平行導体間に働く電磁力は「ℓを掛けない」が9割
電験三種「理論」で意外な落とし穴になる平行導体間の電磁力。公式 f=μ₀μrIaIb/2πr は「1mあたりの力[N/m]」——うっかり長さℓを掛けてしまう定番ミスを、小文字f・同方向は引力・逆方向は斥力という3つのポイントで一気に攻略します。苦手意識のある方こそスッキリ整理できる決定版解説です。
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この記事で身につくこと
「平行導体間に働く電磁力」と聞くと、公式に見慣れない記号が並んでいて身構えてしまう方が多いところです。でも安心してください。この単元は公式は1個、罠は1個、向きのルールは1個という、驚くほどシンプルな構造をしています。覚えることが少ないのに毎年のように出題される、いわば「拾える1点」なのです。
ただし、その「罠が1個」を知らないまま本番に臨むと、計算そのものは合っているのに答えが違う、という一番くやしい失点をします。逆に言えば、今日その罠さえ潰しておけば、この単元は苦手どころか安定した得点源になります。
この記事を読み終えると、次の3つができるようになります。
| 身につくこと | 具体的にできるようになること |
|---|---|
| 公式の意味を理解する | f=μ₀μrIaIb/2πr の分子・分母が何を表しているか説明できる |
| 単位で使い分ける | [N/m]と[N]を見て、長さℓを掛けるかどうか一瞬で判断できる |
| 力の向きを導ける | 同方向は引力・逆方向は斥力になる理由を、フレミング左手則で証明できる |
計算問題だけでなく「引力か斥力か」を問う向きの問題も出ますから、両方をセットで押さえていきましょう。
暗記フレーズ:Nに小文字fは単位長さあたり!同方向引力・逆方向斥力
まずは今日の合言葉から入ります。
平行導体の電磁力は、μ₀μrIaIb わる 2πr、単位は[N/m]。 Nに小文字fは単位長さあたり!ℓを掛けるのはよくあるミス。同方向引力・逆方向斥力。
少し長いと感じたかもしれませんが、これは語呂合わせではありません。実際に問題を解くときに確認する順番を、そのまま一本の文にしたものです。分解すると、次の4つがきれいに並んでいます。
| フレーズの部分 | 果たしている役割 |
|---|---|
| μ₀μrIaIb わる 2πr | 公式そのもの |
| 単位は[N/m] | 答えの単位を先に押さえる |
| Nに小文字fは単位長さあたり | なぜ[N/m]なのかという理由 |
| ℓを掛けるのはよくあるミス | 最大の罠への注意喚起 |
| 同方向引力・逆方向斥力 | 力の向きの結論 |
正直にお伝えすると、このフレーズを丸暗記するだけでは基本問題は解けても、「距離rを2倍にしたら?」のような応用問題でつまずきます。フレーズは入り口、理由の理解が本体です。ここから先で、その理由を一つずつ埋めていきましょう。
ステップ1:最大の罠——長さℓを掛けてはいけない

この単元で最も多い失点が、公式を正しく覚えているのに反射的に長さℓを掛けてしまうことです。「力を求めるのだから、導体の長さも要るだろう」——そう思ってしまう気持ちは、とてもよく分かります。
原因ははっきりしています。電磁力の分野では のように、ℓを掛ける公式を先に習うからです。その手が勝手に動いてしまう。
この公式のfが小文字である理由
平行導体の公式は次の形をしています。
単位に注目してください。[N]ではなく [N/m](ニュートン毎メートル) です。つまりこれは「導体1メートルあたりに働く力」であって、最初から単位長さあたりの値として定義されているのです。だから記号も、大文字のFではなく小文字のfが使われます。
導体の長さは問題ごとにバラバラです。もし最初から「全体の力」だけで定義してしまうと、長さが変わるたびに別の式を覚え直すはめになります。そこで長さに依存しない共通のものさしを先に決めておき、必要なときだけ長さを掛けて全体量に変換する——これが設計思想です。単位面積あたりの力、単位長さあたりの抵抗など、電験の他分野でも繰り返し出てくる考え方ですから、ここで身につけておくと後で効いてきます。
ステップ2:小文字fと大文字F——単位から逆引きする

では実戦でどう見分けるか。答えは単純で、単位から逆引きするだけです。
| 小文字 f | 大文字 F | |
|---|---|---|
| 単位 | [N/m] | [N] |
| 意味 | 単位長さあたりの力 | 導体全体に働く合計の力 |
| ℓの扱い | 掛けない | 最後に ℓを掛ける |
| 式 | f=μ₀μrIaIb/2πr | F=f×ℓ |
「単位が[N/m]だから小文字f、だからℓは掛けない」。この一言で迷いは消えます。単位から「今、何を求めているのか」を逆引きする思考は、理論に限らず電験三種の全科目で通用するスキルです。
問題文に単位の指定がなかったら
教科書によっては「F[N/m]」のように、記号は大文字のまま単位だけで区別する表記もあります。見た目に惑わされず、単位というファクトで判断する癖をつけてください。
問題文に単位の指定が見当たらないときは、「単位長さあたり」という言葉があるかどうかで判断します。書かれていればfのまま、書かれていなければ全電磁力Fを聞いていると考えて構いません。
見直しのちょっとしたコツもあります。自分の出した答えの単位を、頭の中で声に出して読んでみてください。「ニュートン」なら全体の力、「ニュートン毎メートル」なら1メートルあたりの力。読み上げると、案外あっさり食い違いに気づけます。
ステップ3:同方向電流はなぜ引き合うのか

ここからは力の向きです。「同方向は引力」は結論としてよく知られていますが、なぜそうなるのかを追える人は多くありません。理由が分かれば、本番で迷ったときに自分で確かめられるようになります。
導体Iaが左、導体Ibが右にあり、どちらも上向きに電流が流れている場面で考えます。
- Iaが磁界を作る……右ねじの法則で考えると、Ibのある位置での磁界は「紙面の奥向き(×)」になります。
- Ibがその磁界の中で力を受ける……ここでフレミング左手則です。中指(電流)=上向き、人差し指(磁界)=奥向き(×)に合わせると、親指(力)は左向き、つまりIaのある方を向きます。
結果、IbはIaに引き寄せられる。これが引力の正体です。
反対側から見ても結論は同じ
「Ibから見たIaはどうなるの?」という疑問も自然に湧きます。同じ手順で確かめられます。Ibは上向き電流なので、Iaのある位置での磁界は「紙面手前向き(・)」。この磁界の中でIaが受ける力をフレミング左手則で求めると、親指はIbの方を向きます。Iaもまた引き寄せられるわけです。
これは偶然ではなく、ニュートンの作用反作用の法則そのものです。「AがBを引く力」と「BがAを引く力」は大きさが等しく向きが逆、つまり必ず「お互いに引き合う」形にしかなりません。ですから試験本番では片方だけ確認すれば十分——これは意外と大きな時短になります。
右手と左手の使い分け
ここで多くの方が混乱するのが、なぜ右手と左手の両方が出てくるのか、という点です。役割がまったく違います。
| 場面 | 使う法則 | 求めるもの |
|---|---|---|
| 電流が磁界を作るとき | 右ねじの法則(右手) | 磁界の向き |
| 磁界の中の電流が力を受けるとき | フレミング左手則 | 力の向き |
「作る側は右、受ける側は左」。この対応を今のうちに定着させておくと、本番で緊張しても混同しません。右手と左手の区別そのものが怪しいと感じる方は、先にフレミングの法則を「左手は動かす・右手は生む」で一発整理するを読んでおくと、この先がぐっと楽になります。
ステップ4:逆方向電流はなぜ反発するのか

同じ手順で、今度は逆向きのケースを自分で確かめてみましょう。Iaは上向きのまま、Ibだけを下向きにします。
Iaが作る磁界はさっきと変わらず、Ibの位置で×方向。変わったのはIbの電流の向きだけです。中指(電流)=下向き、人差し指(磁界)=×方向にすると、親指は右向き——Iaから遠ざかる方向を指します。これが斥力(反発力)です。
ここで押さえておきたいのが、大きさと向きは別の話だということ。電流が大きくなれば力は強くなりますが、向きが変わることはありません。向きを決めるのは「電流の方向が同じか逆か」だけです。
そもそも磁界と電流の向きの関係があやふやだと感じたら、電磁力は「右ねじ1本」で攻略できる——電流と磁界の方向に立ち返っておくと、ここでの手順がすっと入ってきます。
ステップ5:透磁率μrの条件を読み落とさない

公式の分子にあるμr(比透磁率)は、その媒質が磁界をどれだけ通しやすいかを表す数値です。条件によって扱いが変わるので、表で整理しておきます。
| 媒質 | 比透磁率μr | 電磁力fへの影響 |
|---|---|---|
| 真空・空気 | 1 | 省略してよい(f=μ₀IaIb/2πr) |
| 銅・アルミ・木材・プラスチック | ほぼ1 | 真空と同じ扱いでよい |
| 鉄・ニッケル・コバルト・パーマロイ | 数百〜数千 | fが大きく増大する |
μrが大きいと分子が大きくなるので、電磁力は爆発的に増えます。仕組みは2段階です。鉄心があるとIaが作る磁界そのものがμr倍に強化され、その強い磁界の中に置かれたIbがより強い力を受ける。変圧器で鉄心を使う理由とも地続きの話です。
注意点が1つ。公式のμrは導体そのものの材質ではなく、周りを満たす媒質の透磁率です。ここを取り違えると計算が根本から狂います。試験では通常「比透磁率μr=500」のように問題文で与えられ、書かれていなければμr=1で計算して構いません。
磁界の強さHそのものの求め方が不安なら、4形状コイルの磁界の強さHを「分母の2πr」で見分けるを先に押さえておくと、この公式の分母2πrの意味もすんなり腑に落ちます。
ステップ6:現場では電磁力が設備を壊す——フラッタリング

この公式は机上の話ではありません。送電線の電線どうしにも、実際にこの力が働いています。
通常運転なら問題になりませんが、短絡(ショート)事故が起きると電流は定常時の数十倍に跳ね上がります。ここで効いてくるのが、電磁力が Ia×Ib に比例するという性質です。
| 電流の倍率 | 電磁力の倍率 |
|---|---|
| 10倍 | 100倍 |
| 50倍 | 2500倍 |
電流が10倍で電磁力は100倍。50倍なら2500倍です。この力で電線どうしが激しく引き合い、鞭のようにしなって接触してしまう現象をフラッタリングと呼びます。英語の flutter(バタバタと震える)が語源で、電線の振動が鳥の羽ばたきに似ていることから来ています。
逆方向電流の場合も同じく深刻です。向かい合った母線(バスバー)に大電流が逆向きに流れると、文字どおり外側へ弾き飛ばされる方向に力がかかり、バスバーが曲がってしまうこともあります。
同方向・逆方向はどんな場面で起きるか
| 配置 | 起きる場面 | 働く力 |
|---|---|---|
| 同方向電流 | 送電線が短絡事故を起こしたとき | 引力(フラッタリング) |
| 逆方向電流 | 電気炉・アーク溶接機など、行きと帰りの導体が並ぶとき | 斥力(バスバーの変形) |
だから設計者は、電線の間隔を十分に取ったり、スペーサーという金具で振動を抑えたりします。短絡電流の最大値を事前に計算し、その電磁力に耐える構造を決めているのです。試験対策として覚える公式が、そのまま現場の安全設計につながっている——そう思うと、暗記も少しだけ楽しくなりませんか。
ステップ7:確認問題で仕上げる
Q1:単位長さあたりの力を求めよ、と言われたら

真空中に置かれた平行導体間に働く、単位長さあたりの電磁力を求める問題が出ました。公式に導体の長さℓを掛けるべきでしょうか?
問題文に「単位長さあたり」とありますから、答えの単位は[N/m]。ℓは掛けません。公式のfをそのまま使えば正解です。
数値でも確かめておきましょう。真空中、Ia=Ib=10A、距離r=0.1mとすると、
4πと2πが整理されて、きれいに [N/m] になります。ここでℓを掛けてしまうと単位が[N]になり、聞かれていることと食い違ってしまいます。
A1:ℓを掛けない——そして全体の力が要るときだけ掛ける

もし「ℓ=2m」という条件が加わり、全電磁力を問われたらどうなるか。2ステップで考えます。
| ステップ | 計算 | 単位 |
|---|---|---|
| ① 単位長さあたりを求める | f=2×10⁻⁴ | [N/m] |
| ② 全体に直す | F=f×ℓ=2×10⁻⁴×2=4×10⁻⁴ | [N] |
まずfを出し、全体が必要なときだけ最後にℓを掛ける。この順番で考えれば混乱しません。単位が[N/m]から[N]へ変わっていることも、あわせて確認してください。
Q2:逆方向電流のとき、引力か斥力か
2本の平行導体に逆方向の大電流が流れています。導体間には引力・斥力のどちらが働くでしょうか。
フレーズどおり、答えは斥力です。迷ったらステップ4の手順に戻り、フレミング左手則で確かめれば必ず同じ結論にたどり着きます。向きはフレーズで即答、迷ったら法則で確認——この二段構えが安心です。
A2:逆方向は斥力で確定
ここで1つ補足を。問題文の「大電流が流れている」という条件は、力の向きには一切関係しません。
| 判断すること | 決めているもの |
|---|---|
| 引力か斥力か(向き) | 電流の方向が同じか逆か だけ |
| どれだけ強いか(大きさ) | 電流の積 Ia×Ib、距離r、透磁率μr |
「電流が大きいから斥力が強い」は正しい。しかし「電流が大きいから斥力が引力に変わる」は誤りです。向きと大きさを切り分ける——この整理は他の単元でも武器になります。
まとめ
最後に5点だけ、頭に入れて持ち帰ってください。
| # | 押さえるポイント |
|---|---|
| 1 | 公式と単位:f=μ₀μrIaIb/2πr、単位は[N/m] |
| 2 | 単位長さあたりの力なので、ℓを掛けない(最重要の罠回避) |
| 3 | 透磁率:真空・空気はμr=1で省略可。鉄などなら力が増大 |
| 4 | 力の向き:同方向=引力、逆方向=斥力 |
| 5 | 迷ったらこの言葉「Nに小文字fは単位長さあたり!同方向引力・逆方向斥力!」 |
記事の冒頭で「ここで失点する人が続出する」とお伝えしましたが、ここまで読み終えた今なら、もう罠にかかることはないはずです。苦手だと思い込んでいたテーマを得点源に変える——それがこの単元の正しい向き合い方です。
⚠ ここを間違える人が多い
実際の出題では、公式そのものより「その先の処理」で差がつきます。特に多いのが次の3つです。
❌ 3本の導体が正三角形に並ぶとき、力を足し算してしまう
3本目の導体が加わると、真ん中の1本は2本から別々の向きに力を受けます。ここで2つの力の大きさをそのまま足してしまうのが典型的な失点です。
✅ 正しくは、力は大きさと向きを持つベクトルですから、合成には向きを考慮しなければなりません。正三角形配置では2つの力のなす角が60°になり、合力は単純な2倍にはならず、 倍になります。「力を合成するときは、まず向きを図に描く」を習慣にしてください。
❌ 長方形ループの左右で、力を「和」にしてしまう
1本の直線導体のそばに長方形のループが置かれる問題も頻出です。ループの左辺と右辺では、電流の向きが互いに逆になります。
✅ したがって左辺と右辺が受ける力は互いに逆向きになり、打ち消し合う=差をとるのが正解です。距離も左辺と右辺で異なりますから、それぞれ別々に計算してから引き算します。「ループなら向きが逆になる辺がある」と最初に気づけるかどうかが分かれ目です。
❌ 電荷の法則と混同して「同方向だから反発」と考えてしまう
静電気では同じ符号の電荷どうしが反発しますから、その感覚を引きずって「同じ向きの電流なら反発するはず」と考えてしまう方がいます。
✅ 電流の場合は逆です。同じ向きの電流どうしは引き合います。この違いは丸暗記でも構いませんが、不安ならステップ3のフレミング左手則で毎回確かめられるようにしておけば、本番で電荷の記憶に引きずられることはありません。
過去問ではこう出た
このテーマは、直近の試験で繰り返し出題されています。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和4年度 下期 | 問4 |
| 令和5年度 下期 | 問4 |
| 令和6年度 下期 | 問4 |
注目していただきたいのは、3年連続で同じ問4の位置に出ているという点です。理論科目の序盤、磁気分野の定番ポジションとして完全に定着していると考えてよいでしょう。裏を返せば、ここは「出るかどうか」を悩む場所ではなく、出る前提で仕上げておく場所です。
出題の切り口は、公式に数値を入れて電磁力を求める計算問題、引力・斥力の向きを問う問題、そして電流や距離の条件を変えたときに電磁力が何倍になるかを問う問題——おおむねこの3方向です。いずれも今日の5ポイントで対応できますが、実際に手を動かして解いておかないと、本番の限られた時間では単位の判断が鈍ります。
よくある質問
Q. 公式の分母にある「2πr」の2πは何を意味しているのですか?
導体を中心とした半径rの円周の長さが です。直線電流が作る磁界は導体を中心とした同心円状に広がるので、その円周で割る形になります。分母にrがあるということは、距離が離れるほど力が弱まる——直感どおりの結果です。この「分母の2πr」は磁界の強さHの公式にも共通して現れる形なので、セットで覚えておくと記憶の負担が減ります。
Q. 2本の導体に流れる電流の大きさが違うときは、どちらの導体が強い力を受けますか?
両方とも同じ大きさの力を受けます。公式の分子は という積の形になっていて、どちらか一方だけの値ではありません。作用反作用の法則により、大きさが等しく向きが逆の力が互いに働きます。「電流が大きい方が強く引っ張る」と考えたくなりますが、これは誤りです。
Q. 導体間の距離rを2倍にすると、電磁力はどうなりますか?
2分の1になります。公式でrは分母にありますから、電磁力fは距離rに反比例します。rが4倍なら4分の1です。ここを押さえておくと、計算問題で数値を出したあとの検算にも使えます。「距離を離したのに力が大きくなった」といった答えが出たら、どこかで計算を間違えている——そう気づけるようになります。「IaとIbに比例、rに反比例」、この関係だけでも覚えておく価値は十分にあります。
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