誘導電動機の二次諸量を「ぜんぶs倍」で攻略|すべりと電流の関係
電験三種「機械」科目の誘導電動機のすべりと二次諸量の関係を解説。運転中に二次電圧E₂・二次周波数f₂・二次リアクタンスx₂がすべてすべりs倍に変わること、そして二次電流I₂だけ分母に√(r₂²+(sx₂)²)が付く理由を、インピーダンスの基本形|Z|=√(R²+X²)から自然に導けるよう整理。丸暗記で混乱しがちな頻出公式を、物理イメージから確実に得点できる形にします。
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この記事で身につくこと
誘導機の計算問題を開いた瞬間、こんな式が目に飛び込んできて、そっと問題を閉じた経験はありませんか。
分数の中に が2回。ルートの中にも 。文字ばかりで、どこから手をつけていいのか分からない——多くの受験者がここで誘導機を「捨て分野」にしてしまいます。
ですが安心してください。この式、実はただのオームの法則です。しかも、二次側で何が起きているかはたった1つのルールに集約できます。それが「二次側はぜんぶs倍」。
この記事を読み終えると、次のことができるようになります。
| 身につくこと | 具体的に |
|---|---|
| 基準の置き方 | 停止時(s=1)が二次側の基準値だと理解できる |
| 電圧の変化 | 回転すると二次電圧が に下がる理由を説明できる |
| 周波数の変化 | 二次周波数が になる理由を説明できる |
| リアクタンスの変化 | から が導ける |
| 例外の暗記 | 二次抵抗 だけがs倍にならない理由が言える |
| 式の分解 | 二次電流の式を「電圧÷インピーダンス」に分解できる |
丸暗記する量は、驚くほど少なくて済みます。
暗記フレーズ:二次側はぜんぶs倍
二次側はぜんぶs倍
このフレーズだけ持って帰ってください。誘導機の回転子側で起きることは、電圧も、周波数も、リアクタンスも、すべて停止時の値の 倍です。
そして、たった1つの例外——二次抵抗 だけはs倍にならない。この「ぜんぶ」と「1つの例外」のセットが、試験で問われる中身のほぼすべてです。
なお、すべり そのものの定義(同期速度に対してどれだけ遅れているか)が曖昧な方は、先に〈誘導機のすべりsを「同期にどれだけ遅れているかの割合」で攻略〉を読んでおくと、この記事の内容がすっと入ってきます。
ステップ1:停止時(s=1)は変圧器と全く同じ

まず最初に、基準を決めます。基準がないと「s倍」の意味が定まらないからです。
三相誘導電動機の回転子が止まっている状態、つまり のとき、二次電圧は 、二次周波数は です。何も掛からない、素の値。これが基準です。
なぜ変圧器と同じなのか
誘導機と変圧器の決定的な違いは、二次側が回るか回らないかです。
| 一次側 | 二次側 | |
|---|---|---|
| 変圧器 | 静止 | 静止 |
| 誘導機(停止時 s=1) | 静止 | 静止 → 変圧器と同じ |
| 誘導機(運転時 0<s<1) | 静止 | 回転 → ここから別物になる |
止まっている瞬間だけを切り取れば、誘導機は「二次側が短絡された変圧器」そのものです。だから停止時の二次電圧は、変圧器と同じように巻数比で決まる になる。
この対応関係そのものが不安な方は、〈変圧器と誘導機の違いを「巻線が動くか動かないか」で一発理解〉で押さえ直しておくと、この先の理解が段違いに速くなります。
ステップ2:運転開始!すべりsが全部を変える

回転子が回り始めると、状況が一変します。
回転子は回転磁界を追いかけますが、決して追いつけません。この追いつけない差を割合で表したものが、すべり です。
- 停止時:まったく追いつけていない →
- 運転中:だいぶ追いついた → は0.03〜0.05程度(小さい値)
- 同期速度:完全に追いついた → (理論上のみ)
ここが「全部を変える」の意味
回転子から見た「磁界の変化の速さ」は、回転磁界と回転子の相対速度で決まります。回転子が速く回るほど、相対速度は小さくなる。
相対速度が小さくなると、それに引きずられて次の3つが一斉に小さくなります。
| 変わるもの | 停止時 | 運転時 |
|---|---|---|
| 二次誘導起電力 | ||
| 二次周波数 | ||
| 二次リアクタンス |
すべり というたった1つの数字を見れば、誘導機の運転状況がまるごと分かる。これが誘導機の計算で が主役になる理由です。
ステップ3:二次誘導起電力は

ここが直感に反する最初の関門です。「速く回っているのに電圧が下がる?」と誰もが引っかかります。
直感のズレを直す
発電機のイメージだと「速く回す=電圧が上がる」ですが、誘導機の二次側はそうではありません。二次側の電圧を決めるのは、回転子の速さそのものではなく、回転磁界との速度差だからです。
| 回転子の状態 | 磁界との速度差 | 二次電圧 |
|---|---|---|
| 止まっている(s=1) | 最大 | (最大) |
| ゆっくり回る(sが大きい) | 大きい | 大きい |
| 速く回る(sが小さい) | 小さい | 小さい |
| 同期速度(s=0) | ゼロ | 0 |
追いかけっこで考えると腑に落ちます。相手との距離がぐんぐん開いている状態(=速度差が大きい)ほど、磁束を切る回数が多い。逆に、相手にぴったり並走してしまえば、磁束はもう切られません。
覚えるのは の1本だけ。理屈は後からでいいので、まずこの形を手に馴染ませてください。
ステップ4:二次周波数も

電圧とまったく同じ理由です。回転子から見た磁界の変化がゆっくりになるので、二次側に誘導される交流の周波数も下がります。
波形で見ると、停止時に比べて運転時の波形は横に伸びて、ゆったりした形になります。1秒あたりに繰り返される回数が減っている、ということです。
数字で確かめる
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 電源周波数(=停止時の二次周波数) | 50 Hz |
| すべり | 0.04 |
| 運転時の二次周波数 | 50 × 0.04 = 2 Hz |
一次側は50Hzでも、二次側はわずか2Hz。この二次周波数は「すべり周波数」とも呼ばれます。誘導機の二次側が、一次側とはまるで別世界の周波数で動いていることが数字で見えます。
電圧と周波数、どちらもs倍で揃っている——覚えることが増えないのが、ありがたいところです。
ステップ5:リアクタンスもドミノ倒しで

ここは、新しく覚えることがありません。理論科目で習った、この式を使うだけです。
リアクタンスは周波数 に比例します。そして、ステップ4で二次周波数は になりました。ならば当然——
周波数がs倍 → リアクタンスもs倍。ドミノ倒しのように連鎖しているだけです。
ここまでの連鎖を1枚で
| 順番 | 変わるもの | 変わる理由 |
|---|---|---|
| ① | すべり | 回転子が回り始めた |
| ② | 二次周波数 | 磁界との相対速度が減った |
| ③ | 二次リアクタンス | ②で周波数が下がったから() |
| ④ | 二次誘導起電力 | ②と同じ理由(相対速度) |
3つも4つも別々に暗記する必要はなく、出発点はすべて「相対速度が減った」の一点です。
ステップ6:二次電流はオームの法則そのもの

いよいよ最終形態、冒頭で出てきたあの式です。
見た目は威圧的ですが、やっていることは電流=電圧÷インピーダンス、ただそれだけです。
式を3つに割って見る
| 位置 | 中身 | 正体 |
|---|---|---|
| 分子 | 運転時の二次電圧(ステップ3) | |
| 分母のルート内・左 | 二次抵抗(s倍にならない) | |
| 分母のルート内・右 | 運転時の二次リアクタンス(ステップ5) |
分母全体は 、つまり抵抗とリアクタンスのベクトル和=インピーダンスです。三平方の定理の形になっているのは、抵抗とリアクタンスの位相が90°ずれているから。ここは理論科目のRL直列回路とまったく同じ考え方です。
唯一の例外: にsが付かない理由
ここが最重要ポイントです。
| 二次側の値 | s倍になるか | 理由 |
|---|---|---|
| 二次電圧 | ○ なる | 電磁誘導で生まれる量だから |
| 二次周波数 | ○ なる | 相対速度で決まる量だから |
| 二次リアクタンス | ○ なる | 周波数に比例する量だから |
| 二次抵抗 | ✕ ならない | 導体そのものの性質で、周波数と無関係だから |
抵抗は、銅線という「物」が持っている性質です。回転子が速く回ろうが止まっていようが、銅線の抵抗値は変わりません。一方でリアクタンスは、周波数があって初めて現れる交流特有の量。だから の影響を受けます。
s倍になるのは「電磁誘導で発生する成分」だけ。物として存在する抵抗は変わらない。
この一文で理解しておけば、試験本番で「あれ、 にもsが付いたっけ?」と迷うことがなくなります。
なお、この が等価回路の中でどう という形に姿を変えるのかは、〈誘導機のT形等価回路を「一次→励磁→二次」で攻略!(1−s)/sが機械出力〉で詳しく扱っています。この記事の内容とセットで読むと、等価回路の「なぜ割り算になるのか」が一気に見通せます。
ステップ7:3つの状態を1枚の表で総整理

停止時・運転時・同期速度の3状態を並べます。この表が頭に入れば、この単元は卒業です。
| 項目 | 停止時(s=1) | 運転時(0<s<1) | 同期速度(s=0) |
|---|---|---|---|
| 二次誘導起電力 | 0 | ||
| 二次周波数 | 0 | ||
| 二次リアクタンス | 0 | ||
| 二次抵抗 | (不変) | (不変) | |
| 二次電流 | 0 | ||
| トルク | 発生(始動トルク) | 発生 | 0 |
同期速度で全部ゼロになる意味
の列を見てください。電圧も周波数も電流も、きれいにゼロです。
これは「回転子が回転磁界と完全に並走してしまい、磁束を1本も切らなくなった」状態を表しています。磁束を切らない → 起電力が出ない → 電流が流れない → トルクが出ない。
トルクが出なければ、摩擦や風損ですぐに減速します。だから誘導電動機は、無負荷であっても構造上、絶対に同期速度には到達できないのです。「非同期電動機」という別名は、まさにこの性質から来ています。
この「s=0でトルクゼロ」の感覚が、出力・銅損・二次入力の配分(1:s:1−s)にもそのまま効いてきます。数字の配分まで一気に見たい方は〈誘導機の出力比は「1:s:1-s」で芋づる式に!すべりだけで全部わかる〉へどうぞ。
まとめ
長い式に見えたものが、たった1本のルールに畳み込めたはずです。
| 覚えること | 中身 |
|---|---|
| 基準 | 停止時(s=1)=変圧器と同じ。、、 が素の値 |
| 主ルール | 二次側の誘導成分はぜんぶ s倍(、、) |
| 唯一の例外 | 二次抵抗 はs倍にならない |
| 二次電流 | = 電圧÷インピーダンス |
| 終点 | s=0 で二次側は全部ゼロ、トルクもゼロ |
暗記フレーズは 「二次側はぜんぶs倍」。この短い言葉と、ステップ7の表。手元に残すのはこの2つで十分です。
誘導機は機械科目の中でも出題比率が高い、いわば「稼ぎどころ」です。ここを苦手なままにしておくのはもったいない。逆に言えば、 という1文字を味方につけるだけで、得点源に変わる分野でもあります。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元は、選択肢が巧妙に作られていて、理解が半端だと必ず引っかかります。実際に多くの受験者が落とす3か所を挙げます。
❌ 二次電圧の倍率を「1−s」だと思ってしまう
❌ こう思いがち:回転子の速度は同期速度の 倍だから、二次電圧も 倍だろう。
✅ 正しくはこう:二次側に電圧を誘導させているのは、回転子の実際の速度ではなく、回転磁界と回転子の速度差です。速度差は (すべり速度)。だから倍率は ではなく になります。
が登場するのは「回転子の回転速度」や「機械出力」の話であって、二次側に誘導される電圧・周波数の話ではありません。どちらの速度を見ているのかを毎回確認する癖をつけてください。
❌ 倍率を (sの逆数)にしてしまう
❌ こう思いがち:等価回路で という形を見たから、二次側の値はsで割るのだろう。
✅ 正しくはこう: で割る形が出てくるのは、二次側の回路を一次側に換算し直したときの話です。回転子で実際に起きている現象そのものは を掛ける(、、)。掛けるのか割るのか、どの立場から見た式なのかで変わります。
❌ 一次と二次を逆に覚えている
❌ こう思いがち:回転するほうが主役だから、回転子が一次側では。
✅ 正しくはこう:固定子=一次巻線、回転子=二次巻線です。電源につながっているほうが一次。これを取り違えると、「一次周波数がs倍になる」という誤答を選んでしまいます。s倍になるのは回転している二次側だけで、電源に直結している一次側の周波数は50Hz/60Hzのまま変わりません。
過去問ではこう出た
このテーマは、単独問題としても、誘導機の総合問題の一部としても繰り返し出題されています。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成28年 | 問3 |
| 令和5年 上期 | 問3 |
出題のされ方には、はっきりした傾向があります。
- 空欄補充(穴埋め)形式が中心。「回転時の二次誘導起電力は停止時の( )倍になる」といった形で、// を並べた選択肢から選ばせます。
- 一次と二次の言葉の入れ替えが仕掛けとして仕込まれます。固定子・回転子と一次・二次の対応を、文章単位で正確に読む必要があります。
- リアクタンスまで含めて問うパターンもあり、 を経由してs倍を導けるかが問われます。
裏を返せば、この記事のステップ7の表が頭に入っていれば、ほとんどが即答できる問題です。計算量も多くないので、時間をかけずに得点できるおいしい設問と考えてよいでしょう。
年度をまたいで実際の問題文に触れておくと、選択肢の作り方のクセまで見えてきます。
よくある質問
Q. すべりsは、なぜ0にならないのですか?
は「回転子が回転磁界に完全に追いついた」状態です。しかしそのとき回転子は磁束を1本も切らないので、起電力も電流もトルクも発生しません。トルクがゼロになれば、摩擦損や風損によってすぐ減速し、また速度差が生まれます。
つまり誘導機は、回り続けるために必ず「遅れ」を必要とする機器なのです。実際の運転では、全負荷時でおよそ 〜(3〜5%)程度に落ち着きます。この構造上の性質を知りたい方は、〈三相誘導機の回転速度を「同期速度・すべり・損失配分」で攻略〉も併せてどうぞ。
Q. 二次周波数が2Hzのように低くなると、何か困らないのですか?
困らないどころか、都合が良いのです。二次周波数が低いということは二次リアクタンスも小さいということで()、二次回路のインピーダンスがほぼ抵抗 だけになります。
インピーダンスが抵抗中心になると、二次電流と二次起電力の位相ずれが小さくなり、電流がトルクに効率よく変換される状態になります。定常運転時の誘導電動機が良い力率・良い効率で回るのは、この低いすべり周波数のおかげです。
なお、二次側の周波数が下がっても、一次側(電源側)は50Hzや60Hzのまま。周波数がs倍になるのは二次側だけという点を、ここでも取り違えないようにしてください。
Q. 停止時(s=1)が一番電流が大きいのに、なぜ始動トルクは小さいのですか?
良い着眼点です。確かに では二次電圧が最大の になり、電流も大きく流れます。しかし同時に、二次リアクタンスも最大の になっています。
リアクタンス成分が大きいと、電流の位相が電圧から大きくずれてしまい、トルクに寄与する成分(有効分)の割合が下がります。電流の量は多いのに、そのうちトルクとして使える割合が小さい——これが「始動電流は大きいのに始動トルクは伸びない」というかご形誘導電動機の悩みどころです。巻線形で二次抵抗を外付けして始動する手法は、まさにこの位相のずれを改善するためのものです。
そもそも回転磁界がどう生まれ、同期速度がどう決まるのかを確認しておきたい方は、〈誘導機の回転磁界と同期速度を「120f÷p」で一発計算〉が土台になります。
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