三相誘導機の回転速度を「同期速度・すべり・損失配分」で攻略
電験三種「機械」科目の誘導機を解説。同期速度Ns=120f/pとすべりsで実回転Nが決まる仕組みを土台に、二次入力P2・二次銅損Pc2・機械的出力Pmが『1:s:1−s』で結ばれることを直感的に理解。効率η=1−sまで一本道でつながり、計算問題で確実に得点できる形に整理します。
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この記事で身につくこと
誘導機の計算と聞いて、思わず身構えてしまう方は多いはずです。無理もありません。参考書を開くと、二次入力 P2、二次銅損 Pc2、機械的出力 Pm、二次抵抗 r2、さらには (1-s)/s をかけた仮想抵抗まで登場して、文字が視界を埋め尽くします。等価回路の図とにらめっこしているうちに、「いま自分はどこの電力を計算しているんだったか」が分からなくなる。あの感覚です。
ですが、ここで一度、式から目を離してみてください。誘導機の二次側で起きていることは、驚くほど単純です。回転子に送り込まれた電力が、熱になる分と、動力になる分に、ただ二つに分かれるだけ。それだけなのです。
そして、その分かれ方の割合を決めているのが、すべり s ただ一つ。だからこの記事では、次の一行だけを持ち帰っていただきます。
P2:Pc2:Pm = 1:s:1-s
この比率を握ってしまえば、等価回路の式を一つも暗記せずに、二次銅損も、機械的出力も、効率の大小判断も、すべて答えが出ます。苦手意識のかたまりだった誘導機の計算問題が、「かけ算1回で終わる作業」に変わります。
この記事を読み終えると、次のことができるようになります。
| できるようになること | 使う道具 |
|---|---|
| 二次入力から二次銅損を求める | Pc2 = s P2 |
| 二次入力から機械的出力を求める | Pm = (1 - s) P2 |
| 機械的出力から二次入力を逆算する | P2 = Pm / (1 - s) |
| 効率が高いのはどちらか判断する | s が小さいほど高効率 |
| 等価回路の (1-s)/s × r2 の意味を説明する | 「1-s」の出力を回路で書いただけ |
暗記フレーズ:P2:Pc2:Pm = 1:s:1-s
まずは声に出して覚えてしまってください。
「P2:Pc2:Pm = 1:s:1-s」
入力が1、損失が s、残りの 1-s が出力。

この一行が、これから解説するすべての内容の背骨になります。順番も大事です。入力・損失・出力という並びで覚えると、電力が流れていく向きとそのまま一致するので、頭の中で図が描けるようになります。
ただし、丸暗記だけで終わらせるのはもったいない話です。「1」「s」「1-s」のそれぞれが何を指しているのか、その意味を一度つかんでおけば、試験本番で緊張していても復元できます。ここから3ステップに分けて、一つずつ正体を確かめていきましょう。
ステップ0:なぜ誘導機の計算は難しく感じるのか

多くの受験者がつまずくのは、実は計算そのものではありません。「等価回路から入ろうとすること」が原因です。
等価回路には、一次抵抗、一次漏れリアクタンス、励磁回路、二次側に換算した抵抗とリアクタンス、そして (1-s)/s × r2 という見慣れない抵抗まで並んでいます。これを全部たどってから電力を出そうとすると、どうしても計算量が膨らみますし、途中で「この電力はP2なのかPmなのか」が迷子になります。
回路の構造そのものを整理したい方は、〈誘導機のT形等価回路を「一次→励磁→二次」で攻略!(1−s)/sが機械出力〉を先に読んでおくと、この記事の比率が回路のどこに対応しているかまで見えるようになります。
とはいえ、試験で問われるのは多くの場合「電力の値」です。回路を一周する必要がない場面のほうが、むしろ多いのです。だから順番を逆にします。まず比率で答えを出す。等価回路は必要になったときだけ開く。これだけで、誘導機の計算は別物のように軽くなります。
ステップ1:「1」の正体は二次入力 P2

二次入力 P2 とは、固定子(一次側)からエアギャップを越えて、回転子(二次側)へ送られる電力のことです。すき間を越えて渡ってくるので、エアギャップ電力と呼ばれることもあります。
これが比率でいう「1」、つまり全体の100%にあたります。回転子から見れば、手元に届いた元手のすべてです。ここから熱として何割かを失い、残りが動力になる。この一方通行の流れをつかんでおくと、比率の意味が一気に腑に落ちます。
なお、P2 は「電源から入ってきた電力の全部」ではありません。電源からの入力電力からは、一次銅損と鉄損がすでに差し引かれた後の値です。ここを混同すると効率計算でずれるので、P2 はあくまで二次側の話の基準、と線を引いておいてください。
ステップ2:「s」の正体は二次銅損 Pc2

回転子に届いた電力のうち、二次抵抗 r2 で消費されて熱に変わってしまう分が、二次銅損 Pc2 です。回転子の巻線が持つ抵抗が原因なので、避けようがない損失です。
ここが、この単元でいちばん腹落ちさせておきたいところです。すべり s は、そのまま「損失の割合」を表しています。
すべり s は、もともと同期速度と実際の回転速度のズレの割合でした。
回転が同期速度から遅れれば遅れるほど s は大きくなり、その分だけ多くの電力が熱として捨てられます。速度のズレを表していたはずの s が、そのまま電力のロス率になっている。ここが誘導機のおもしろいところであり、比率が成り立つ理由でもあります。
すべりの定義そのものが不安な方は、〈誘導機のすべりsを「同期にどれだけ遅れているかの割合」で攻略〉に戻っておくと、この先の理解が段違いに速くなります。
ステップ3:「1-s」の正体は機械的出力 Pm

元手の「1」から、熱で失った「s」を引く。残った「1-s」が、軸から動力として取り出せる機械的出力 Pm です。
引き算ひとつです。特別な公式ではなく、入ってきた分から捨てた分を引いただけだと理解しておけば、忘れようがありません。
等価回路の (1-s)/s × r2 との関係
等価回路に出てくる、あの見慣れない抵抗 (1-s)/s × r2 は、実在する部品ではありません。「機械的出力という形で外に出ていく電力」を、回路図の上で抵抗のふりをさせて表現したものです。
| 表し方 | 書き方 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 比率で表す | Pm = (1 - s) P2 | 電力の値を出したいとき(ほぼ全問) |
| 回路で表す | (1-s)/s × r2 の消費電力 | 電流や電圧から追いたいとき |
同じものを、別の言葉で言い直しているだけです。だから比率さえ握っていれば、等価回路の式は「必要になったら組み立てる」で十分間に合います。
ステップ4:すべり s と効率の関係はシーソーで考える

比率が身についていると、計算問題だけでなく、文章で問われる正誤問題も一撃で判断できるようになります。鍵は、s と 1-s がシーソーの関係にあることです。
| すべり s | 二次銅損の割合 | 機械的出力の割合 | 効率 |
|---|---|---|---|
| 小さい | 小さい(s) | 大きい(1-s) | 高い |
| 大きい | 大きい(s) | 小さい(1-s) | 低い |
片方が上がれば、もう片方は必ず下がります。足すと必ず1になるからです。
ですから、「効率の高い誘導電動機はどちらか」と問われたら、すべりが小さいほうと即答できます。逆に、始動直後のように s が1に近い状態では、送り込んだ電力のほとんどが熱になり、動力としてはほとんど取り出せていない、という説明もできてしまいます。
ステップ5:例題で比率を使ってみる

実際に手を動かしてみましょう。
【例題】 ある誘導電動機において、二次入力 P2 = 100 kW、すべり s = 0.05(5%)である。このとき、二次銅損 Pc2 と機械的出力 Pm を求めよ。
ここで等価回路を描く必要はありません。比率に数字を入れるだけです。
| 項目 | 比率 | 計算 | 答え |
|---|---|---|---|
| 二次入力 P2 | 1 | ― | 100 kW |
| 二次銅損 Pc2 | s = 0.05 | 100 × 0.05 | 5 kW |
| 機械的出力 Pm | 1-s = 0.95 | 100 × 0.95 | 95 kW |
検算も簡単です。5 + 95 = 100 となり、元の二次入力に戻ります。Pc2 と Pm を足して P2 になるかを必ず確かめる癖をつけておくと、符号や割り算の向きを間違えたときに、その場で気づけます。
逆向きに問われたら
試験では、出力のほうが先に与えられることもよくあります。そのときも慌てる必要はありません。比率のどこに数字が置かれているかを見て、基準の1に戻すだけです。
| 与えられるもの | 求めるもの | 式 |
|---|---|---|
| P2 と s | Pc2 | Pc2 = s P2 |
| P2 と s | Pm | Pm = (1-s) P2 |
| Pm と s | P2 | P2 = Pm / (1-s) |
| Pc2 と s | P2 | P2 = Pc2 / s |
| Pc2 と P2 | s | s = Pc2 / P2 |
いちばん下の行にも注目してください。Pc2 と P2 が分かれば、すべり s そのものが逆算できます。回転速度が一切書かれていない問題でも、電力だけからすべりを出せてしまう。これも比率を持っている強みです。
まとめ

誘導機の二次側で起きているのは、届いた電力が、熱と動力に分かれるだけの単純な話でした。その分かれ方を決めるのが、すべり s です。
| 記号 | 名前 | 比率 | 式 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| P2 | 二次入力 | 1 | ― | 回転子に届いた元手 |
| Pc2 | 二次銅損 | s | s P2 | 熱として失う分 |
| Pm | 機械的出力 | 1-s | (1-s) P2 | 軸から取り出せる分 |
迷ったらこの言葉:誘導機の計算は「1:s:1-s」
等価回路が苦手なままでも構いません。この比率さえ手元にあれば、誘導機の計算問題は「かけ算1回」で片づきます。そして機械科目全体の中で誘導機がどんな位置にいるのかを整理したい方は、〈変圧器と誘導機の違いを「巻線が動くか動かないか」で一発理解〉を合わせて読むと、変圧器で覚えた考え方がそのまま使えることに気づけるはずです。
⚠ ここを間違える人が多い
比率そのものは単純なのに、本番で落とす人が後を絶ちません。原因はだいたい次の3つに集約されます。
❌ 出力にすべりをかけてしまう
いちばん多いのがこれです。二次銅損を出すときに、手元にある機械的出力の値にうっかり s をかけてしまうパターン。
- ❌ Pc2 = s × Pm
- ✅ Pc2 = s × P2
s をかける相手は、必ず基準の「1」である二次入力 P2 です。出力 Pm はすでに 1-s 側の数字なので、そこに s をかけても意味のある値にはなりません。厄介なのは、この間違いをしても数字がそれらしく出てしまうことです。損失の合計がわずかにずれ、効率を計算すると選択肢のどれかに近い値になってしまう。だから気づけないまま答えを選んでしまうのです。
問題文で先に与えられるのが出力のほうだったときは、まず P2 = Pm / (1-s) で基準に戻してから、s をかける。この一手間を必ず挟んでください。
❌ 二次入力と電源からの入力を混同する
「入力」という言葉が2か所に出てくるため、取り違えが起きます。
| 名前 | 何のこと | 比率の1になるか |
|---|---|---|
| 一次入力(電源からの入力) | 電源が電動機に送り込む電力 | ならない |
| 二次入力 P2 | 一次銅損と鉄損を引いた後、回転子に届く電力 | なる |
比率 1:s:1-s の「1」は、あくまで二次入力です。全体の効率を問われている問題で、うっかり一次入力を基準にして計算すると、答えが合いません。
❌ すべりを百分率のまま代入する
s = 5% と書かれているとき、式に 5 を入れてしまうミスです。
- ❌ Pc2 = 5 × P2
- ✅ Pc2 = 0.05 × P2
当たり前のようでいて、時間に追われた本番では意外と起こります。問題文の % を見たら、その場で小数に直して書き込む。この習慣だけで防げます。
過去問ではこう出た
誘導機の二次側の電力は、機械科目の中でも安定して出題されるテーマです。実際の本試験では、次の出題があります。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和1年 | 問3 |
問われ方はおおむね決まっています。二次入力・二次銅損・機械的出力のうち2つが与えられ、残りとすべり、あるいは効率を求めさせる形です。数値も素直で、比率に当てはめてしまえば計算自体は数十秒で終わります。逆に言えば、比率を持っていない人だけが、等価回路をたどって時間を溶かす問題でもあります。
配点のわりに手間がかからない、いわば取りこぼしてはいけない問題です。手を動かして体に入れておきましょう。
よくある質問
Q. 一次銅損や鉄損は、この比率のどこに入っているのですか?
入っていません。1:s:1-s は、二次側だけを切り取った比率です。一次銅損と鉄損は、電源からの入力から P2 を作る手前ですでに差し引かれています。ですから、電動機全体の効率を求める問題では、この比率で Pm を出したあとに、別途それらの損失を足し合わせて分母をつくる、という二段構えになります。「比率は二次側専用」と割り切っておくと混乱しません。
Q. 機械的出力 Pm と、定格出力(軸出力)は同じものですか?
厳密には違います。Pm から、さらに機械損(軸受の摩擦や風損)を差し引いたものが、実際に軸から取り出せる出力です。試験問題では機械損を無視してよいと明記されることも多く、その場合は Pm = 軸出力として扱えます。ただし機械損の値が問題文に書かれているときは、必ず引くこと。問題文にわざわざ書いてある数字は、使わせるために置かれていると考えてください。
Q. すべりが分からない問題では、この比率は使えませんか?
使えます。むしろ比率からすべりを求めるのが定石です。s = Pc2 / P2 という関係があるので、二次銅損と二次入力が分かれば、回転速度が書かれていなくても s が出ます。逆に、回転速度と同期速度が与えられている問題なら、先に s = (Ns - N) / Ns で s を出してから比率に入ります。同期速度の求め方があやふやな方は、〈誘導機の回転磁界と同期速度を「120f÷p」で一発計算〉で 120f/p を確認しておくと、この流れが途切れません。
Q. 比率を使った解き方だけで、本当に等価回路は捨ててよいのですか?
計算問題に関しては、ほとんどの場面で問題ありません。ただし、電流や電圧の値そのものを問われる問題では、等価回路が必要になります。おすすめの順番は、まず比率で電力の全体像をつかみ、そのうえで回路に戻るという流れです。比率という地図を持ってから回路を見ると、「この抵抗で消費されているのが s の分だな」と対応関係が見えるので、以前より格段に読みやすく感じられるはずです。比率をさらに芋づる式に広げたい方は、〈誘導機の出力比は「1:s:1-s」で芋づる式に!すべりだけで全部わかる〉も合わせてどうぞ。
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