4形状コイルの磁界の強さHを「分母の2πr」で見分ける
電験三種「理論」で多くの独学者が混乱する直線状・円形・無限長・環状の磁界の強さHの4公式を、たった1つの視点で攻略。「円形コイルだけ分母に2πrがない」という例外を先に押さえれば、似て見える4つの式がスッと整理でき、本番で迷わず書き分けられるようになります。
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この記事で身につくこと
参考書の電磁力のページを開くと、磁界の強さHの公式が4つ、ずらっと並んでいます。
似たような分数が4つ。Nが付いたり付かなかったり、πがあったりなかったり。これを丸暗記しようとして、試験本番でどれがどれだか分からなくなる——この単元でつまずく人のほぼ全員が、同じ道をたどります。
ですが、安心してください。この4つはバラバラの公式ではありません。整理の軸はたった1本、「円形コイルだけが例外」。これだけです。
| つまずきポイント | この記事を読んだあと |
|---|---|
| 4つの形状と公式の対応が覚えられない | 形を見れば分母が決まると分かる |
| 円形コイルにもπを付けてしまう | 円形だけπなしの理由を説明できる |
| 忘れたら終わりの丸暗記 | アンペールの法則から自力で導ける |
丸暗記から卒業して、「形を見たら分母が決まる」という考え方を手に入れる。それが今日のゴールです。

暗記フレーズ:円形だけ2r、残りは長さで割る
まず結論から。電験の勉強は、結論を先に頭に入れてから理屈を追うのが一番の近道です。
円形だけ NI/2r(2πrなし)。残り3つは長さで割る。Hの分母は形で決まる。
この一文がすべてです。円形コイルだけがビオ・サバールの法則から導かれるためπが消え、残りの3つはアンペールの法則という共通のルールから導かれるので、必ず分母に「磁界が回るルートの長さ」——2πr か ℓ——が来ます。

ステップ1:混乱の原因は3つしかない
いきなり公式に入る前に、なぜこの単元でつまずくのかを一度きちんと言葉にしておきましょう。原因が分かれば、対処は驚くほど簡単になります。
| 混乱の原因 | 具体的な症状 |
|---|---|
| ① 形状と公式の対応が曖昧 | 「環状ソレノイドってどっちの式だっけ?」で手が止まる |
| ② 円形コイルのトラップ | 他の3つに引っ張られて、円形にもπを付けてしまう |
| ③ 丸暗記に頼っている | 一度忘れると、その場で復元する手段がない |

このうち③が一番やっかいで、同時に一番おいしいポイントでもあります。というのも、アンペールの法則というたった1つのルールを理解しておけば、4公式のうち3つはその場で作り直せてしまうからです。覚える量が4分の1になる、と言い換えてもいいでしょう。
なお、磁界そのもののイメージがまだ曖昧だという方は、先に電磁力の前に「磁石の正体」:同種は反発・異種は引き合うを一発理解を読んでおくと、この先の話がぐっと入りやすくなります。
ステップ2:直線状導体 ── 分母の2πrは「円周の長さ」だった
では形状①、まっすぐな電線から始めましょう。

アンペールの法則をひとことで
アンペールの法則は、言葉にするとこうなります。
電流の周りを閉じたループでぐるっと一周すると、磁界H × そのループの長さが、ループの中を流れる電流に等しくなる。
文字で読むと難しく感じますが、絵にすると単純です。縦に伸びた電線に電流Iを流すと、電線の周りに磁界が同心円状に広がります。電線を軸にした渦巻きだと思ってください。
式を実際に組み立てる
磁界が回っているルートは「半径rの円」です。円周の長さは、小学校で習ったとおり 。これをアンペールの法則に当てはめると、
両辺を で割って、
出ました。丸暗記せずに、円周の公式だけで導けてしまいました。
ここで受け取ってほしいのは、答えそのものより分母の正体です。分母の は、天から降ってきた謎の数字ではなく「磁界が回る円の周の長さ」でした。この感覚さえ掴めば、残りの形状も同じ手口で崩せます。
ステップ3:円形コイル ── 今日最大の山場、πはなぜ消えるのか
さあ、本日の主役です。形状②、円形コイル。
分母をよく見てください。2r だけ。πがどこにもありません。

なぜアンペールの法則が使えないのか
直線状導体では、磁界がきれいな同心円を描いてくれたので、閉じたループを設定するのが簡単でした。ところが円形コイルでは事情が変わります。求めたいのは「コイルの中心という1点」の磁界。しかもコイル自体がすでに曲がっている。この状況では、アンペールの法則で使える都合のいい閉ループが引けないのです。
ビオ・サバールの法則と、πが約分される瞬間
そこで登場するのがビオ・サバールの法則です。考え方は「コイルを細かく刻み、その微小な一片一片が中心に作る磁界を、全周にわたって足し合わせる」というもの。要するに積分です。
この積分の途中で、円周の要素である が分子側に顔を出します。そして分母側にもコイル全体の寄与として が現れ、 と が約分されて消える。残るのが というわけです。
| 項目 | 直線状導体 | 円形コイル |
|---|---|---|
| 使う法則 | アンペール | ビオ・サバール |
| 磁界を求める場所 | 電線から距離rの点 | コイルの中心 |
| πの扱い | 分母に残る | 計算途中で約分され消える |
巻数Nが掛かるのは、N巻きのコイルは実質「N本分の電流が流れている」のと同じだからです。ここは直感どおりで構いません。
「なぜπが消えるのか」を物理の仕組みとして持っておけば、試験本番でうっかりπを付ける事故は起きません。丸暗記だと不安ですが、理由が分かっていれば忘れようがないのです。
ステップ4:無限長ソレノイド ── πが無くてもアンペール組
形状③、無限長コイル(ソレノイド)です。長〜く引き伸ばしたコイルをイメージしてください。

内側だけに磁界があるのがミソ
無限長コイルの大きな特徴は、内側には均一な磁界があり、外側はほぼゼロという点です。そこで閉ループを「コイルの内側を通って、外側を戻ってくる長方形」に設定します。
外側の磁界はゼロですから、外側の辺は計算に一切貢献しません。つまり磁界Hが効いているのは、長さℓの内側部分だけ。ここがこの形状の急所です。
式を組み立てる
長さℓの中にN巻きあるので、ループを貫く電流はN本分、つまり になります。
は「単位長さあたりの巻数」、つまり巻数の密度です。これを小文字の と置いて と書くこともあります。「1メートルあたり何回巻いてあるか」という意味だと押さえておけば十分です。
πが出てこない理由
ここで一つ、混同しやすい点を潰しておきます。πが無いからビオ・サバール、ではありません。 無限長ソレノイドは立派なアンペール組です。πが出てこないのは、磁界が通るルートが円ではなく直線(長さℓ)だから。それだけの理由です。
分母が になるか になるかは、磁界のルートが円か直線かで決まる。
ステップ5:環状ソレノイド ── 直線状との違いは「N倍」だけ
最後、形状④の環状ソレノイド。コイルをドーナツ状に曲げた形で、トロイダルコイルとも呼ばれます。

磁界はドーナツの中——鉄心の中——をぐるぐる回っています。ですから閉ループは「ドーナツの中心を通る円」に設定します。その半径をrとすれば、ループの長さは 。直線状導体とまったく同じ形の分母です。
直線状と見分ける唯一のポイント
分母が同じなので、この2つは試験でも混同されやすい組み合わせです。しかし違いはたった1点しかありません。
| 直線状導体 | 環状ソレノイド | |
|---|---|---|
| 導体の本数 | 電線1本 | N巻きのコイル |
| ループを貫く電流 | ||
| 分母 | (同じ) | |
| 公式 |
つまり「直線状のIがNIに変わっただけ」。この一言で覚えてしまえば、二度と取り違えません。なお環状ソレノイドの は、実務では「平均磁路長」と呼ばれ、変圧器の鉄心設計でそのまま使われる量です。
ステップ6:4形状を一枚の表で整理する
ここまでの4つを、一度に並べて見比べてみましょう。バラバラに覚えていたものが、一本の軸で串刺しになります。
| 形状 | 公式 | 使う法則 | 分母の正体 | π |
|---|---|---|---|---|
| ① 直線状導体 | アンペール | 円周 | あり | |
| ② 円形コイル | ビオ・サバール | ただの | なし(例外) | |
| ③ 無限長コイル | アンペール | 直線の長さ | なし | |
| ④ 環状ソレノイド | アンペール | 円周 | あり |

表を縦に眺めると、言いたいことが2行にまとまります。
- 円形だけビオ・サバール、残り3つはアンペール
- 円形だけ 2r、残り3つは 2πr か ℓ
これが今日の一番大事なエッセンスです。試験直前に見返すなら、この表だけで十分でしょう。
ステップ7:基礎クイズ ── 円形コイルで頭を切り替えられるか
理解の確認です。手を動かしてみましょう。
問題 半径 の円形コイルに、巻数 、電流 を流した。中心の磁界の強さHはいくらか。
解答
「円形コイル」という言葉を見た瞬間に「例外! πを付けない!」と切り替えられたかどうかが、この問題のすべてです。
答えは 20 [A/m]。
もし間違えて2πrを付けたら
ここが恐ろしいところです。うっかり で計算すると、
20 が 6.37 になってしまいました。答えが3分の1以下です。しかもこの 6.37 という数字、いかにも選択肢に並んでいそうな顔をしています。これが「円形コイルのトラップ」の怖さです。
ステップ8:応用クイズ ── 磁界Hと磁束密度Bをつなぐ
もう一問、少し先に進みます。
問題 直線状導体に電流Iを流したとき、距離rの点の磁界の強さをHとする。周囲の透磁率をμとして、この点の磁束密度Bを求めよ。
解答は3ステップ
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1 | HとBをつなぐ関係式 を思い出す |
| 2 | 直線状導体の を代入する |
| 3 | 合体させて |
「原因のH、結果のB」で混同を防ぐ
HとBを取り違える失点は本当に多いのですが、次のイメージを持つだけで激減します。
| 記号 | 立ち位置 | 意味 |
|---|---|---|
| 原因 | 電流が流れれば生まれる。空間の材質には関係しない | |
| 結果 | 原因Hに材質の性質(透磁率μ)が掛かって初めて決まる |
だから という順序になるわけです。Hは材質に無関係、Bは材質込み。この一文を覚えておけば、問題文が「磁界」と言っているのか「磁束密度」と言っているのかで迷わなくなります。
ステップ9:この公式、実は身の回りで働いている
少し息抜きに、今日の4公式が現実のどこで使われているかを見ておきましょう。
| 使われている場所 | 関係する形状 |
|---|---|
| MRI(医療用画像診断装置) | 無限長コイル・円形コイルの原理を組み合わせた超電導コイル |
| 電柱の上の変圧器(トランス) | 環状ソレノイドと同じ原理の鉄心。平均磁路長 を使って設計 |
病院であの大きな輪の中に入って撮影するMRIは、人体を透過できる均一な磁界Hを作る必要があります。その設計の土台にあるのが、今日勉強した公式です。街を歩けばどこにでもある電柱の変圧器も同じで、鉄心の平均磁路長の計算がそのまま効いてきます。
机上の空論ではなく、社会インフラの根っこにある知識を学んでいる——そう思うと、少し背筋が伸びませんか。
まとめ
最後にもう一度、4形状を確認しておきましょう。ここをスクリーンショットしておけば、試験直前の見直しはこれ一枚で足ります。
| 形状 | 公式 | ひとこと |
|---|---|---|
| 直線状導体 | アンペール組、分母は円周 | |
| 円形コイル【例外】 | ビオ・サバール、πなし | |
| 無限長コイル | アンペール組、分母は長さℓ | |
| 環状ソレノイド | アンペール組、直線状のIがNIになっただけ |
そして今日の暗記フレーズを、もう一度。
円形だけ 2r、残りは長さで割る。Hの分母は形で決まる。
形を見たら分母が決まる。分母が決まれば公式が決まる。 この順序で頭を動かせるようになれば、この単元はもう得点源です。苦手だったはずの4公式が、今は1つのルールに見えているはずです。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元での失点は、実は数パターンに集中しています。事前に知っておくだけで防げるものばかりですから、しっかり潰しておきましょう。
❌ 半円のコイルにも H = I/2r をそのまま使ってしまう
問題図をよく見ると、円が丸ごと1周ではなく半分だけというケースがあります。これは頻出のひっかけです。
✅ 正しくは:中心に磁界を作っているのは円弧の部分だけで、しかも半周分しかありません。したがって の半分、つまり になります。図の中にまっすぐな導体部分が描かれていても、その直線部分から中心を見ると電流の向きと位置関係が一直線上に並ぶため、中心の磁界には寄与しません。「弧の割合を掛ける」と覚えておくと、4分の1円などの変形問題にも対応できます。
❌ ℓ(エル)と I(アイ)を取り違えて代入する
という式は、電験三種で最も見間違いが起きやすい式の一つです。手書きのメモで「ℓ」と「I」を書き分けているつもりでも、計算用紙の上では驚くほど似た形になります。
✅ 正しくは:数値を代入する段階で、単位を必ず添えて書くのが最強の防御です。「0.2 m」と書けば長さ、「0.1 A」と書けば電流。単位まで書いてから代入すれば、分母に電流を入れる事故は起こりません。この一手間で、透磁率μを問う問題まで芋づる式に落とす失点が防げます。
❌ 円形コイルの軸上で「反対側は向きが逆」と思い込む
円形コイルの中心から軸に沿って離れた点の磁界を扱うとき、コイルを挟んで反対側では磁界の向きが反転すると考えてしまう人がいます。
✅ 正しくは:反転しません。中心を として軸上の磁界を表すと、コイルの左右で完全に対称な、中央が最も高い山なりの形になります。中心で最大、遠ざかるほどゼロに近づく——この形をイメージで持っておけば、グラフ選択問題で迷いません。
過去問ではこう出た
この分野は、電験三種の理論科目で非常に安定して出題されるテーマです。実際、電験ジムに収録している範囲だけでも次の6問が該当します。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成28年 | 問3 |
| 平成30年 | 問4 |
| 令和1年 | 問4 |
| 令和6年 上期 | 問4 |
| 令和7年 上期 | 問4 |
| 令和7年 下期 | 問4 |
注目してほしいのは問番号の偏りです。問3〜問4という、試験開始直後に出てくる位置に集中しています。つまり、ここで手が止まると本番のリズムそのものが崩れかねません。逆に言えば、4公式を即答できる状態にしておけば、開始5分で1問確保して落ち着いて先に進めるということです。
出題形式は、公式に数値を代入する基礎計算と、形状を組み合わせて磁界を合成させる応用の両方があります。まずは4公式を確実にし、そのうえで組み合わせ問題に進むのが最短ルートです。なお、電流が2本になると力の話(電磁力)に発展します。そちらは平行導体間に働く電磁力は「ℓを掛けない」が9割で扱っているので、続けて読むと理解が立体的になります。
よくある質問
Q. 4つの公式は、結局すべて丸暗記しないとダメですか?
いいえ。丸暗記が必要なのは、正確には円形コイルの だけです。残りの3つは、アンペールの法則「磁界 × ルートの長さ = 貫く電流」さえ覚えていれば、その場で組み立て直せます。磁界のルートが円なら長さは 、直線なら 。あとは貫く電流が か かを図から読み取るだけです。試験本番で公式が飛んでも、この手順を踏めば復元できます。覚える対象を1つに絞れる、というのがこの単元最大の攻略法です。
Q. 無限長ソレノイドの「無限長」って、実際にはあり得ないのでは?
そのとおりで、現実に無限に長いコイルは存在しません。これは十分に長いコイルを扱いやすくするための理想化です。実際のコイルでも、長さが直径に比べて十分大きければ、内部の磁界はほぼ均一になり外部はほぼゼロになるため、 が良い近似として使えます。試験問題で「無限長」「十分に長い」と書かれていたら、「端の影響は考えなくていい」という合図だと受け取ってください。
Q. 磁界Hと磁束密度B、問題文ではどちらを問われているのか見分けるコツは?
単位に注目するのが一番確実です。 とあれば磁界H、(テスラ)とあれば磁束密度B。また、問題文に透磁率μや比透磁率、鉄心の材質が登場していたら、ほぼ間違いなくBを問う流れです。逆に材質の話が一切出てこなければ、Hだけで完結します。μが出てきたら を挟む——この反射を作っておきましょう。なお、この「材質の性質を掛けて実際の量が決まる」という構図は静電気分野とそっくりで、そのあたりの対応関係は静電気と電磁力は「双子の公式」——εをμに替えるだけで全部解けるで詳しく整理しています。εをμに置き換えるだけで公式が対応する、という視点を持つと記憶量が一気に減ります。
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