誘導機のT形等価回路を「一次→励磁→二次」で攻略!(1−s)/sが機械出力
電験三種「機械」科目の誘導機のT形等価回路を解説。一次側(r₁・x₁)、励磁回路(g₀・b₀)、二次側(a²r₂・a²x₂)の3ブロックに分けて構造的に理解。巻数比a²の換算、二次抵抗が銅損と機械出力a²r₂(1−s)/sに分かれる理由、すべりs=1・0・運転時の変化まで、計算問題で確実に得点できる形で整理します。
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この記事で身につくこと
機械科目で「一番苦手」と言われやすいのが、この誘導機のT形等価回路です。横長の回路図に r₁、x₁、g₀、b₀、a²r₂……と記号がびっしり並んでいて、見た瞬間にページを閉じたくなる。その気持ち、よく分かります。
でも、苦手になる理由はハッキリしています。回路図を「一枚の絵」として、一度に全部見ようとしているからです。実際には、この回路は左から3つのブロックが並んでいるだけ。ブロックごとに区切って見た瞬間、記号の数は3分の1になります。

この記事を読み終わると、次のことができるようになります。
| 身につくこと | 対応する記号 |
|---|---|
| 回路を一次・励磁・二次の3ブロックに切り分けられる | 回路図全体 |
| 一次側の2つの要素が何の損失かを言える | r₁・x₁ |
| 励磁回路の2つを役割で区別できる | g₀・b₀ |
| 一次換算で a² を掛ける理由を説明できる | a²r₂・a²x₂ |
| 二次銅損と機械出力を見分けられる | a²r₂ と a²r₂(1−s)/s |
| 始動電流が大きくなる理由を式で示せる | s=1 の代入 |
先に潰しておきたい「3つの罠」
この単元でつまずく場所は、実はほぼ決まっています。

| 罠 | よくある状態 |
|---|---|
| ① 巻数比 a の2乗の謎 | 「そう習ったから」で意味も分からず2乗している |
| ② 二次抵抗が2つに割れる謎 | なぜ1つの抵抗を切り分けるのか説明できない |
| ③ g₀ と b₀ の混同 | どっちが鉄損で、どっちが磁束か毎回迷う |
裏を返せば、この3つさえ潰せば、T形等価回路は「得点源」に変わります。
なお、この単元は変圧器の考え方をほぼそのまま引き継いでいます。「そもそも変圧器と誘導機って何が違うんだっけ?」というあたりが怪しい方は、先に変圧器と誘導機の違いを「巻線が動くか動かないか」で一発理解に目を通しておくと、この記事の理解速度が一段上がります。
暗記フレーズ:一次、励磁、二次、(1−s)/s は出力
複雑な回路図を、一言で整理してしまう合言葉がこれです。
一次、励磁、二次、(1−s)/s は出力

前半の「一次、励磁、二次」は、回路を左から右へ読む順番そのものです。回路図は左に電源、右に負荷が来るように描かれるのが普通ですから、上流である左から順に追っていけば、迷子になりません。
後半の「(1−s)/s は出力」は、この単元の最大の山場を1フレーズに圧縮したものです。試験で「機械出力を求めよ」と問われたとき、探すべき場所はここだけ、という道しるべになります。
お経のようなリズムで、声に出して何度か唱えてみてください。試験本番で回路図を見た瞬間にこの言葉が出てくれば、それだけで勝ちです。
ステップ1:一次側の r₁ と x₁ ― ここはボーナスエリア
まずは回路のいちばん左、電源が入ってくる入口の部分です。

| 記号 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| r₁ | 一次巻線抵抗 | 一次コイルそのものが持つ抵抗。ここで一次銅損(熱)が発生する |
| x₁ | 一次漏れリアクタンス | 一次コイルから漏れてしまう磁束によるリアクタンス |
この2つの何がありがたいかというと、加工が一切いらないことです。あとで出てくる二次側のように「a² を掛けてから置く」といった手間がなく、r₁ と x₁ をそのまま直列に並べるだけで済みます。
x₁ について1つだけ補足すると、コイルがつくった磁束は、全部が仕事に使われるわけではありません。一部は途中で漏れてしまう。この漏れ分が生む電圧降下を表しているのが x₁ です。交流だからこそ現れる要素で、直流機にはありませんでした。
一次側は、試験で引っかけようがない素直な部分です。ここは落ち着いてそのまま計算する、いわばボーナスエリアだと思ってください。
ステップ2:励磁回路の g₀ と b₀ ― 役割が正反対の2人組
次は回路の真ん中、下向きに伸びている枝の部分です。ここが誘導機の心臓部にあたります。

| 記号 | 名称 | 役割 | ひとことで言うと |
|---|---|---|---|
| g₀ | 励磁コンダクタンス | 鉄心で発生する鉄損を表す | 熱として失われるロス |
| b₀ | 励磁サセプタンス | 磁束(磁界)をつくる | モータを回すために必須の仕事 |
混同しやすいのは、この2つが回路図上では仲良く並んでいるのに、役割が正反対だからです。片方は「捨てられる熱」、もう片方は「モータをモータたらしめる磁束」。この対比で覚えると、もう迷いません。
コンダクタンス g₀ は抵抗の逆数、サセプタンス b₀ はリアクタンスの逆数にあたる量です。並列回路として扱うため、抵抗・リアクタンスではなく逆数の形で書かれている、というだけのことです。
覚え方はシンプルに。g₀ は鉄損で熱、b₀ は磁束。この2つをセットで、役割の違いごと頭に入れてください。
なお、ここで出てくる「鉄損」と、ステップ1・ステップ4で出てくる「銅損」は別ものです。損失の内訳と、それがすべり s とどう結び付くかは、誘導機の出力比は「1:s:1-s」で芋づる式に!すべりだけで全部わかるで整理しています。この記事と合わせて読むと、電力の流れが一本につながります。
ステップ3:a² を掛ける理由 ― 雰囲気で2乗するのを卒業する
いよいよ右側、二次のブロックです。ここからは、一次側のように「そのまま置くだけ」というわけにはいきません。

なぜ換算が必要なのか
一次側の固定子と二次側の回転子は、そもそも別々の回路です。巻数も違うので、二次側の数値をそのまま一次側の回路につなげても意味を持ちません。基準をそろえる作業、それが一次換算です。
変圧器で「一次換算」をやったことを思い出してください。物理的につながっていない一次と二次を、計算の都合で1つの回路にまとめる、あの操作とまったく同じ発想です。
a² になる理由はオームの法則だけ
一次側から二次側を見たとき、巻数比 a によって次のように変わります。
| 量 | 一次から見た倍率 |
|---|---|
| 電圧 | a 倍 |
| 電流 | 1/a 倍 |
| インピーダンス | a² 倍 |
なぜインピーダンスだけ2乗になるのか。オームの法則を思い出せば一瞬です。
電圧が a 倍、電流が 1/a 倍。割り算すると a × a で a² 倍。ただそれだけの話です。
つまり、二次側の抵抗 r₂ とリアクタンス x₂ は、等価回路上では a²r₂、a²x₂ の形で置かれます。「そう習ったから2乗」ではなく、「電圧と電流の倍率が逆だから2乗」。理由で覚えたものは忘れません。
ステップ4:二次抵抗が2つに分かれる ― まずは熱の方
罠の2つ目、いよいよ核心です。二次側の抵抗は、等価回路の上で2つの箱に分けて描かれます。

もともとの二次抵抗は という形をしています。これを、次の2つに切り分けているのです。
なぜわざわざ切り分けるのか。理由は明快で、二次側に入った電力の行き先が2種類あるからです。
| 分割された抵抗 | 何を表すか | イメージ |
|---|---|---|
| a²r₂ | 二次銅損(熱として捨てられる分) | 炎 |
| a²r₂ × (1−s)/s | 機械出力(モータを回す動力) | 歯車 |
このステップ4では、前者の a²r₂ を押さえてください。二次側のコイルで発生する二次銅損、つまり熱になってもったいなく捨てられていく分です。
ここまでで、一次銅損(r₁)、鉄損(g₀)、二次銅損(a²r₂)と、3種類のロスが出そろいました。損失の名前が似ていて混乱しやすいところですが、回路のどのブロックにいるかで覚えると整理できます。
見分け方はとても単純です。(1−s)/s が付いていない、ただの抵抗の形をしている方が銅損(熱)。それだけ覚えておけば取り違えません。
ステップ5:機械出力 (1−s)/s の正体 ― ここが本丸
お待たせしました。この単元の最大のポイントであり、合言葉の後半にあたる部分です。

同じ二次抵抗から生まれた兄弟でありながら、こちらは捨てられる熱ではなく、実際にモータを回す動力に変換されるおいしい部分です。スライドで炎と歯車のマークが分けられているのは、まさにこの違いを表しています。
そして試験対策上、ここが決定打になります。
| 問われたこと | やること |
|---|---|
| 機械出力を求めよ | (1−s)/s が付いた抵抗で消費される電力を計算する |
| 二次銅損を求めよ | (1−s)/s が付いていない抵抗で消費される電力を計算する |
問題文で「機械出力」という言葉を見たら、回路図の中から (1−s)/s を探す。この一手だけで解けてしまう問題が、実際に出題されています。合言葉の後半「(1−s)/s は出力」は、そのための道しるべです。
ステップ6:すべり s=1 で分かる、始動電流の正体
等価回路のありがたいところは、実際のモータの挙動まで計算で説明できることです。その代表例が、始動時の突入電流です。
モータの始動時、つまり回転子がまだ止まっている瞬間、すべりは s=1 になります。これを機械出力の項に代入してみましょう。
機械出力を表す抵抗が、ゼロに消えてしまいました。
| すべり | 機械出力の抵抗 | 起きること |
|---|---|---|
| s=1(始動時) | 0 | 回路のインピーダンスが極端に小さくなる |
| s が0に近い(軽負荷) | 非常に大きい | 電流が小さく、出力側に電力が回る |
抵抗が消えれば、回路全体のインピーダンスは小さくなります。オームの法則どおり、電流は跳ね上がる。これが、始動時に定格電流の5〜7倍もの突入電流が流れる理由です。現場でモータを入れた瞬間にブレーカーが落ちる、あの「ガコンッ」の正体がこれです。
机の上で覚えた式が、現場の現象とつながる。この単元の気持ちいいところです。
ステップ7:L形等価回路 ― 現場で使われる簡略版
最後に、応用として1つ。今日学んだT形等価回路は、実務ではもっと扱いやすい形に化けます。
| T形等価回路 | L形等価回路(簡易等価回路) | |
|---|---|---|
| 励磁回路の位置 | 回路の中央 | いちばん左(電源側) |
| 計算の手間 | 直列と並列が入り混じり煩雑 | 大幅にラク |
| 精度 | 厳密 | 誤差はごくわずか |
やっていることは1か所だけ。中央にあった励磁回路の枝を、左の電源側へ引っ越しさせているのです。
「勝手に動かしていいのか」と思うところですが、これには根拠があります。励磁回路のインピーダンスは、一次・二次の巻線インピーダンスに比べてずっと大きい。つまり、そこを流れる励磁電流はもともと小さいので、位置を少しずらしても結果への影響がごくわずかで済むのです。大型の誘導機では、むしろこちらが主流になっています。
まとめ
保存版として、回路のブロック順に一気に並べます。ここだけスクリーンショットしておけば復習になります。
| ブロック | 要素 | 意味・役割 |
|---|---|---|
| 一次(左) | r₁ | 一次巻線抵抗 → 一次銅損(熱) |
| 一次(左) | x₁ | 一次漏れリアクタンス(漏れ磁束) |
| 励磁(中央) | g₀ | 励磁コンダクタンス → 鉄損(熱) |
| 励磁(中央) | b₀ | 励磁サセプタンス → 磁束をつくる |
| 二次(右) | a²r₂ | 二次銅損(熱) |
| 二次(右) | a²r₂ × (1−s)/s | 機械出力(動力) |
そして、迷ったらこの一言に戻ってきてください。
一次、励磁、二次、(1−s)/s は出力
記号の数に圧倒されていた回路図が、3つのブロックの並びに見えてきたなら、この単元はもう克服できています。1度で完璧に覚えようとせず、忘れたら何度でも動画とこの記事に戻ってきてください。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元は、理屈を飛ばして形だけ覚えると、本番でスッと足をすくわれます。実際に失点につながりやすい取り違えを3つ挙げます。
❌ 二次抵抗の2つの箱を、逆に選んでしまう
❌ こう思いがち:「a²r₂ の方が主役っぽいから、こっちが出力だろう」 ✅ 正しくは:主役に見える方が熱ロス(二次銅損)です。動力を担うのは (1−s)/s が付いた、一見おまけのような方。選択肢が2つ並んだ問題では、この取り違えを狙って出題されます。「(1−s)/s は出力」と唱えて選んでください。
❌ 拘束試験で、定格電圧を加えると思い込む
回転子を固定して行う拘束試験は、定格電圧をかける試験ではありません。
❌ こう思いがち:「定格の状態を調べるのだから、定格電圧を印加するはず」 ✅ 正しくは:電流が定格程度に収まるところまで電圧を下げて印加します。理由は、まさにステップ6で見たとおりです。回転子が止まっている=s=1 の状態では機械出力の抵抗がゼロになり、定格電圧をかけたら過大な電流が流れて危険だからです。選択肢に「定格一次電圧を印加する」と書かれていたら、それは誤りだと判断できます。
❌ 電圧を下げた分だけ、電流も減ると考えてしまう
電圧と周波数を同じ割合で下げた場合、電流も同じ割合で減る……とは限りません。
❌ こう思いがち:「電圧が5%下がったのだから、電流も5%減るはず」 ✅ 正しくは:V と f を同率で下げると V/f が一定に保たれ、その分すべりが増えるため、二次電流は打ち消し合ってほとんど変わりません。比例計算で出した「少し減った値」が選択肢に用意されていることが多く、素直に計算した人ほど引っかかります。等価回路のどこが変化してどこが変化しないのかを、s も含めて追う必要があります。
過去問ではこう出た
この単元は、機械科目で継続的に問われている定番テーマです。
| 出題年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和2年 | 問3 |
| 令和7年上期 | 問4 |
出題のされ方には傾向があります。1つは、等価回路の各要素が何を表すかを問う知識型。g₀ と b₀ の役割、a²r₂ と a²r₂(1−s)/s の区別といった、この記事のまとめ表がそのまま答えになる形です。もう1つは、等価回路を使って二次銅損や機械出力を計算させる計算型。さらに、拘束試験・無負荷試験の手順を問う形でも顔を出します。
いずれにしても、出発点は「回路のどこに何がいるか」を言えることです。逆にそこさえ固まっていれば、計算問題は代入するだけの作業になります。
よくある質問
Q. なぜ「T形」という名前なのですか?
回路の見た目そのままです。左に一次側が横に伸び、中央から励磁回路が下向きに枝分かれし、そこからまた右へ二次側が伸びる。この形がアルファベットのT字に見えることから、T形等価回路と呼ばれます。励磁回路を左端に寄せると、枝が端に来てL字型に見えるので「L形等価回路」。名前で身構える必要はまったくなく、枝がどこに生えているかを表しているだけです。
Q. r₂/s の s は、どうして分母に来るのですか?
回転子に生じる誘導起電力も、回転子回路の周波数も、すべりに比例して変化します。この変化を「回転している回転子」ではなく「静止した等価回路」の上で表現しようとすると、二次抵抗を s で割った形に置き換えるのが最もつじつまが合うのです。つまり s は、動いているものを止まった回路に翻訳するための係数だと思ってください。そして、その を と に分解したものが、この記事で見てきた2つの箱です。
Q. 等価回路の計算は、変圧器のときとどこが違いますか?
考え方の骨格はほとんど同じで、実際に一次換算のやり方は共通です。決定的に違うのは、誘導機にはすべり s が入り、二次側に機械出力という項が生まれる点。変圧器は電気を電気のまま渡す機械なので、出力の項は登場しません。逆に言えば、変圧器の等価回路が理解できていれば、あとは s の扱いを1つ足すだけです。二次側の電圧が負荷でどう変わるかという感覚に不安があれば、電圧変動率は『内部インピーダンスのせい』で9割解決 — ε=%R cosθ+%X sinθ を3ステップで攻略も押さえておくと、等価回路を使って何を求めているのかが立体的に見えてきます。
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