誘導電動機のトルク曲線を「安定域の2法則」だけで得点源に変える
電験三種「機械」科目でつまずきやすい誘導電動機のすべり-トルク特性(トルク曲線)を完全攻略。ジェットコースターのような曲線も、安定域(低すべり領域)の『T∝s(すべりに比例)』『T∝V₁²(電圧の2乗に比例)』の2法則だけ押さえれば計算問題の8割が解けます。始動時の電流過大・トルク過少、電圧10%低下でトルクが約19%失われる落とし穴まで、図とクイズで得点源に変えます。
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「トルク曲線の形は、なんとなく描ける。でも問題になると手が止まる」——誘導機でいちばん多いのが、この状態です。
原因ははっきりしています。教科書に載っているトルクの式が、あまりにも長いからです。分数の中に分数が入り、その下に二乗の和がある。あれを見た瞬間に「覚えるのは無理だ」と感じてしまい、そこから先へ進めなくなる。
ただ、試験問題を並べてみると、あの長い式をまるごと使わせる出題はほとんどありません。狙われるのは、曲線のごく一部——電動機が普段動いている「安定域」だけです。そこに絞ると、必要な道具はたった2つの比例則に減ります。
この記事では、その2つを手に入れるところまで一気に進みます。
この記事で身につくこと
| 身につくこと | 試験でどう効くか |
|---|---|
| すべり s = 1 から 0 へ向かう流れ | 曲線のどこが始動でどこが定常運転かを迷わず読める |
| 山型の曲線の3つの点(始動・最大・定常) | グラフ問題で「どの点の話か」を即断できる |
| 安定域の2法則 T ∝ s / T ∝ V₁² | 計算問題を比の掛け算だけで処理できる |
| 電圧低下がトルクに効く「2乗の重み」 | 電圧10%低下=トルク約19%減を暗算できる |
| 深溝かご形・二重かご形の狙い | 始動特性の穴埋め・選択肢問題に対応できる |
| 比例推移で動くもの/動かないもの | 「最大トルクは変わらない」の一点で正誤判定できる |

暗記フレーズ:定常運転の低sはT∝s・T∝V₁²。始動は電流過大・トルク過少。最大トルクはsm付近でピーク。右から来て山を越えたら不安定域
長めのフレーズですが、4つの部品に分かれているだけです。
| 部品 | 中身 | 対応する場所 |
|---|---|---|
| 定常運転の低sはT∝s・T∝V₁² | 計算に使う2つの比例則 | 曲線の右側(安定域) |
| 始動は電流過大・トルク過少 | s = 1 のときの困った性質 | 曲線の右端 |
| 最大トルクはsm付近でピーク | 山の頂点の名前と位置 | 曲線の中央 |
| 右から来て山を越えたら不安定域 | 安定と不安定の境目 | 曲線の左側 |
計算で使うのは1行目だけ。残りの3行は、グラフを読むための地図だと思ってください。
ステップ1:まず「すべり s」が何を表しているかを取り戻す

すべりとは、ひとことで言えば回転子の遅れ具合です。回転磁界(同期速度)を基準にして、回転子がどれだけ置いていかれているかを 0〜1 の数値で表しています。
s の両端が何を意味するか
| すべり | 回転子の状態 | 現実に起きるか |
|---|---|---|
| s = 1 | 回転速度 N = 0、完全に停止。始動の瞬間 | 起きる(電源投入時) |
| s が小さい値 | 同期速度より少しだけ遅れて回る通常運転 | 常にここ |
| s = 0 | 同期速度とぴったり一致した理想状態 | 到達しない |
s = 0 に届かないのは、負荷を背負っている限り必ず遅れが生まれるからです。誘導電動機は原理上、遅れがあるからこそトルクが出る機械なので、遅れゼロでは仕事ができません。
覚え方はシンプルで、「s は 1 からスタートして 0 に近づいていく」。電源を入れた瞬間が右端の s = 1、そこから左へ動いて安定運転に落ち着く、という流れです。
すべりの定義そのものが怪しいと感じたら、先に〈誘導機のすべりsを「同期にどれだけ遅れているかの割合」で攻略〉に戻ってから読むと、この先がぐっと軽くなります。
ステップ2:曲線の全体像を「3つの点」で押さえる

横軸にすべり s、縦軸にトルク T をとると、山型の曲線が現れます。読むべき点は3つだけです。
| 位置 | 名前 | 押さえること |
|---|---|---|
| 右端(s = 1) | 始動点 | 電流は過大なのにトルクは小さい |
| 山の頂点(s = sm) | 最大トルク | 電動機が出せる力の上限。停動トルクとも呼ぶ |
| 山の右側の斜面 | 定常運転・安定域 | 実際に運転している場所。ほぼ直線 |
| 山の左側 | 不安定域 | 負荷が増えるとトルクが追いつかず停止へ |
なぜ右側が「安定」なのか
理屈はこうです。安定域で負荷が少し重くなると、回転子はわずかに遅れます。つまり s が増えます。すると T ∝ s によってトルクも増えるので、増えた負荷とちょうど釣り合う——放っておいても勝手にバランスが取れる。だから安定域と呼びます。
一方、山の左側では s が増えるとトルクが減ってしまいます。負荷が重くなって遅れたのに力が落ちるので、さらに遅れ、さらに力が落ちる。この連鎖に入ると電動機は止まります。ここが不安定域です。
グラフ上での覚え方は「右から来て山を越えたら不安定域」。始動点(右端)から出発して、山を越えなければ安全、というイメージで固定してしまいましょう。
ステップ3:長いトルク式は「V₁²の一点」だけ見る

三相誘導電動機のトルクは、正式にはこう書かれます。
見た瞬間に閉じたくなる式ですが、この式を暗記する必要はまったくありません。ここで拾うのはただ1点、分子に V₁² が居座っているという事実だけです。
分子に電源電圧の2乗があるということは、電圧を変えたときトルクは2乗で応じるということ。これが T ∝ V₁² の正体です。長い分母は、次のステップで消えます。
等価回路の記号(r₂′、x₂′ など)が何を指しているか曖昧なら、〈誘導機のT形等価回路を「一次→励磁→二次」で攻略!(1−s)/sが機械出力〉を先に一読しておくと、式の見え方が変わります。
ステップ4:安定域の2つの比例則を手に入れる

ここが今日の核心です。
安定域では、すべり s が非常に小さい値になります。このとき、さきほどの分母—— ——が、ほぼ一定の値とみなせる状態になります。分母が定数になれば、残るのは分子の形だけです。
| 法則 | 式 | グラフ上の見え方 |
|---|---|---|
| その1 | T ∝ s | 安定域が直線(右下がり)に近づく |
| その2 | T ∝ V₁² | 電圧を変えると曲線の高さが2乗で伸縮する |
この2本が、計算問題で使う道具のすべてです。「長い式を覚える」から「比を2つ扱う」へ、作業がまるごと入れ替わります。
そして T ∝ V₁² は、巻線形で二次抵抗を動かす比例推移の考え方とも地続きです。どちらも「曲線そのものを動かして、必要なトルクを出す位置を選ぶ」という発想の話だからです。
ステップ5:電圧低下の罠——10%下がると19%失う

試験でいちばん素直に狙われるのが、この形です。
「電源電圧が10%低下した。トルクは何倍になるか」
反射的に「10%下がったから0.9倍」と答えたくなりますが、それが罠です。
答えは0.81倍、およそ19%の減少。電圧の変化は、そのままの割合ではなく2乗の重みでトルクに効いてきます。
| 電圧の変化 | 電圧比 | トルク比 | トルクの増減 |
|---|---|---|---|
| 10%低下 | 0.9 | 0.81 | 約19%減 |
| 5%低下 | 0.95 | 0.9025 | 約10%減 |
| 10%上昇 | 1.1 | 1.21 | 約21%増 |
体感としては「電圧がちょっと下がるだけで、トルクは思った以上に激減する」。この感覚を持っているかどうかで、選択肢の切り方が変わります。
ステップ6:2つの比例則を実際に使ってみる

道具は、使って初めて身につきます。2問だけ通してみましょう。
例題1:すべりが2倍になったら
安定して運転している三相誘導電動機で、すべりが2倍になりました。トルクはどうなるでしょうか。
安定域なので T ∝ s。したがってトルクも2倍です。
ここで大事なのは答えそのものより、意味のほうです。負荷が重くなる → 遅れて s が増える → トルクが増える → 増えた負荷と釣り合う。この自動調整が働く範囲が安定域だ、という理解が固まると、グラフ問題の見え方が変わります。
例題2:200Vが180Vに落ちたら
線間電圧が200Vから180Vへ低下したとき、最大トルクは元の何倍になるでしょうか。
0.81倍、つまり約19%の減少です。
手順は毎回同じで、①電圧の比を出す ②それを2乗する、の2手だけ。数字が変わっても手つきは変わりません。
「出力・二次銅損・二次入力の関係のほうが不安だ」という場合は、〈誘導機の出力比は「1:s:1-s」で芋づる式に!すべりだけで全部わかる〉で配分の考え方を先に固めておくと、B問題で効いてきます。
ステップ7:始動の弱点と、深溝かご形・二重かご形

s = 1 の始動時には、電流は過大なのにトルクは小さいという、いかにも困った性質がありました。これを構造で解決したのが深溝かご形と二重かご形です。
使っているのは表皮効果——始動時の高い周波数の電流は、導体の外側を流れやすくなる、という性質です。
| 形式 | 構造の工夫 | 始動時に起きること |
|---|---|---|
| 深溝かご形 | 回転子の溝を深くして導体を縦長にする | 電流が導体の外側寄りに集中し、実質的な二次抵抗が増える |
| 二重かご形 | 外側に高抵抗、内側に低抵抗の導体を二重に置く | 始動時は外側の高抵抗側に電流が集まる |
どちらも狙いは同じで、始動のときだけ二次抵抗を大きく見せること。始動トルクが向上し、力率も改善されます。運転が軌道に乗って周波数が下がれば、電流は内側の低抵抗側にも回り、効率のよい運転に戻ります。
覚え方は「始動電流は表皮効果で外側を流れる」。インバーター制御(VVVF)が広く使われる現在でも、大型機ではこの設計が現役です。
かご形と巻線形の違いや、そもそも誘導機が変圧器と何が違うのかがぼやけている人は、〈変圧器と誘導機の違いを「巻線が動くか動かないか」で一発理解〉が土台の整理に向いています。
まとめ
| 項目 | 結論 |
|---|---|
| 曲線の読み方 | 右端が始動(s=1)、山が最大トルク、山の右側が安定域 |
| 安定域の2法則 | T ∝ s / T ∝ V₁² |
| 電圧低下 | 10%低下でトルクは約19%減(0.9²=0.81) |
| 始動の弱点 | 電流過大・トルク過少。深溝/二重かご形で補う |
| 補う原理 | 表皮効果で始動時だけ二次抵抗を大きく見せる |
| 全体の合言葉 | 右から来て山を越えたら不安定域 |
長いトルク式を前に固まっていた時間が、比を2回掛けるだけの作業に変わります。苦手だったはずのトルク曲線が、いちばん短時間で処理できる問題になる——この単元は、その逆転が起きやすい場所です。
⚠ ここを間違える人が多い
❌ 二次抵抗を増やすと最大トルクも大きくなる → ✅ 最大トルクの大きさは変わらない
巻線形で外部抵抗を足すと、曲線の山そのものが持ち上がるようなイメージを持ってしまう人が多いのですが、実際に動くのは山の位置だけです。最大トルクの値は二次抵抗に左右されません。「高さは据え置き、横にずれる」と覚えてください。
❌ 二次抵抗を増やすと最大トルクのすべりは小さくなる → ✅ 大きくなる
比例推移で最大トルクを生じるすべりは、二次抵抗を大きくすると大きい側(グラフの右)へ移動します。ここを逆に覚えていると厄介なのは、選択肢の後半に「始動特性が良くなる」という正しい記述が続くパターンです。後半が正しいので全体を正解と判断してしまい、前半の誤りを見逃します。文が長い選択肢ほど、前半と後半を分けて別々に○×を付けるのが安全です。
❌ 外部抵抗は一次側にも入れられる → ✅ 入れられるのは二次側(回転子側)だけ
比例推移の話で外部抵抗を接続できるのは、スリップリングを通じて回転子側に配線できる巻線形だけです。一次側と取り違えると、それだけで選択肢が2つ3つ残ってしまいます。また、最大トルクの別名は停動トルクです。似た響きの語を選ばせる問題もあるので、名称もセットで固めておきましょう。
❌ 定格すべりをそのまま答える → ✅ トルクの割合に応じて換算する
「定格の80%のトルクで運転しているときのすべりは」と問われて、定格すべりの値をそのまま書いてしまう取りこぼしも定番です。安定域では T ∝ s なので、トルクが0.8倍ならすべりも0.8倍。定格すべり0.025なら 0.8 × 0.025 = 0.020 になります。「比例則は、聞かれた条件のほうに合わせて使う」——ここを一手挟むだけで、落とさずに済みます。
過去問ではこう出た
この単元は、A問題でもB問題でも顔を出します。
| 出題 | 主な問われ方 |
|---|---|
| 令和3年 問3 | すべり-トルク特性と比例推移に関する記述の正誤 |
| 令和6年下期 問3 | トルク曲線・最大トルクまわりの用語と性質 |
| 令和6年上期 問15 | すべりとトルクの比例関係を使う計算(B問題) |
傾向として、A問題は「最大トルクは二次抵抗によらない」「最大トルクを生じるすべりは二次抵抗に比例して大きくなる」という2点の正誤判定に集中します。B問題では、トルクの割合からすべりを換算し、その結果を次の小問へ引き継ぐ流れが定番です。(a)を落とすと(b)も連鎖して落ちる構成なので、最初の換算をていねいにやることがそのまま得点差になります。
いずれにしても、使う道具は T ∝ s と T ∝ V₁² の2つ。手を動かして通しで解くと、定着の速さが変わります。
よくある質問
Q. なぜ安定域では「分母が定数」と言い切ってよいのですか?
安定域では s が小さいため、 の値が他の項に比べて大きくなり、分母は が支配する形になります。すると分子の と約分が効き、結果として s に比例する形が残ります。試験では厳密な導出まで問われることはまずないので、「低すべりなら分母はほぼ一定 → T ∝ s」と結論だけ運用して構いません。
Q. T ∝ V₁² は、最大トルクにも使えますか?
使えます。トルクの式では分子に V₁² が掛かっているだけなので、電圧を変えると曲線全体が縦方向に 2乗で伸び縮みします。最大トルクの値も同じ比率で変わります。ただし注意点があり、最大トルクを生じるすべり sm は電圧を変えても動きません。動くのは高さだけです。二次抵抗を変えたときと真逆の挙動なので、セットで整理しておくと混乱しません。
Q. 始動時にトルクが小さいのに、電流だけ大きくなるのはなぜですか?
s = 1 では回転子側に生じる誘導起電力の周波数が高く、二次側のリアクタンスが大きくなります。その結果、二次電流は大きく流れるものの位相が大きく遅れ、トルクとして有効に働く成分の割合が小さくなります。「電流の量は多いが、力に変わる向きの成分が少ない」という状態です。だからこそ深溝かご形や二重かご形のように、始動時だけ抵抗分を増やす工夫が意味を持ちます。
Q. 回転速度から考えるのと、すべりから考えるのは、どちらが正解ですか?
どちらでも解けますが、トルクの話をするときは、すべりに寄せたほうが速いです。この単元の比例則がすべて s を軸に書かれているためで、回転速度で考えると毎回 を経由することになります。回転速度そのものが問われる問題は別扱いなので、そちらは〈三相誘導機の回転速度を「同期速度・すべり・損失配分」で攻略〉や〈誘導機の回転磁界と同期速度を「120f÷p」で一発計算〉で、同期速度の求め方とあわせて押さえておくと守備範囲が埋まります。
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