誘導電動機の始動法を「かご形4法+巻線型」で完全整理!Y-Δ始動の1/3ルールも数学的に証明
電験三種「機械」科目の頻出テーマ「誘導電動機の始動法」を完全整理。かご形の4つの始動法(全電圧始動・Y-Δ始動・始動補償器法・始動リアクトル法)の仕組みと特徴、多くの受験生がつまずく「なぜ電流・トルクが1/3になるのか」の数学的根拠、巻線型の「比例推移」まで図解でマスターできる1記事です。
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この記事で身につくこと
誘導電動機の始動法は、独学で勉強していると「用語がやたら多くて、どれがどれだか分からなくなる単元」の代表格です。全電圧始動、Y-Δ始動、始動補償器法、始動リアクトル法、外部抵抗始動法……名前を5つ並べられた時点で、もう覚える気が失せてしまう。そんな経験、ありませんか。
でも安心してください。この単元は分類の骨組みさえ掴めば、あとは各方式の「キャラクター」を確認していくだけです。しかも骨組み自体は、驚くほどシンプルです。
この記事を読み終えると、次のことができるようになります。
| 身につくこと | 中身 |
|---|---|
| 全体の分類が言える | かご形は4方式、巻線型は1方式。なぜその数なのかまで説明できる |
| 1/3ルールの根拠が言える | Y-Δで電流もトルクも1/3になる理由を、電流とトルクで別々に説明できる |
| 比例推移が図で説明できる | 二次抵抗を増やすとトルク曲線がどう動き、なぜトルクが増えるのかが分かる |
| 選択肢を切れる | 「最大トルクの値も大きくなる」のような誤りの記述を、その場で切り捨てられる |
特に多くの受験生がつまずくのが、次の3つです。

- かご形4法の特徴がごちゃごちゃになる(1/3はY-Δだったか補償器法だったか)
- Y-Δでなぜ1/3になるのか、根拠が分からず数字だけ覚えている
- 比例推移で「グラフが右にずれる」と聞くが、だから何なのかが分からない
この3つは、いずれも丸暗記では絶対に解消しないタイプの混乱です。逆に言えば、理屈を1回だけ通しておけば二度と迷わなくなる部分でもあります。今日はその1回を、一緒にやっていきましょう。
暗記フレーズ:かご形4法は全・Y-Δ・補償器・リアクトル、全がつかないのは巻線型だけ
かご形4法:全・Y-Δ(1/3ルール)・補償器・リアクトル。巻線型はスリップリングで外部抵抗→比例推移でトルク一定。全がつかないのは巻線型だけ!
長めのフレーズですが、これ1本で始動法の全体像が入ります。前半でかご形の4つを列挙し、後半で巻線型の1つを押さえる構成です。
そして地味に効くのが最後の一言、「全がつかないのは巻線型だけ」。「全電圧始動」の「全」がつくのはかご形の話という目印になるので、問題文に方式名が出てきたときに、それがどちらの陣営の話なのかを一瞬で判別できます。
ステップ1:まず分類ツリーで「なぜ4対1なのか」を掴む
誘導電動機の始動法は、回転子の構造によって大きく2つに分かれます。

| 構造 | 触れる場所 | 始動法の数 | 方式名 |
|---|---|---|---|
| かご形 | 一次側(電源側)のみ | 4つ | 全電圧始動・Y-Δ始動・始動補償器法・始動リアクトル法 |
| 巻線型 | 二次側(回転子側)も可 | 1つ | 外部抵抗始動法 |
「なぜかご形だけ4つもあるのか」と思いますよね。理由はシンプルで、かご形は回転子が密閉されたかご構造で、外から手が出せないからです。触れるのが電源側だけなので、「どうやって電圧を下げるか」というアプローチの違いが4パターンに分かれました。
一方の巻線型は、スリップリングという部品で回転子側に直接アクセスできます。二次側を自由にいじれるので、方式は1つで十分カバーできてしまうわけです。
触れる場所の自由度の違いが、そのまま方式の数の違いになっている。これが分類ツリーの正体です。
「巻線型のほうが高性能」ではない
もう1つ、誤解しやすいところを潰しておきます。現場で圧倒的に多く使われているのはかご形です。構造が単純で壊れにくく価格も安いため、工場のポンプ・ファン・コンベアといった汎用用途のほとんどはかご形が担っています。
巻線型は、大きな始動トルクや細かい速度制御がどうしても必要な、クレーン・圧延機・大型送風機といった特殊な用途に限定的に使われる「専門職」のような位置づけです。スリップリングがある分だけ高性能、という単純な優劣ではなく、特性の違いとして捉えてください。試験でも「なぜその方式を使うのか」という理由が問われることがあります。
そもそも誘導電動機がどう回っているかが怪しい人は、先に三相誘導電動機の原理を「回転磁界→誘導電流→フレミング左手」で腹落ちさせるを読んでおくと、この先の話が一気に軽くなります。
ステップ2:①全電圧始動法(じか入れ)は「シンプルだが周りに迷惑」
かご形の1つ目は、全電圧始動法(別名・じか入れ法)。電源電圧をそのまま印加するだけの、いちばん素朴な方式です。

追加設備が要らないので安く、構造もシンプル。その代わり、始動電流は定格電流の5〜8倍にもなります。
なぜそこまで跳ね上がるのか。停止している状態、つまりすべり の誘導電動機は、回転子側から見るとほぼ短絡に近い状態です。変圧器の二次側を短絡したときと同じ理屈で、インピーダンスが小さくなって電流が暴れる、というわけです。
「電動機が壊れる」は誤解
ここで1つ、勘違いされやすい点を整理しておきます。
| ❌ 思いがちなこと | ✅ 実際のところ |
|---|---|
| 始動電流が大きいと電動機が壊れる | 始動は数秒で終わるため、巻線が熱破壊するほどの時間ではない |
| 問題は電動機の内部で起きる | 問題は配電線の電圧降下など、周りの機器への影響 |
大容量機をじか入れすると配電線に電圧降下が生じ、照明が一瞬暗くなる「フリッカ」が起きることもあります。だから小容量電動機向けに限定されるのです。
一方で、電圧を一切下げないので始動トルクはかご形4法の中で最大。「電流もトルクも大きいけれど、小容量にしか使えない」——これが全電圧始動のキャラクターです。
ステップ3:②Y-Δ始動法の特徴を先に押さえる
かご形の2つ目が、おなじみのY-Δ始動法(スターデルタ始動)。始動時はY結線で電圧を抑え、加速したらΔ結線に切り替えて全電圧運転へ移行します。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 始動電流 | 全電圧始動の 1/3 |
| 始動トルク | 全電圧始動の 1/3 |
| コスト | 比較的安価 |
| 対象容量 | 中容量向け |
| 前提条件 | 無負荷または軽負荷での起動(ポンプ・送風機など) |
| 弱点 | Y→Δ切り替え時の過渡的なショック |
トルクも1/3に落ちてしまうため、クレーンのような重負荷用途には向きません。始動時の負荷が軽い機器が守備範囲です。
見落としがちな2つの前提
1つ目は切り替えのタイミング。回転数が定格の80〜90%程度まで上がってからが基本で、早すぎる切り替えはかえって大きな過渡電流を招きます。
2つ目は、意外と見落とされる大前提です。Y-Δ始動が使えるのは、運転時にΔ結線で使う設計の電動機に限られます。もともとY結線でしか運転できない電動機には、Y-Δ切替という発想自体が成立しません。「Δで運転する機械だからこそ、始動時だけYに変えられる」という順序で覚えてください。
ステップ4:なぜ1/3になるのか——√3が2回効く仕組み
ここが今日の核心です。多くの人が「1/3」という数字だけを覚えて先に進みますが、根拠まで理解しておくと応用問題で圧倒的に強くなります。3ステップで見ていきましょう。

① 電圧の変化:Y結線にすると相電圧は 1/√3 倍
Y結線は、各相の巻線が中性点で1点に集まる方式です。線間電圧は120度の位相差を持つ2つの相電圧のベクトル差で決まり、Y結線では線間電圧が相電圧の 倍になります。逆に言えば——
電圧はおよそ58%に下がる、というイメージです。ベクトル計算そのものは深追いしなくても、「Y結線にすると各相にかかる電圧が線間電圧より小さくなる」という結果を押さえておけば試験では十分です。
② 電流の変化:Y結線とΔ結線で線電流の関係が違う
ここが1/3を生む決定的なポイントです。
| 結線 | 線電流と相電流の関係 |
|---|---|
| Y結線 | 線電流 = 相電流 |
| Δ結線 | 線電流 = 相電流 × √3 |
実際に数値を当てはめてみましょう。全電圧始動(Δ結線で定格電圧)のときの始動電流を100Aとします。Y結線に切り替えると電圧が 倍になるので相電流も 倍、約57.8A。Y結線では線電流=相電流なので、電源から見た線電流もそのまま約57.8Aです。
……あれ、57.8Aだと100Aの1/3、つまり33.3Aになりませんね。ここで多くの人が引っかかります。
57.8Aというのは「Y結線のまま」の話です。1/3という倍率は、全電圧をΔ結線で直接かけた場合との比較。正しく比較するには、電圧低下による 倍と、Y結線・Δ結線の電流比の違いによるもう1回の 倍を掛け合わせる必要があります。
1回の√3ではなく、別々の理由で√3が2回効いて1/3になる。これが電流側のカラクリです。
③ トルクの変化:電圧の2乗に比例する
誘導電動機のトルクは電圧の2乗に比例します。Y結線で電圧が 倍になれば——
数値で確認しても、 でおよそ1/3です。
電流とトルク、同じ1/3でも理由は別物
まとめると、こうなります。
| 対象 | 1/3になる理由 | 要因の数 |
|---|---|---|
| 始動電流 | 電圧低下 1/√3 × 線電流比 1/√3 | 2つの掛け算 |
| 始動トルク | 電圧の2乗比例 (1/√3)² | 1つだけ |
数値がたまたま一致しているだけで、メカニズムはまったく別です。ここを区別して説明できるかどうかが、丸暗記組との差になります。
ステップ5:③始動補償器法(コンドルファ法)は「量を選べるメニュー」
かご形の3つ目、始動補償器法(別名・コンドルファ法)。一次側に三相単巻変圧器を接続して始動電圧を下げ、加速したら切り離して全電圧に移行します。

発想はY-Δ始動と似ていますが、決定的に違うのが調整の自由度です。
| Y-Δ始動 | 始動補償器法 | |
|---|---|---|
| 電圧倍率 | 1/3固定 | タップ切り替えで任意 |
| 設備 | 切替器のみ | 三相単巻変圧器(大きい) |
| コスト | 比較的安価 | 高い |
| 対象容量 | 中容量 | 大容量 |
Y-Δが「固定メニュー」なら、補償器法は「量を選べるメニュー」。たとえばタップで電圧を50%にすれば、トルクは2乗比例で25%になります。実機では50%・65%・80%といった複数の電圧タップから選ぶ製品が一般的ですが、試験対策としては「任意の倍率に調整できる」という理解で問題ありません。
なお単巻変圧器は、一次巻線と二次巻線の一部を共有する構造の変圧器です。普通の変圧器より小型・軽量・安価に作れるという特徴があります。「コンドルファ」という耳慣れない名前は、考案者の名前に由来しています。
補償器法も変圧器を切り離す瞬間に多少の過渡変動はありますが、結線の組み替えを伴うY-Δほど急激なショックにはなりにくいとされています。「ショックが小さい」であって「ゼロ」ではない点に注意。
ステップ6:④始動リアクトル法は「滑らかだがトルクが落ちる」
かご形の最後、始動リアクトル法。リアクトル(コイル)を一次側に直列接続し、その電圧降下を利用して始動電圧を下げます。加速後は短絡スイッチでバイパスして全電圧にします。

補償器法との違いは、使う道具の性格そのものです。単巻変圧器は「電圧を変換する」装置なのに対し、リアクトルは「直列インピーダンスで電圧降下を起こす」だけのシンプルな部品。短絡スイッチで徐々にバイパスできるので切り替えショックが小さく、滑らかに起動できます。
ただし、トルクの落ち込みは深刻です。
| 印加電圧 | トルク(V²比例) |
|---|---|
| 80% | 0.8² = 約64% |
| 70% | 0.7² = 約49% |
電圧を70%まで下げると、トルクはおよそ半分。ここが「トルクが著しく低下する」と言われる所以です。用途は主に、大容量・高圧でショックを嫌う設備に限られます。「コイル直列・短絡スイッチ・ショック少ない・トルク著しく低下・大容量高圧」の5点セットで覚えましょう。
かご形4法をここで整理しておく
| # | 方式 | 使う道具 | コスト感 |
|---|---|---|---|
| ① | 全電圧始動 | なし(直結) | 最安 |
| ② | Y-Δ始動 | 結線切替器 | 比較的安価 |
| ③ | 始動補償器法 | 三相単巻変圧器 | 最も高価 |
| ④ | 始動リアクトル法 | リアクトル+短絡スイッチ | 中程度 |
使う道具の違いが、そのままキャラクターの違いになっているのが分かりますね。実際の採用実績では、コストと性能のバランスから始動補償器法のほうが大容量電動機で広く採用されてきた歴史があります。リアクトル法はシンプルで保守しやすい反面、トルク低下の大きさが敬遠されがちです。エネルギー効率の面でも、電圧降下分がそのままロスになるリアクトル法より、変圧する補償器法のほうがやや有利です。
ステップ7:巻線型の外部抵抗始動法は「電流↓・トルク↑」の唯一の方式
ここから発想がガラリと変わります。巻線型誘導電動機の外部抵抗始動法です。

かご形との最大の違いはスリップリングの有無。回転する回転子と外部の固定回路を電気的につなぐ部品で、これがあるおかげで二次側(回転子側)に外部抵抗を接続できます。かご形4法が「一次側で電圧を下げる」のに対し、こちらは二次側をいじる——根本的に異なるアプローチです。
そして最大の特徴が、これです。
始動電流は「小さく」できるのに、始動トルクは「大きく」できる。
Y-Δでは電流もトルクも両方下がったのに、なぜこんな都合のいいことが起きるのか。矛盾しているように見えますよね。
電流が下がるのにトルクが上がる理由
二次側に抵抗を追加すると、二次回路のインピーダンスの中で抵抗成分の割合が増えて力率が改善します。誘導電動機のトルクは電流と力率の両方に影響されるため、電流自体は抵抗が増えたことで抑えられつつも、力率改善の効果でトルクはむしろ増加する、という現象が起きるのです。
電流を下げる方向と、力率を良くしてトルクを稼ぐ方向、この2つが同時に進行していると考えてください。
外部抵抗は入れっぱなしではない
外部抵抗は、速度上昇に応じて徐々に値を減らしていき、最終的にゼロにして通常運転へ移行します。かご形が「一度切り替えたら終わり」なのに対し、巻線型は連続的に抵抗を変化させられる。これは単なる始動法を超えて、速度制御手段でもあるということです。クレーンやエレベーターなど、細かい速度制御が必要な用途に使われるのはこのためです。
長所と短所を対で覚える
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 始動電流を抑えつつ大きな始動トルクが得られる | スリップリングとブラシの摩耗で保守が必要 |
| 無段階に抵抗を変えられ、速度制御にも使える | 外部抵抗器という大掛かりな設備でコストが高い |
| 始動から定常運転まで滑らかに制御できる | 抵抗で電力が熱として消費され効率が悪い |
「方式が1つしかないから選択肢が少なくて劣っている」わけではありません。外部抵抗の値を無段階に調整できるので、1つの方式の中にかご形4法をすべて合わせたような柔軟性が詰まっているのです。方式の数ではなく、1つの方式が持つ調整幅の広さで比べる視点を持ってください。
なお、この「抵抗を変えて速度も制御する」という話は速度制御の単元と地続きです。両方まとめて頭に入れたい人は誘導電動機の速度制御5方式を「かご型3つ・巻線型2つ」で一気に整理するも合わせて読むと、知識が一本の線でつながります。
ステップ8:比例推移は「山は同じ、立ち位置が変わる」
外部抵抗始動法の理屈を支えているのが、比例推移です。トルク-すべり曲線のグラフで理解しましょう。
グラフの横軸はすべり 、縦軸はトルク 。 が始動時(停止状態)、 が同期速度です。曲線は山型をしています。
ここで二次側に外部抵抗 を追加すると——曲線の形は変わらないまま、全体が右( の方向)へスライドします。これが「比例推移」です。
なぜトルクが大きくなるのか
曲線が右へずれると、 の位置が山の頂上(最大トルクの位置)に近づいていきます。つまり、山の高さは変わらないのに、自分の立ち位置が山のいい場所に移動するわけです。山そのものは同じ形のまま、麓から見晴らしのいい場所へ引っ越しするイメージですね。
これが「始動トルクが大きくなる」の正体です。
公式と数値で確認する
比例推移では、次の関係が成り立ちます。
二次抵抗を から に増やしたとき、すべりも同じ比率で から へ変化すれば、その2点のトルクは等しくなる。抵抗とすべりが比例して推移するから「比例推移」です。
数値で見てみましょう。元の抵抗 で最大トルクが出るすべりが だったとします。外部抵抗を追加して二次抵抗を2倍にすると、 も2倍の にずれます。この と の2点のトルクは、完全に同じ値です。
ここで絶対に外してはいけないのが、山の高さ=最大トルクの値そのものは、二次抵抗に依存しないという点。動くのは山の位置だけです。
抵抗は増やせば増やすほどいいわけではない
もう1つ、誤解を潰しておきます。「抵抗を増やすほどトルクが大きくなる」わけではありません。増やしすぎると山の頂上が を通り越してしまい、かえって始動トルクが小さくなります。ちょうど山の頂上が に来る「最適な抵抗値」が存在するのです。
トルクと電流でシフトの向きが違う
| 曲線 | 二次抵抗を増やしたときの変化 |
|---|---|
| トルク-すべり曲線 | 山型の形はそのまま、右へシフト |
| 電流-すべり曲線 | 減少カーブ全体が下へシフト |
電流はトルクのような山型ではなく、 で最大、 に近づくほど小さくなる減少カーブです。二次抵抗を増やすと、この曲線全体が下に下がります。「トルクは右、電流は下」とセットで覚えておくと、グラフを選ぶ問題で迷いません。
なお比例推移は、トルクだけの特別な現象ではありません。二次抵抗を変えるとすべりに関する特性がスライドするという、より一般的な性質です。二次入力や二次銅損についても同様の考え方が成立します。試験ではトルクの比例推移が最頻出ですが、一般原理として理解しておくと応用が効きます。
このあたりのトルク曲線の読み方そのものが不安な人は、誘導電動機のトルク曲線を「安定域の2法則」だけで得点源に変えるを先に押さえておくと、比例推移の話が驚くほどスムーズに入ってきます。
ステップ9:理解度チェックで確認する
ここまでの内容を、実際の出題形式で確かめてみましょう。
問1 始動時に電流とトルクが全電圧始動の1/3になる始動法は、かご形4法のうちどれか。
問2 一次側に三相単巻変圧器を接続して始動電圧を下げる始動法はどれか。
問3 外部抵抗始動法に関する記述として正しいものはどれか。 A:電流もトルクも小さくなる B:最大トルクの値自体も大きくなる C:外部抵抗を挿入すると始動電流は小さくなり、始動トルクは大きくなる。最大トルクの値は変わらない
| 問 | 答え | 切り方 |
|---|---|---|
| 問1 | Y-Δ始動法 | 電圧1/√3 × 線電流比1/√3 で電流1/3、電圧の2乗比例でトルク1/3 |
| 問2 | 始動補償器法 | 「単巻変圧器」というキーワードで一発 |
| 問3 | C | Aは比例推移でトルクが上がるので誤り。Bは山の高さが変わらないので誤り |
特に問3のBのような「最大トルクの値も大きくなる」という記述は、見た瞬間に切れるようにしておきたいところです。比例推移で動くのは山の位置だけ、高さは不変——ここが身についていれば、この選択肢は考えるまでもありません。
ステップ10:豆知識——インバータがY-Δを過去のものにした
試験に直接は出ませんが、背景として知っておくと理解が深まる話です。
VVVFインバータは、電圧と周波数を自由に変えられる電子制御装置です。周波数と電圧をゆっくり連続的に上げていくので結線の切り替え自体が発生せず、ショックがゼロ。速度制御も自由自在で省エネ性能も高いため、半導体技術の進歩によるコスト低下も追い風となって、Y-Δ始動を急速に置き換えていきました。
では、なぜ電験ではいまだにY-Δも巻線型も出題されるのでしょうか。答えは現場に古い設備が数多く現役で稼働しているからです。設備更新には大きなコストがかかるため、原理を理解していることが保守やトラブル対応で今も重要なのです。
インバータにも弱点はあります。電子部品の集合体なので高温多湿や粉塵の多い現場では故障リスクが上がり、発生するノイズが周辺機器に影響する高調波の問題もあります。小容量ではかご形のじか入れよりコストが高くつく場合もあります。
そして何より——インバータであっても、電圧が変わればトルクが で変化する関係は今日学んだ内容とまったく同じです。技術が変わっても、電圧・電流・トルクの関係という土台は変わりません。今日学んだことは、これからずっと使える知識です。
まとめ
最後に、5つの方式を一枚の表に集約します。
| 方式 | 始動電流 | 始動トルク | コスト | 対象 |
|---|---|---|---|---|
| ①全電圧始動(じか入れ) | 定格の5〜8倍 | 大(4法中最大) | 最安 | 小容量 |
| ②Y-Δ始動 | 1/3 | 1/3 | 比較的安価 | 中容量・軽負荷起動 |
| ③始動補償器法 | 任意に調整可 | 任意(V²比例) | 高い | 大容量 |
| ④始動リアクトル法 | 低下 | 著しく低下 | 中程度 | 大容量・高圧 |
| ⑤外部抵抗始動法(巻線型) | 小さくなる | 大きくなる | 高い | 大容量・クレーン等 |
表にすると、⑤だけが「電流↓・トルク↑」という逆方向の組み合わせになっているのが一目で分かります。かご形にはできない芸当です。
かご形4法:全・Y-Δ(1/3ルール)・補償器・リアクトル。巻線型はスリップリングで外部抵抗→比例推移でトルク一定。全がつかないのは巻線型だけ!
覚えることは多いように見えて、骨組みは「触れる場所が一次側か二次側か」の1点だけ。そこから枝分かれさせていけば、5つの方式は自然に整理できます。1/3ルールの根拠と比例推移のグラフ、この2つさえ理屈で押さえておけば、この単元は確実な得点源になりますよ。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元で失点する原因は、ほぼ決まったパターンに集約されます。3つだけ挙げておきます。
❌ Y-Δの始動トルクを「1/√3倍」としてしまう
いちばん多い取り違えがこれです。電圧が 倍になるところまでは正しく理解できていても、その数字をそのままトルクにも当てはめてしまうケース。
✅ トルクは電圧の「2乗」に比例します。したがって 倍が正解です。もし定格トルクが求まっている計算問題で のまま進めてしまうと、答えの数値が 倍ずれた選択肢に見事に着地します。出題側は当然そこに誤答の選択肢を用意しています。「電圧は√3、トルクは3」と口に出して唱えておくと、本番で手が止まりません。
❌ Δ→Y切替でインピーダンスまで1/3にしてしまう
計算問題で頻出の落とし穴です。Y-Δ切替で変わるのは巻線1本にかかる相電圧だけで、巻線そのもののインピーダンス は当然変わりません。ところが「Y等価インピーダンス=Δインピーダンス÷3」という別の場面で使う換算式を、ここに持ち込んでしまう人がいます。
✅ 切り替えたのは結線であって、巻線を巻き直したわけではありません。 はそのまま、電圧だけが変わる。この順序を崩さないことです。
❌ 比例推移で「最大トルクも大きくなる」と思ってしまう
グラフのイメージが曖昧だと、この誤りに引っかかります。
✅ 二次抵抗で動くのは山の「位置」だけ、「高さ」は不変です。図で言えば、曲線を横にスライドさせているだけで、上下に伸び縮みはしていません。選択肢に「最大トルクの値も増加する」という記述が現れたら、それだけで切り捨てられます。
過去問ではこう出た
始動法は、機械科目の中でも安定して出題される定番テーマです。この記事に対応する過去問だけでも、次の年度で出題されています。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成30年 | 問4 |
| 令和4年 上期 | 問2 |
| 令和5年 下期 | 問4 |
| 令和7年 下期 | 問3 |
| 令和7年 下期 | 問4 |
注目してほしいのは、令和7年下期では問3・問4と連続して出題されている点です。それだけ出題側が重視しているテーマだということが分かります。
出題のされ方は大きく2通り。1つは方式の特徴を問う知識問題で、「単巻変圧器を使うのはどれか」「電流とトルクが1/3になるのはどれか」といった、方式名と特徴の対応が問われます。もう1つが計算問題で、Y-Δ始動時の電流やトルクを実際に求めさせるパターン。比例推移を使ってすべりや二次抵抗を求める問題も、この系統です。
どちらの形式でも、この記事で扱った「1/3の根拠」と「比例推移の関係式」が土台になります。知識問題だからと丸暗記で済ませていると、計算形式で出題された途端に手が止まりますので、必ず理屈とセットで押さえておいてください。
よくある質問
Q. かご形と巻線型、試験ではどちらがよく出ますか?
出題頻度で言えば、かご形4法の特徴を問う知識問題と、巻線型の比例推移を扱う問題は、どちらも同じくらい重要です。ただし性格が違います。かご形は「方式名と特徴の対応」を覚えていれば取れる問題が多いのに対し、巻線型の比例推移は関係式を使った計算に発展しやすい。つまり、かご形は暗記で押さえ、巻線型は理屈で押さえるのが効率的な配分です。どちらか片方だけを捨てるという戦略は、この単元では成立しません。
Q. Y-Δ始動で、切り替えたあとの運転状態はどうなりますか?
Δ結線に切り替わった時点で、電動機には線間電圧がそのまま各相にかかる全電圧運転の状態になります。つまり、Y-Δ始動は「始動の瞬間だけ電圧を下げてやり過ごし、あとは通常運転に戻す」方式です。ここで大事なのは、切り替えのタイミング。回転数が定格の80〜90%程度まで上がってから切り替えるのが基本で、それより早く切り替えると、まだ加速が足りていない状態に全電圧がかかることになり、結果として大きな過渡電流が流れてしまいます。「加速させてから切り替える」という順序が、この方式の生命線です。
Q. 比例推移の関係式が、いつ使えるのか分からなくなります
判断基準はシンプルで、「二次抵抗の値が変わる場面かどうか」です。問題文に「二次側に外部抵抗を接続した」「二次抵抗を○倍にした」といった記述があれば、比例推移の出番だと考えてほぼ間違いありません。
使い方も1パターンです。 に、分かっている値を入れて残りを求めるだけ。「二次抵抗を2倍にしたら、同じトルクが出るすべりも2倍」——この比例関係が骨格なので、式を丸暗記できていなくても、「抵抗とすべりは同じ比率で動く」という言葉さえ覚えていれば、その場で立て直せます。逆に、二次抵抗が変わらない問題(電源電圧や周波数を変える問題など)では比例推移は使いません。そこは混同しないよう気をつけてください。
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