エンタルピー vs エントロピー|9割が混同する熱力学の壁を越える
電験三種「電力」科目で頻出のエンタルピーとエントロピー。名前が似ていて毎回混乱する2つの指標を、『hはどれだけ仕事できるか、sはどれだけ理想からズレているか』という暗記フレーズで完全に切り分けます。ランキンサイクルを『1kgの蒸気の旅』として捉え、計算問題の本質まで一気に攻略する1記事です。
🎥 動画でも解説しています > YouTubeで開く
「エンタルピー」と「エントロピー」。
この2つの言葉を見た瞬間に、そっとページを閉じた経験、ありませんか。私は正直に言うと、最初に参考書でこの並びを見たとき「なぜ似た名前を2つも作った」と本気で思いました。
でも、安心してください。この2つは名前が似ているだけで、中身はまったくの別物です。むしろ「別物だ」と一度きっちり線を引いてしまえば、混乱の原因そのものが消えてなくなります。
- エンタルピー=熱の量(エネルギー)
- エントロピー=乱雑さ(理想からのズレ)
この一行が腹に落ちれば、今日の勝負は8割終わりです。あとはランキンサイクルの中でこの2つがどう動くかを、「1kgの蒸気の旅」として追いかけるだけ。苦手意識の塊だった熱力学が、驚くほど素直な計算問題に変わります。

この記事で身につくこと
| 身につくこと | ゴールのイメージ |
|---|---|
| エンタルピー H の正体 | 「H = U + pV」が何を足しているのか説明できる |
| 比エンタルピー h の意味 | なぜ 1kg あたりに割るのか、理由から言える |
| エントロピー s の正体 | 「エネルギーではなく乱雑さ」と即答できる |
| 3つの指標の切り分け | H・h・s を表で完全に区別できる |
| ランキンサイクルでの動き | ボイラ→タービン→復水器で h がどう変わるか追える |
| 計算問題の解き方 | 「h の差=タービンの仕事」で立式できる |
熱力学は、電力科目の中でも「捨てる人」が多い分野です。だからこそ、ここを押さえた人は差をつけられます。逆に言えば、覚えることは驚くほど少ない。今日で完全に自分のものにしてしまいましょう。
暗記フレーズ:h はどれだけ仕事できるか、s はどれだけ理想からズレているか
試験会場で思い出すのは、この一行だけで十分です。
h はどれだけ仕事できるか、s はどれだけ理想からズレているか
そして、名前を取り違えないための語呂も用意しました。動画でもご紹介したものです。
| 用語 | 語呂 | 意味 |
|---|---|---|
| エンタルピー | タルタルソースのエネルギー | タルタルソースが多いほどエネルギーも多い=熱の量 |
| エントロピー | とろとろしてんじゃねぇ! | 忙しく動き回る様子=乱雑さ |
「エビフライにエンタルピーをちょっとのせて」——くだらないと笑われても構いません。試験本番で1秒で思い出せる方が、100倍価値があります。こういうものは、覚えたもん勝ちです。
ステップ1:エンタルピー H は「物質が持つ熱エネルギーの総量」
まずはエンタルピー、記号 H から。
エンタルピーとは、物質が持つ熱エネルギーの総量のことです。式で書くとこうなります。

2つの項が何を表しているか
| 記号 | 呼び方 | 中身 |
|---|---|---|
| 内部エネルギー | 物質がもともと内部に蓄えている熱エネルギー | |
| 押し退け仕事 | 圧力 で体積 を押し退けるのに使われるエネルギー | |
| エンタルピー | 上の2つの合計。単位は J(ジュール) |
つまりエンタルピーは、「物質そのものが持っている熱」+「体積を押し退ける仕事」を合計した指標です。
ボイラの中をイメージしてください。水が熱せられると、もともと持っていた内部エネルギー に加えて、高温高圧になることで の分が上乗せされていきます。だからボイラで蒸気が高温高圧になるほど H は大きくなる。
ランキンサイクルの中では、この H が「蒸気がどれだけエネルギーを持っているか」を根本的に表す量になります。ここだけは、しっかり押さえておいてください。
ステップ2:試験で実際に使うのは「比エンタルピー h」
ここが実戦の入口です。試験問題で登場するのは、H そのものではなく、1kg あたりに換算した「比エンタルピー」 の方です。
単位は kJ/kg。「比」という字がついたら 1kg あたり、と機械的に反応できるようにしておきましょう。

なぜ、わざわざ 1kg あたりに割るのか
「全体のエネルギー量が分かっているなら、そのまま使えばいいのでは?」——もっともな疑問です。
理由は、基準がないと大小を比べられないからです。
エネルギー量だけをポンと示されても、それが大きいのか小さいのかは判断できません。同じエネルギー量が2つあっても、片方は受け皿が大きく、もう一方は受け皿が小さければ、まったく同じ条件での比較にはなりませんよね。
そこで「1kg あたり」という共通の物差しを設けることで、はじめて大小が比較できるようになります。基準を設ける、というのは工学のあらゆる場面で出てくる考え方です。
そして、この h には決定的な使い道があります。h の値の差分を取れば、どれだけの仕事ができるかが分かる——蒸気を扱う試験・実務における、最重要指標がこれです。
ステップ3:エントロピー s は「乱雑さ」と「不可逆性の度合い」
さあ、もう一方の主役、エントロピー s です。
エントロピーが表すのは、乱雑さと不可逆性の度合い。エネルギーの量ではありません。ここが最大のポイントです。
単位は kJ/(kg・K)。

低エントロピーから高エントロピーへ
物事は、秩序が保たれた状態(低エントロピー)から、熱の出入りを経て、無秩序な状態(高エントロピー)へと進みます。
式を見れば分かるとおり、エントロピーは熱の出入りに比例して変化する量です。熱が入れば、その分だけ乱雑さが増える。ランキンサイクルにおいては、蒸気の「状態変化の方向性」を示す重要な指標になります。
※重要:エントロピーは、エンタルピー(エネルギー量)とはまったくの別物です。ここだけは絶対に混同しないでください。
先ほどの語呂を思い出してください。エントロピーは「とろとろしてんじゃねぇ!」。忙しく動き回る=乱雑さ、です。エンタルピーの「タルタルソース=エネルギー」と並べて覚えておけば、本番で取り違えることはありません。
ステップ4:3つの指標を完全に切り分ける比較マトリクス
ここまで出てきた3つを、一枚の表で完全に切り分けます。混乱したらここに戻ってきてください。
| エンタルピー H | 比エンタルピー h | エントロピー s | |
|---|---|---|---|
| 意味 | 物質の持つエネルギー | 1kg あたりのエンタルピー | 乱雑さ・熱の出入りに比例 |
| 式 | |||
| 単位 | J | kJ/kg | kJ/(kg・K) |
| 用途 | エネルギー量の把握 | 蒸気など実用値に最もよく使う | 理想サイクルとの比較・不可逆性の評価 |

名前は似ているのに、意味も単位も用途も、まるで違う。この表を1回書き写しておくだけで、記憶の定着がまったく変わります。
混同注意:エンタルピーは「エネルギー量」、エントロピーは「乱雑さ」。名前は似ていますが、物理的な意味は完全に別物です。
ステップ5:ランキンサイクルを「1kgの蒸気の旅」として捉える
ここからが実戦です。ランキンサイクルを、1kg の蒸気がたどる旅として捉え直すと、一気に理解が進みます。追いかけるのは、比エンタルピー h ——つまり「タルタルソースの量」の変化です。

| 場所 | 何が起きるか | h の状態 |
|---|---|---|
| ボイラ | 水から蒸気へ。熱を与えられ高温高圧になる | h が大きい(エネルギー満タン) |
| タービン | 蒸気が膨張して仕事をする | 仕事をした分だけ h が減る |
| 復水器 | 冷やされて蒸気から水に戻る | h が低い状態 |
| 給水ポンプ | 水をボイラへ送り返す | 再びボイラでエネルギーを補給 |
エネルギーを使い切った水が、またボイラへ戻ってエネルギーを補給する——ちょうど、電池を使い切っては充電する、あの繰り返しと同じイメージです。こうしてサイクルが回り続けます。
このサイクルの全体像そのものが曖昧な方は、先に〈ボイラ設備の5装置を「一滴の水がたどる順番」で完全攻略〉を読んでおくと、この旅路がぐっと鮮明になります。装置の並び順が頭に入っていると、h の増減も自然に追えるようになります。
ステップ6:タービンで仕事をした分だけ、比エンタルピーは必ず下がる
計算問題の核心が、ここです。
比エンタルピーの大小関係は、次のようになります。

タービン入口の から出口の への落差、つまり h の減少分が、そのままタービンが外部にした「仕事」になります。
逆に言えば、h の差さえ取り出せば、仕事の大きさが分かるということです。
「蒸気がタービンで仕事をした分だけ h が下がる」——この感覚さえ体に入れば、計算問題は引き算の作業に変わります。各ポイントの h を問題文から拾い、引く。それだけです。
なお、この h の落差から実際の発電機出力までをつなぐには、タービン効率・発電機効率といった各効率の扱いが必要になります。そこが不安な方は〈汽力発電の各効率を「エネルギーのバケツリレー」で完全攻略〉を先に押さえておくと、後半の計算問題でつまずかずに済みます。
ステップ7:理想的な膨張の基準=「等エントロピー」変化
最後に、エントロピーが実際に何の役に立つのかを見ておきます。
この節の内容は、電験三種ではあまり出題されません。「そういう考え方があるんだ」という程度の理解で十分です。ただし熱力学全体では重要な概念なので、余裕のある方はぜひ。

エントロピーは、膨張や凝縮のときの不可逆性を評価するための物差しです。
タービンの「理想的な膨張」とは、無駄な熱の出入りも摩擦もない状態のこと。これを 等エントロピー変化(s = 一定) と呼び、性能を測る基準にします。
| 進み方 | エントロピー s | |
|---|---|---|
| 理想(A の道) | 線図上をまっすぐ真下に降りる | 一定のまま変わらない |
| 現実(B の道) | 右にずれながら降りる | 損失の分だけ必ず増加する |
現実のタービンでは必ずロスが発生するため、エントロピー s は増加する方向にしか進みません。だからこそ、s は「理想からどれだけズレたか」を測るセンサーとして使えるわけです。
この「理想と現実のズレ」という発想は、より効率の高い発電方式を考えるときの土台にもなります。実際、この損失をいかに減らすかを突き詰めた先にあるのが〈捨てた熱でもう一度発電!コンバインドサイクルの効率62%の正体〉です。汽力発電の限界を知ってから読むと、あの高効率の意味が腹に落ちます。
まとめ
ランキンサイクルは、結局この2つの本質で解けます。
| 指標 | 何を表すか | 試験での使い方 |
|---|---|---|
| 比エンタルピー h | どれだけ仕事できるか | 各ポイントの h を求めて引き算する |
| エントロピー s | どれだけ理想からズレているか | s の増加量で損失の度合いを評価する |
こうして並べてみると、最初は同じに見えていた2つが、まったくの別物だと分かるはずです。
- エンタルピー = タルタルソースのエネルギー(熱の量)
- エントロピー = とろとろしてんじゃねぇ!(乱雑さ)
そして今日の合言葉は、「状態の指標である比エンタルピー h の落差を追え」。
熱力学は、名前の難しさに比べて、試験で問われることは驚くほど限られています。ここまで読み進めたあなたは、もう「9割が混同する壁」の向こう側にいます。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元で失点するパターンは、ほぼ決まっています。3つに絞って挙げておきます。
❌ 発電機出力を、そのままタービン出力として使ってしまう
問題文に「発電機出力 19 MW」とあると、つい効率計算にそのまま代入したくなります。しかし、発電機にも効率があるのを忘れてはいけません。
✅ 正しくは:タービン出力 = 発電機出力 ÷ 発電機効率。この換算を1段はさんでから、蒸気のエネルギーで割ってタービン効率を出します。
この1手順を飛ばすと、答えが数%ずれた選択肢が用意されているので、見事に引っかかります。出題者は「ここを飛ばす人」を待ち構えているのです。
❌ 効率を掛けるのか割るのか、迷って逆にする
使用蒸気量を求める問題で、効率 の位置を間違える人が非常に多いです。
出力の式は です。ここから蒸気量 を求めるなら、当然 は割る側に回ります。
✅ 感覚で確かめる:効率が悪い設備ほど、同じ出力を出すのに蒸気は余計に必要になるはず。だから で割って が増える形が正解です。
計算式を忘れても、この「効率が低いほど蒸気が余計に要る」という感覚さえあれば、掛け算・割り算のどちらが正しいか自分で判定できます。
❌ エンタルピーとエントロピーの単位を取り違える
一番もったいない失点がこれです。比エンタルピーは kJ/kg、エントロピーは kJ/(kg・K)。
✅ 見分け方:温度 K が単位に入っているのがエントロピー。 という式そのものに T が入っているのだから当然、と理解しておけば忘れません。
過去問ではこう出た
この単元は、電気技術者試験センターが公開している過去問でも繰り返し登場しています。
| 出題年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成28年 | 問15 |
| 令和4年 上期 | 問3 |
| 令和7年 上期 | 問2 |
問われ方には共通した傾向があります。
- 比エンタルピーの差から仕事量・出力を求めさせる形が中心。h の値は問題文で与えられるので、正しく引き算できるかが勝負です。
- 効率(タービン効率・発電機効率)と組み合わせて出るケースが多く、どの効率をどこに掛けるかの整理が必要になります。
- 令和に入ってからも継続して出題されており、捨てられない単元であることが分かります。
いずれも、h の落差を軸に立式できれば十分に対応できる範囲です。あとは実際に手を動かして、数字を入れる練習をしておきましょう。
よくある質問
Q. エンタルピーとエントロピー、どちらの方が試験でよく出ますか?
圧倒的に比エンタルピー h です。
計算問題のほとんどは「h の差を取ってタービンの仕事を求める」形で構成されています。エントロピーは、等エントロピー変化という考え方が背景にあるだけで、電験三種では直接計算させる出題は多くありません。
学習の優先順位としては、まず h を完璧にする。エントロピーは「乱雑さを表す別物」と区別できていれば、まずは合格ラインです。
Q. なぜ「押し退け仕事 pV」を足す必要があるのですか?
蒸気は、その場でじっとしているわけではなく、周りを押しのけながら存在しているからです。
配管の中の蒸気は、圧力 をかけながら体積 の空間を占めています。この「押しのけるために使われているエネルギー」も、蒸気が持っている能力の一部です。だから、内部エネルギー だけでは全体を表しきれません。
だけ見て「これが蒸気の全エネルギーだ」と考えてしまうと、実際にタービンで取り出せる仕事量と合わなくなります。 で合計するからこそ、実務で使える指標になるわけです。
Q. エントロピーが増えると、何が困るのですか?
取り出せる仕事が減る、これが困る点です。
エントロピーの増加は、摩擦や無駄な熱の出入りによって生じます。つまり s が増えたということは、その分だけエネルギーが「使えない形」に変わってしまったということ。
理想の等エントロピー変化なら真下にまっすぐ降りて、h の落差を最大限に仕事へ変換できます。ところが現実は右へずれるため、同じ圧力まで膨張させても取り出せる h の落差が小さくなる。この差が、そのまま発電所の効率低下として現れます。
だからこそエントロピーは、「理想からのズレを測るセンサー」と呼ばれるのです。
Webの何倍も覚えやすい
紙のフルラミネート加工の
暗記シートがあります
実績2,000部突破。
お風呂や電車のスキマ時間でサクッと勉強できます。
付属の練習用紙で無限に練習できます♪

🛒関連教材ショーケース
学習の効率を上げる、紙の本格教材ラインナップ。


この記事を読み終えたら、進捗を記録しましょう




