汽力発電の各効率を「エネルギーのバケツリレー」で完全攻略
電験三種「電力」科目で頻出の汽力発電・ランキンサイクルの各効率を、ボイラ→タービン→発電機→発電端→送電端の5段階バケツリレーで完全整理。複雑な公式も『効率=出力÷入力』の大原則と単位の相殺マジックで一気に攻略できる、計算問題対策の決定版です。
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汽力発電の効率と聞くと、ηB、ηt、ηT、ηG、ηP、ηS……と添字だらけの記号が並び、それぞれに長い分数がぶら下がっていて、正直「もう見たくない」と感じた方も多いのではないでしょうか。参考書を開くたびに公式を丸暗記しようとして、翌週にはきれいに忘れている。私も何度も同じ道を通りました。
でも、安心してください。この単元は覚える公式が多いのではなく、たった1つの考え方を場所ごとに当てはめているだけです。しかもその1つの考え方は、小学校の理科でも出てくるくらいシンプルなもの。ここを腹落ちさせてしまえば、あとは「今どこの話をしているか」を確認するだけで、初見の式でも読めるようになります。

この記事で身につくこと
| 項目 | 到達点 |
|---|---|
| 全体の見取り図 | 燃料→蒸気→回転→電気→送電の5段階で効率を整理できる |
| 公式の読み方 | どの効率も「出力÷入力」だと分かり、分母・分子を自力で埋められる |
| 3600の正体 | なぜタービン効率だけ3600を掛けるのかを、単位から説明できる |
| 試験の罠 | タービン効率とタービン室効率を、問題文の言葉だけで見分けられる |
| 復水器の理解 | 排熱が効率を下げる理由と、それでも必要な理由の両方が言える |
| 掛け算の根拠 | ηP=ηB×ηT×ηG が成り立つ仕組みを、約分で説明できる |
暗記フレーズ:燃料→蒸気→回転→電気→送電、掛け算で全体効率
この単元でまず頭に入れてほしいのは、公式ではなく順番です。
燃料 → 蒸気 → 回転 → 電気 → 送電
これが汽力発電のエネルギーの流れであり、そのまま効率が登場する順番でもあります。バケツリレーで水を手渡していくように、燃料が持っていた熱が、蒸気へ、回転へ、電気へと形を変えながら運ばれていく。そして各段階で少しずつこぼれる。そのこぼれ具合を数値にしたものが「効率」です。
ルールは2つだけです。
| ルール | 内容 |
|---|---|
| ルール1 | 効率計算は必ず「燃料→蒸気→回転→電気→送電」の順で考える |
| ルール2 | 全体の最終効率は、各段階の効率の掛け算で決まる |
この2行を握っておくだけで、問題文のどこを読めばよいかが見えてきます。
ステップ1:すべての公式は「効率=出力÷入力」に帰着する

これがこの記事の中で唯一、絶対に忘れてはいけない式です。
電験三種に出てくる Z、hs、hw、ht、B、H、Pt、PG といった記号の多さに圧倒されてしまいますが、どの公式も言っていることは同じで、分母が「どれだけエネルギーを使ったか」、分子が「そのうち目的の形で取り出せたのはどれだけか」、ただそれだけです。
記号が読めれば式は半分解けたも同然
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| B | 燃料の使用量 |
| H | 燃料の発熱量(B×Hで投入した熱エネルギー) |
| Z | 蒸気の量(1時間あたり) |
| hs | 発生蒸気のエンタルピー |
| ht | タービン出口(排気)のエンタルピー |
| hw | 給水のエンタルピー |
| Pt | タービンの機械的出力 |
| PG | 発電端電力 |
エンタルピーという言葉でつまずいている方は、先にエンタルピー vs エントロピー|9割が混同する熱力学の壁を越えるに目を通しておくと、この先の分数がぐっと読みやすくなります。ここでは「その水(蒸気)1kgが持っている熱の量」くらいの理解で十分先へ進めます。
ステップ2:ボイラ効率ηB ── 燃料の熱を、どれだけ蒸気に変えられたか

バケツリレーの1区間目、燃料から蒸気への受け渡しです。
分母の は、燃料を燃やして投入した熱エネルギー。分子の は、給水がボイラの中で実際に吸い込んだ熱です。給水の状態 から蒸気の状態 まで、どれだけ熱を持ち上げられたかを、蒸気量 倍している形ですね。
ボイラの性能そのものを表す指標なので、ηにボイラのBを添えます。添字が「その機器の頭文字」だと分かると、記号アレルギーはかなり和らぎます。
なお、ボイラの中の装置(節炭器・過熱器など)が思い出せない方は、ボイラ設備の5装置を「一滴の水がたどる順番」で完全攻略を先に読んでおくと、 から へ至る道のりが映像として浮かぶようになります。
ステップ3:タービン効率ηt ── なぜ3600を掛けるのか

2区間目、蒸気から回転への受け渡しです。考え方はボイラとまったく同じで、分母が使った熱、分子が取り出せた出力です。
3600は「単位合わせ」以外の何ものでもない
多くの方がここで手が止まります。「なんで急に3600が出てくるんだ」と。答えはとてもあっさりしていて、分母と分子で時間の単位が違うからです。
| 場所 | 中身 | 時間の単位 |
|---|---|---|
| 分母 | 熱量 | 1時間あたり [kJ/h] |
| 分子 | 機械的出力 | 1秒あたり [kW]=[kJ/s] |
秒あたりの値に 1時間=3600秒 を掛ければ、時間あたりの値になります。だから [kJ/h]。単位をそろえるための、ごく事務的な作業なのです。
そもそもなぜ熱量を1時間あたりで扱うかというと、発電所の規模では秒単位の数値が大きくなりすぎて扱いにくいから。電力量を[kWh]で表すのと同じ発想です。「大きなものは時間単位でまとめる」という現場の習慣が、そのまま式に現れているだけなんですね。
ステップ4:試験の罠 ── タービン効率とタービン室効率

ここが本単元で最も引っかかりやすいポイントです。似た名前で、しかも記号は大文字と小文字の違いしかありません。
| 名称 | 記号 | 分母(消費熱量) | 範囲 |
|---|---|---|---|
| タービン効率 | タービンだけ | ||
| タービン室効率 | タービン+復水器 |
見分け方はシンプルで、問題文に「タービン室」と書いてあれば復水器まで含まれます。含まれるということは、計算のスタート地点がタービン出口 ではなく、復水器を通った後の給水 まで下がるということ。分母が大きくなるので、効率の値は小さく出ます。
ランキンサイクルの順番(ボイラ→タービン→復水器→給水ポンプ)が頭に入っていれば、「タービンの次は復水器だから、そこまで含めるかどうかの話だな」と落ち着いて判断できます。順番があやふやな方は、ランキンサイクルは「装置・用語・線図」の3点リンクで攻略で先に流れを固めておきましょう。
ステップ5:発電機効率ηG ── ここだけは素直

3区間目、回転から電気への受け渡しです。
分母も分子も[kW]同士なので、単位換算の3600は登場しません。この単元の中で唯一、素直な形をしています。
実機の発電機効率は95〜99%と非常に高く、ロスはほとんどありません。「効率が悪いのは熱を扱う部分であって、電気機器そのものは優秀」という感覚は、計算結果の妥当性チェックにも使えます。発電機効率が80%などと出たら、まず計算ミスを疑ってください。
ステップ6:発電端熱効率ηP ── 発電所という箱の総合力

ここまでの3区間をひとまとめにすると、発電所内部の総合スコアになります。
左辺の分数を見てください。分母は最初に投入した燃料の熱 、分子は最後に出てきた電気 。入口と出口だけを見た形になっています。途中の蒸気や回転は一切出てきません。
そして右辺は、各区間の効率の掛け算。同じものを「入口と出口で見る」か「区間ごとに見る」かの違いだけで、値は一致します。この2つの表現を行き来できるようになると、与えられた条件に応じて楽な方を選べるようになります。
ステップ7:送電端熱効率ηS ── 試験が本当に聞きたいのはここ

最後の区間、発電所から街へ送り出すところです。
は送電損失率、 は送電損失にあたる電力です。発電所で一生懸命つくった電気も、途中で一部が失われる。それを差し引いた後の値が送電端熱効率です。
| 効率 | 出口はどこか |
|---|---|
| 発電端熱効率 | 発電機の出口(発電所の内部スコア) |
| 送電端熱効率 | 送電した先(実際に届く分) |
試験で「最終的に求めよ」と問われるのは、この送電端熱効率であることが非常に多いです。計算を進めるうちに発電端で止めてしまい、 を掛け忘れる——これは本当によくある取りこぼしなので、問題文の最後の一文を必ず読み返す癖をつけてください。
なお、送電端の定義は発電所出口の鉄塔までとする考え方など複数あり、一概に1つとは言えません。試験では問題文が範囲を指定してくれるので、その指定に素直に従うのが正解への近道です。
ステップ8:効率を下げる最大の要因は「復水器の排熱」
汽力発電の熱効率が、頑張っても40%前後にとどまる最大の理由が復水器です。
復水器が捨てる熱量 は、冷却水量 、比熱 、密度 、そして冷却水の温度上昇 の積で求まります。この式は「捨てた熱は、冷却水がどれだけ温まったかで測れる」と言っているだけです。
「じゃあ復水器を無くせばいいのでは?」への答え
熱を捨てる装置なら取り払ってしまえば効率が上がりそうですが、そうはいきません。復水器は、ランキンサイクルで水を循環させるための要でもあるからです。
蒸気が冷やされて水に戻るとき、体積が一気に縮みます。その凝縮によって強い負圧(真空)が生まれ、後ろから蒸気を引っ張る力として働く。この「引っ張り」があるからこそ、水と蒸気がぐるぐると設備を巡り続けられるわけです。
復水器は、エネルギーを捨てる代わりに、サイクルを回し続ける力を生んでいる。
損失の主犯でありながら、無くては成立しない。この二面性を押さえておくと、論説問題でも自信をもって選択肢を切れます。
ステップ9:なぜ掛け算で全体効率が出るのか
「効率は掛け算」と暗記してもよいのですが、理由が分かると忘れなくなります。各効率を言葉の分数で並べてみましょう。
「蒸気の熱」が分母と分子に現れて消え、「機械の力」も同じように消える。残るのは最初の「燃料の熱」と最後の「電気の力」だけ。
ある段階の出力は、そのまま次の段階の入力になっている。だから約分できる。これがバケツリレーの正体であり、効率が掛け算でつながる理由です。
まとめ
最後に、5つの効率を1枚の表にまとめます。迷ったらここへ戻ってきてください。
| 対象機器 | 効率 | 入力 | 出力 | 公式 |
|---|---|---|---|---|
| ボイラ | 燃料発熱量 | ボイラ水の吸熱量 | ||
| タービン室 | 消費熱量 | 機械的出力 | ||
| 発電機 | 機械的出力 | 発電端電力 | ||
| 発電端 | 燃料発熱量 | 発電端電力 | ||
| 送電端 | 燃料発熱量 | 送電端電力 |
すべては「どの場所の話か」「何のエネルギーへの変換か」の2点に帰着します。ηに付くアルファベットは区別のための目印にすぎないので、記号を丸暗記する必要はありません。表の「入力」「出力」の列さえ言えれば、公式はその場で組み立てられます。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元は、計算そのものより式の範囲の取り違えで落とすケースが目立ちます。代表的なものを3つ挙げます。
❌ 「タービン室効率」を、タービン単体の効率だと思ってしまう
問題文の「室」の一文字を読み飛ばし、分母に を入れてしまうパターンです。
✅ 「室」があれば復水器まで含むので、分母は 。名前が長い方が担当範囲も広い、と紐づけておくと迷いません。
❌ 復水器が持ち去る熱を、投入熱量そのものだと思ってしまう
復水器で捨てられる熱は、投入した熱の全部ではありません。
✅ 正しくは「投入した熱から、タービンが仕事として取り出した分を引いた残り」です。熱消費率のような「入力÷出力」で定義された値が与えられているときに、排熱量をそのまま割ってしまうと答えが合いません。その数値が入力側の話か、出力側の話かを、代入前に一度だけ確認してください。
❌ 蒸気を途中で抜くと、捨てる熱が増えると思ってしまう
タービンの途中から蒸気を取り出して給水を温める仕組みでは、抜いた蒸気は復水器まで行きません。
✅ したがって復水器へ流れ込む蒸気が減り、捨てる熱は減少します。「抜く=損失が増える」と直感で判断すると、逆の選択肢を選んでしまいます。似た名前の加熱装置の役割違いも同様で、名称が近いものほど「どこに置かれ、何のために働くか」で区別する習慣が効きます。
過去問ではこう出た
汽力発電の効率は、電力科目の中でも出題頻度が非常に高いテーマです。動画にひも付く範囲だけでも、次の7問が確認できます。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成27年 | 問2 |
| 令和1年 | 問3 |
| 令和1年 | 問15 |
| 令和2年 | 問2 |
| 令和4年下期 | 問15 |
| 令和5年下期 | 問3 |
| 令和6年下期 | 問2 |
傾向としては、B問題(問15)で計算、A問題(問2・問3あたり)で論説という二本立てです。計算では燃料量から送電端熱効率まで一気に問われることが多く、論説では機器の役割や熱の流れの正誤を問われます。つまり、公式の暗記だけでも、言葉の理解だけでも足りません。この記事のマスターマトリクスで式を、復水器の節で言葉を、それぞれ押さえておくのが最短ルートです。
よくある質問
Q. 効率の計算で、%と小数のどちらで進めればよいですか?
計算の途中は小数のまま進めるのが安全です。0.88×0.45×0.98 のように掛け合わせ、最後に100を掛けて%に直します。%のまま掛け算すると桁を間違えやすく、88×45×98 のような数字の山になって検算もしづらくなります。答案に書くときだけ%に戻す、と決めておきましょう。
Q. 発電端と送電端、問題文のどちらを答えるべきか迷います。
問題文の最後の一文が判断材料です。「送電端熱効率を求めよ」「送電線に送り出される電力は」といった表現があれば送電端、「発電機出力」「発電端」とあれば発電端です。迷ったら、求めた値に を掛けるべきかどうかを自問してください。送電損失 や所内率が問題文に与えられているのに使っていない場合、まだ答えにたどり着いていない可能性が高いです。
Q. 汽力発電の熱効率は、なぜ40%程度までしか上がらないのですか?
最大の理由は、ステップ8で見た復水器の排熱です。蒸気を水に戻す工程がある以上、その分の熱は必ず海水などへ捨てることになります。再熱や再生といったサイクルの工夫は、この捨てる熱をできるだけ減らして効率を稼ぐための手段です。「効率を上げる工夫=捨てる熱を減らす工夫」と読み替えられるようになると、サイクル関連の論説問題がぐっと解きやすくなります。
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