文で手が止まったら、まずこのフレーズに戻ってください。ほぼ必ず、方程式の組み立て方が見えてきます。
ステップ1:トルクと出力は、そもそも役割が違う

まず、この2つを混同しないところから始めます。
| トルク T | 出力 Po | |
|---|---|---|
| 意味 | どれだけ回す力があるか | どれだけ仕事をするか |
| 単位 | N・m | W |
| イメージ | 重い荷物を動かせる強さ | 動かし続けて生む成果 |
| 関わる量 | 電機子電流Ia、磁束Φ | トルクT、回転数N(=Ea、Ia) |
トルクが強くても、まったく回らなければ仕事はゼロです。逆に猛烈に速く回っても、力がスカスカなら大した仕事はできません。出力は、この2つが揃ってはじめて生まれる——ここを押さえるだけで、後の式がすんなり入ってきます。
ステップ2:トルクは「電流→磁束→回す力」の3ステップで生まれる

トルクがどこから生まれるのか、流れで見ておきましょう。
- 電流が増える … 電機子電流Iaをモーター内部に多く流し込む
- 磁束が増える … 電流によって磁界が起こり、内部の磁束が強くなる
- 回す力が増える … 結果として、軸を回すトルクが大きくなる
トルクを生み出す源泉は、シンプルに「流し込んだ電気の量」に直結している。
この一文が、今日いちばんのキモです。難しい式を追う前に、電気をたくさん流せば、そのぶん力強く回るという当たり前の感覚を先に持っておくと、後の公式が「知っていることの確認」に変わります。
ステップ3:トルクの公式は、定数をひとまとめにすれば怖くない

教科書に載っているトルクの式は、正直ちょっとギョッとします。
左側だけ見ると文字だらけですが、落ち着いて中身を分けてみてください。
| 部分 | 中身 | 性質 |
|---|---|---|
| pZ/2πa | 極数・導体数・並列回路数 | 機械が完成したら変わらない定数 |
| Φ | 磁束 | 界磁で変えられる |
| Ia | 電機子電流 | 負荷で変わる主役 |
前半は構造で決まる定数なので、まとめて K₂ と書いてしまえばいい。すると残るのは、
これだけです。文字が多いのは「構造の内訳を書いているから」であって、計算のときに考えるのは磁束Φと電機子電流Ia の2つだけ。ここで一気に気持ちが軽くなるはずです。
ステップ4:最重要——トルクは電機子電流に完全比例

T = K₂ΦIa から読み取るべきことは、次の2つに尽きます。
| 読み取ること | 内容 |
|---|---|
| ① | トルクTは電機子電流Iaに比例する |
| ② | 磁束Φが大きいほど、トルクTも大きくなる |
電機子電流が2倍になれば、トルクも2倍。磁束が半分になれば、トルクも半分。それだけです。
試験で問われるのは「計算」より「関係」
電験三種でよく出るのは、「電流が2倍になったとき、トルクはどうなるか」といった比例関係を問う形です。細かい数値計算より、関係性を頭の中で動かせるかどうかが勝負になります。
磁束Φは界磁電流で操作できる量なので、界磁側をいじったときに何が起きるかもセットで押さえておくと強いです。このあたりが怪しい人は、先に〈直流電動機の速度制御は「どこを変えるか」だけ─抵抗・界磁・電圧の3方式を数式で攻略〉を読んでおくと、界磁を弱めたときの動きが一気にクリアになります。
ステップ5:出力は「力×スピード」で決まる

ここから出力Poの話に移ります。考え方は物理の基本そのままです。
- 力 = トルク T
- スピード = 回転数 N
- その結果 = 出力 Po
出力とは、どれだけの力Tで、どれだけの速さNで回し続けたかの結果です。トルクが強いほど出力は大きくなるし、回転数が高いほど出力も大きくなる。両方が掛け算で効いてくるわけです。
「重い荷物を、速く運ぶほど仕事が多い」——身近な感覚とまったく同じなので、ここは丸暗記の必要すらありません。
ステップ6:出力の「機械式」アプローチ Po=ωT

機械的な視点で出力を書くと、こうなります。
ω(オメガ)は角速度、単位はrad/s。「1秒間に何ラジアン回るか」というスピードの表し方です。ただ、問題文で与えられるのはたいてい毎分の回転数N[min⁻¹]なので、変換が必要になります。
この変換式は、意味が分かれば忘れません。
| 要素 | なぜそうなるか |
|---|---|
| 2π | 1回転が2π[rad]だから |
| N | 1分間にN回転するから |
| ÷60 | 毎分を毎秒に直すから |
まとめると、機械式の出力はこの形になります。
ステップ7:出力の「電気式」アプローチ Po=EaIa

同じ出力を、今度は電気の側から見てみます。
Ea は誘導起電力(電動機では逆起電力と呼ばれます)、Ia は電機子電流。電圧×電流=電力という、電気の一番基本の形そのままです。
つまり、直流電動機の出力には見方が2つあるということ。
| アプローチ | 式 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 機械式 | Po = ωT | 回転数やトルクが与えられたとき |
| 電気式 | Po = Ea Ia | 電圧・電流が与えられたとき |
同じ出力を、機械の言葉で言うか電気の言葉で言うかの違いにすぎません。
ステップ8:最強の等式 ωT=EaIa が、機械と電気をつなぐ

同じ出力を2通りで表せるということは、その2つは等しいということです。
この こそ、直流電動機を解き明かす最強の等式です。
なぜ「最強」なのか
直流電動機の最大の特徴は、出力を機械式と電気式の両方で表せて、しかもそれらが完全に等しいこと。だから、問題文が何を与えてきても対応できるのです。
| 問題文が与えてくるもの | 使う入口 | 求めたいもの |
|---|---|---|
| 回転数N、トルクT | ωT側 | 出力、または Ea・Ia |
| 端子電圧V、電機子電流Ia、電機子抵抗Ra | EaIa側(Ea=V−IaRa) | 出力、またはトルク |
| 出力とトルクの片方 | どちらからでも | もう片方 |
与えられた条件に合わせて、式を自由自在に繋ぎ変える。これが合格への最大のカギです。最初は古代ギリシャの呪文のように見える ωT=EaIa も、役割が分かればただの「橋」です。
なお、電気式で使う Ea は端子電圧Vそのものではありません。電機子抵抗Raによる電圧降下を引いた です。ここを取り違えると答えが合わなくなるので、電気式に入るときは必ずワンクッション置いてください。
ステップ9:パラメータの関係性を一枚に整理する
最後に、今日出てきた量をひとつの表にまとめます。ここだけでもスクリーンショットしておく価値があります。
| トルク T | 出力 Po | |
|---|---|---|
| 意味 | どれだけ回す力か | どれだけ仕事をするか |
| 公式 | T = K₂ΦIa | Po = ωT = Ea Ia |
| 深く関わる量 | 電機子電流Ia、磁束Φ | 回転数N、トルクT(=電圧と電流) |
| 単位 | N・m | W |
電機子電流Ia と回転数N の動きを追うこと——これが直流電動機の全体像をつかむ最短ルートです。負荷が重くなればIaが増え、Iaが増えればトルクが増える。同時にEaが下がって回転数が落ちる。この連動を追えるようになると、文章題の意味が急に読めるようになります。
直流機の話がひととおり終わったら、次は交流の世界に進むことになります。〈変圧器は「電気のバトン」で一発理解|電磁誘導と巻数比〉が次のステップなので、直流の感覚が新しいうちに続けて読むと理解が繋がりやすいです。
まとめ
直流電動機のトルクと出力は、結局この2本柱でした。
| 押さえるもの | 式 | 意味 |
|---|---|---|
| トルク | T = K₂ΦIa | 電機子電流と磁束に比例する「回す力」 |
| 出力 | Po = ωT = Ea Ia | 力×スピード。機械式と電気式は等しい |
| 変換 | ω = 2πN/60 | 毎分の回転数を角速度に直す |
| 起電力 | Ea = V − Ia Ra | 電気式に入る前のワンクッション |
複雑に見える計算問題も、やっていることは「与えられた条件を、この表のどれかに翻訳する」だけです。式の意味をイメージで語れるレベルまで落とし込めば、直流電動機は機械科目のなかでも確実な得点源になります。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元で点を落とす人には、はっきりした共通パターンがあります。3つだけ挙げておきます。
❌ 電気式の Ea に、端子電圧Vをそのまま入れてしまう
これが最多のミスです。Po=EaIa の Ea は逆起電力であって、端子電圧Vではありません。
- ❌ Po = V × Ia で計算してしまう
- ✅ まず を出し、それから Po = Ea Ia
さらに始動抵抗などが直列に入っている問題では、電機子抵抗Raと外部抵抗の両方を引く必要があります。回路図に抵抗が2つ描かれているのに片方だけしか引かない、というのが典型的な取りこぼしです。抵抗を数え忘れると、答えが選択肢のどれかにピタリと合ってしまうことがあるので余計にたちが悪い。
❌ 回転数Nをそのまま Po=ωT に代入してしまう
ωは角速度[rad/s]で、Nは毎分回転数[min⁻¹]。単位がまったく違います。
- ❌ Po = N × T
- ✅ Po = (2πN/60) × T
÷60 を忘れると答えが60倍ずれ、2π を忘れると約6.28倍ずれます。慌てているときほど起きるので、Nを見たら反射的に 2π/60 を掛けるクセをつけておきましょう。
❌ トルクが「回転数に比例する」と思い込む
トルクの式に N は入っていません。T = K₂ΦIa なので、トルクを決めるのは電機子電流と磁束だけです。
- ❌ 速く回っているからトルクも大きいはず
- ✅ 回転数はトルクではなく出力の側に効く量
回転数が絡むのは Po = ωT の側だけ、と割り切ってください。トルクと出力で「関わる量」が違うことを、ステップ9の表で確認しておくと迷いません。
過去問ではこう出た
直流電動機のトルクと出力は、機械科目で繰り返し問われている定番テーマです。実際の出題を並べると次のようになります。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成27年 | 問6 |
| 平成28年 | 問2 |
| 平成29年 | 問1 |
| 平成30年 | 問1・問2 |
| 令和2年 | 問2 |
| 令和4年下期 | 問1 |
| 令和7年上期 | 問2 |
問1〜問2という冒頭の位置に置かれることが多いのが特徴です。つまり、試験開始直後に必ず顔を出す。ここを落ち着いて取れるかどうかが、その後の40分の心理状態を左右します。
出題の形は大きく2系統。ひとつは T=K₂ΦIa の比例関係を使って「電流が変わったときのトルク」を問うもの、もうひとつは Po=ωT=EaIa をたどって回転数・トルク・電圧電流のいずれかを求めさせるものです。どちらも今日の2本柱で対応できます。
なお、この動画にひも付く過去問は電験ジムに19問収録されています。読んで分かった気になった直後に手を動かすのが、いちばん定着します。
よくある質問
Q. 「トルクT」と「出力Po」、問題文ではどちらを聞かれているのか見分けられません
単位を見るのが確実です。[N・m]ならトルク、[W]や[kW]なら出力です。問題文の日本語では「軸トルク」「発生トルク」と書かれていればT、「出力」「機械出力」と書かれていればPo。迷ったら、答えの選択肢に付いている単位を先に確認してしまうのが早いです。単位が分かれば、使うべき式が自動的に決まります。
Q. Po=ωT の Po と、電源から入ってくる電力は同じものですか?
違います。電源から入る電力は V×I(入力)で、Po=EaIa は電機子で機械的な仕事に変わった分です。差にあたる Ia²Ra が、電機子抵抗で熱になって消えている損失です。試験では「入力」「出力」「損失」のどれを聞かれているかを読み分ける必要があるので、ここは区別して覚えてください。ざっくり言えば、V を使うのが入力、Ea を使うのが出力です。
Q. 負荷が重くなると、直流電動機の中では何が起きているのですか?
連鎖で追うと分かりやすいです。負荷が重くなる → 回転数が少し落ちる → Ea=KΦN なので逆起電力Eaが下がる → 端子電圧Vは変わらないので Ia=(V−Ea)/Ra が増える → T=K₂ΦIa よりトルクが増える → 増えた負荷と釣り合って安定する。誰かが操作しているわけではなく、電動機が自動でこの調整をしています。この流れが読めると、「負荷が増えたとき電流はどうなるか」という問題を暗記なしで答えられます。ちなみに、この関係を逆向きに使って回転を止めるのが制動です。仕組みが気になった方は〈直流電動機の制動法、9割が混同する3方式を「エネルギーの行方」で完全攻略〉も合わせてどうぞ。
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