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電力 第10回 ⏱ 約24分で読めます

エンタルピー vs エントロピー|9割が混同する熱力学の壁を越える

電験三種「電力」科目で頻出のエンタルピーとエントロピー。名前が似ていて毎回混乱する2つの指標を、『hはどれだけ仕事できるか、sはどれだけ理想からズレているか』という暗記フレーズで完全に切り分けます。ランキンサイクルを『1kgの蒸気の旅』として捉え、計算問題の本質まで一気に攻略する1記事です。

🃏 暗記フレーズ:h はどれだけ仕事できるか、s はどれだけ理想からズレているか

🎥 動画でも解説しています > YouTubeで開く

「エンタルピー」と「エントロピー」。

この2つの言葉を見た瞬間に、そっとページを閉じた経験、ありませんか。私は正直に言うと、最初に参考書でこの並びを見たとき「なぜ似た名前を2つも作った」と本気で思いました。

でも、安心してください。この2つは名前が似ているだけで、中身はまったくの別物です。むしろ「別物だ」と一度きっちり線を引いてしまえば、混乱の原因そのものが消えてなくなります。

  • エンタルピー=熱の量(エネルギー)
  • エントロピー=乱雑さ(理想からのズレ)

この一行が腹に落ちれば、今日の勝負は8割終わりです。あとはランキンサイクルの中でこの2つがどう動くかを、「1kgの蒸気の旅」として追いかけるだけ。苦手意識の塊だった熱力学が、驚くほど素直な計算問題に変わります。

エンタルピーvsエントロピー|熱力学の最大の壁を越える

この記事で身につくこと

身につくことゴールのイメージ
エンタルピー H の正体「H = U + pV」が何を足しているのか説明できる
比エンタルピー h の意味なぜ 1kg あたりに割るのか、理由から言える
エントロピー s の正体「エネルギーではなく乱雑さ」と即答できる
3つの指標の切り分けH・h・s を表で完全に区別できる
ランキンサイクルでの動きボイラ→タービン→復水器で h がどう変わるか追える
計算問題の解き方「h の差=タービンの仕事」で立式できる

熱力学は、電力科目の中でも「捨てる人」が多い分野です。だからこそ、ここを押さえた人は差をつけられます。逆に言えば、覚えることは驚くほど少ない。今日で完全に自分のものにしてしまいましょう。

暗記フレーズ:h はどれだけ仕事できるか、s はどれだけ理想からズレているか

試験会場で思い出すのは、この一行だけで十分です。

h はどれだけ仕事できるか、s はどれだけ理想からズレているか

そして、名前を取り違えないための語呂も用意しました。動画でもご紹介したものです。

用語語呂意味
エンタルピータルタルソースのエネルギータルタルソースが多いほどエネルギーも多い=熱の量
エントロピーとろとろしてんじゃねぇ!忙しく動き回る様子=乱雑さ

「エビフライにエンタルピーをちょっとのせて」——くだらないと笑われても構いません。試験本番で1秒で思い出せる方が、100倍価値があります。こういうものは、覚えたもん勝ちです。

ステップ1:エンタルピー H は「物質が持つ熱エネルギーの総量」

まずはエンタルピー、記号 H から。

エンタルピーとは、物質が持つ熱エネルギーの総量のことです。式で書くとこうなります。

エンタルピーHは「物質が持つ熱エネルギーの総量」

2つの項が何を表しているか

記号呼び方中身
内部エネルギー物質がもともと内部に蓄えている熱エネルギー
押し退け仕事圧力 で体積 を押し退けるのに使われるエネルギー
エンタルピー上の2つの合計。単位は J(ジュール)

つまりエンタルピーは、「物質そのものが持っている熱」+「体積を押し退ける仕事」を合計した指標です。

ボイラの中をイメージしてください。水が熱せられると、もともと持っていた内部エネルギー に加えて、高温高圧になることで の分が上乗せされていきます。だからボイラで蒸気が高温高圧になるほど H は大きくなる

ランキンサイクルの中では、この H が「蒸気がどれだけエネルギーを持っているか」を根本的に表す量になります。ここだけは、しっかり押さえておいてください。

🃏 暗記シート
Q. 電力科目の熱力学における、エンタルピー H を求める式と単位は?
💡 タルタルソースのエネルギー

ステップ2:試験で実際に使うのは「比エンタルピー h」

ここが実戦の入口です。試験問題で登場するのは、H そのものではなく、1kg あたりに換算した「比エンタルピー」 の方です。

単位は kJ/kg。「比」という字がついたら 1kg あたり、と機械的に反応できるようにしておきましょう。

比エンタルピーh|試験で実際に使うのは1kgあたり

なぜ、わざわざ 1kg あたりに割るのか

「全体のエネルギー量が分かっているなら、そのまま使えばいいのでは?」——もっともな疑問です。

理由は、基準がないと大小を比べられないからです。

エネルギー量だけをポンと示されても、それが大きいのか小さいのかは判断できません。同じエネルギー量が2つあっても、片方は受け皿が大きく、もう一方は受け皿が小さければ、まったく同じ条件での比較にはなりませんよね。

そこで「1kg あたり」という共通の物差しを設けることで、はじめて大小が比較できるようになります。基準を設ける、というのは工学のあらゆる場面で出てくる考え方です。

そして、この h には決定的な使い道があります。h の値の差分を取れば、どれだけの仕事ができるかが分かる——蒸気を扱う試験・実務における、最重要指標がこれです。

🃏 暗記シート
Q. 電力科目の熱力学において、比エンタルピー h を求める式と単位は?
💡 「比」がついたら1kgあたり

ステップ3:エントロピー s は「乱雑さ」と「不可逆性の度合い」

さあ、もう一方の主役、エントロピー s です。

エントロピーが表すのは、乱雑さ不可逆性の度合い。エネルギーの量ではありません。ここが最大のポイントです。

単位は kJ/(kg・K)

エントロピーs|「乱雑さ」と「不可逆性の度合い」

低エントロピーから高エントロピーへ

物事は、秩序が保たれた状態(低エントロピー)から、熱の出入りを経て、無秩序な状態(高エントロピー)へと進みます。

式を見れば分かるとおり、エントロピーは熱の出入りに比例して変化する量です。熱が入れば、その分だけ乱雑さが増える。ランキンサイクルにおいては、蒸気の「状態変化の方向性」を示す重要な指標になります。

※重要:エントロピーは、エンタルピー(エネルギー量)とはまったくの別物です。ここだけは絶対に混同しないでください。

先ほどの語呂を思い出してください。エントロピーは「とろとろしてんじゃねぇ!」。忙しく動き回る=乱雑さ、です。エンタルピーの「タルタルソース=エネルギー」と並べて覚えておけば、本番で取り違えることはありません。

🃏 暗記シート
Q. 電力科目の熱力学における、エントロピー s が表すものと、その式は?
💡 エネルギー量ではない

ステップ4:3つの指標を完全に切り分ける比較マトリクス

ここまで出てきた3つを、一枚の表で完全に切り分けます。混乱したらここに戻ってきてください。

エンタルピー H比エンタルピー hエントロピー s
意味物質の持つエネルギー1kg あたりのエンタルピー乱雑さ・熱の出入りに比例
単位JkJ/kgkJ/(kg・K)
用途エネルギー量の把握蒸気など実用値に最もよく使う理想サイクルとの比較・不可逆性の評価

3指標を完全に切り分ける比較マトリクス

名前は似ているのに、意味も単位も用途も、まるで違う。この表を1回書き写しておくだけで、記憶の定着がまったく変わります。

混同注意:エンタルピーは「エネルギー量」、エントロピーは「乱雑さ」。名前は似ていますが、物理的な意味は完全に別物です。

ステップ5:ランキンサイクルを「1kgの蒸気の旅」として捉える

ここからが実戦です。ランキンサイクルを、1kg の蒸気がたどる旅として捉え直すと、一気に理解が進みます。追いかけるのは、比エンタルピー h ——つまり「タルタルソースの量」の変化です。

ランキンサイクルを「1kgの蒸気の旅」として捉える

場所何が起きるかh の状態
ボイラ水から蒸気へ。熱を与えられ高温高圧になるh が大きい(エネルギー満タン)
タービン蒸気が膨張して仕事をする仕事をした分だけ h が減る
復水器冷やされて蒸気から水に戻るh が低い状態
給水ポンプ水をボイラへ送り返す再びボイラでエネルギーを補給

エネルギーを使い切った水が、またボイラへ戻ってエネルギーを補給する——ちょうど、電池を使い切っては充電する、あの繰り返しと同じイメージです。こうしてサイクルが回り続けます。

このサイクルの全体像そのものが曖昧な方は、先に〈ボイラ設備の5装置を「一滴の水がたどる順番」で完全攻略〉を読んでおくと、この旅路がぐっと鮮明になります。装置の並び順が頭に入っていると、h の増減も自然に追えるようになります。

🃏 暗記シート
Q. 汽力発電のランキンサイクルにおいて、比エンタルピー h が最も大きくなるのはどこか?

ステップ6:タービンで仕事をした分だけ、比エンタルピーは必ず下がる

計算問題の核心が、ここです。

比エンタルピーの大小関係は、次のようになります。

タービンで仕事をした分だけ比エンタルピーは下がる

タービン入口の から出口の への落差、つまり h の減少分が、そのままタービンが外部にした「仕事」になります。

逆に言えば、h の差さえ取り出せば、仕事の大きさが分かるということです。

「蒸気がタービンで仕事をした分だけ h が下がる」——この感覚さえ体に入れば、計算問題は引き算の作業に変わります。各ポイントの h を問題文から拾い、引く。それだけです。

なお、この h の落差から実際の発電機出力までをつなぐには、タービン効率・発電機効率といった各効率の扱いが必要になります。そこが不安な方は〈汽力発電の各効率を「エネルギーのバケツリレー」で完全攻略〉を先に押さえておくと、後半の計算問題でつまずかずに済みます。

🃏 暗記シート
Q. 汽力発電のタービンにおいて、外部にした仕事はどうやって求めるか?
💡 引き算するだけ

ステップ7:理想的な膨張の基準=「等エントロピー」変化

最後に、エントロピーが実際に何の役に立つのかを見ておきます。

この節の内容は、電験三種ではあまり出題されません。「そういう考え方があるんだ」という程度の理解で十分です。ただし熱力学全体では重要な概念なので、余裕のある方はぜひ。

理想的な膨張の基準=「等エントロピー」変化

エントロピーは、膨張や凝縮のときの不可逆性を評価するための物差しです。

タービンの「理想的な膨張」とは、無駄な熱の出入りも摩擦もない状態のこと。これを 等エントロピー変化(s = 一定) と呼び、性能を測る基準にします。

進み方エントロピー s
理想(A の道)線図上をまっすぐ真下に降りる一定のまま変わらない
現実(B の道)右にずれながら降りる損失の分だけ必ず増加する

現実のタービンでは必ずロスが発生するため、エントロピー s は増加する方向にしか進みません。だからこそ、s は「理想からどれだけズレたか」を測るセンサーとして使えるわけです。

この「理想と現実のズレ」という発想は、より効率の高い発電方式を考えるときの土台にもなります。実際、この損失をいかに減らすかを突き詰めた先にあるのが〈捨てた熱でもう一度発電!コンバインドサイクルの効率62%の正体〉です。汽力発電の限界を知ってから読むと、あの高効率の意味が腹に落ちます。

🃏 暗記シート
Q. 汽力発電のタービンにおいて、現実の膨張ではエントロピー s はどう変化するか?
💡 増える一方

まとめ

ランキンサイクルは、結局この2つの本質で解けます。

指標何を表すか試験での使い方
比エンタルピー hどれだけ仕事できるか各ポイントの h を求めて引き算する
エントロピー sどれだけ理想からズレているかs の増加量で損失の度合いを評価する

こうして並べてみると、最初は同じに見えていた2つが、まったくの別物だと分かるはずです。

  • エンタルピー = タルタルソースのエネルギー(熱の量)
  • エントロピー = とろとろしてんじゃねぇ!(乱雑さ)

そして今日の合言葉は、「状態の指標である比エンタルピー h の落差を追え」

熱力学は、名前の難しさに比べて、試験で問われることは驚くほど限られています。ここまで読み進めたあなたは、もう「9割が混同する壁」の向こう側にいます。

⚠ ここを間違える人が多い

この単元で失点するパターンは、ほぼ決まっています。3つに絞って挙げておきます。

❌ 発電機出力を、そのままタービン出力として使ってしまう

問題文に「発電機出力 19 MW」とあると、つい効率計算にそのまま代入したくなります。しかし、発電機にも効率があるのを忘れてはいけません。

✅ 正しくは:タービン出力 = 発電機出力 ÷ 発電機効率。この換算を1段はさんでから、蒸気のエネルギーで割ってタービン効率を出します。

この1手順を飛ばすと、答えが数%ずれた選択肢が用意されているので、見事に引っかかります。出題者は「ここを飛ばす人」を待ち構えているのです。

❌ 効率を掛けるのか割るのか、迷って逆にする

使用蒸気量を求める問題で、効率 の位置を間違える人が非常に多いです。

出力の式は です。ここから蒸気量 を求めるなら、当然 は割る側に回ります。

✅ 感覚で確かめる:効率が悪い設備ほど、同じ出力を出すのに蒸気は余計に必要になるはず。だから で割って が増える形が正解です。

計算式を忘れても、この「効率が低いほど蒸気が余計に要る」という感覚さえあれば、掛け算・割り算のどちらが正しいか自分で判定できます。

❌ エンタルピーとエントロピーの単位を取り違える

一番もったいない失点がこれです。比エンタルピーは kJ/kg、エントロピーは kJ/(kg・K)

✅ 見分け方:温度 K が単位に入っているのがエントロピー。 という式そのものに T が入っているのだから当然、と理解しておけば忘れません。

過去問ではこう出た

この単元は、電気技術者試験センターが公開している過去問でも繰り返し登場しています。

出題年度問番号
平成28年問15
令和4年 上期問3
令和7年 上期問2

問われ方には共通した傾向があります。

  • 比エンタルピーの差から仕事量・出力を求めさせる形が中心。h の値は問題文で与えられるので、正しく引き算できるかが勝負です。
  • 効率(タービン効率・発電機効率)と組み合わせて出るケースが多く、どの効率をどこに掛けるかの整理が必要になります。
  • 令和に入ってからも継続して出題されており、捨てられない単元であることが分かります。

いずれも、h の落差を軸に立式できれば十分に対応できる範囲です。あとは実際に手を動かして、数字を入れる練習をしておきましょう。

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よくある質問

Q. エンタルピーとエントロピー、どちらの方が試験でよく出ますか?

圧倒的に比エンタルピー h です。

計算問題のほとんどは「h の差を取ってタービンの仕事を求める」形で構成されています。エントロピーは、等エントロピー変化という考え方が背景にあるだけで、電験三種では直接計算させる出題は多くありません。

学習の優先順位としては、まず h を完璧にする。エントロピーは「乱雑さを表す別物」と区別できていれば、まずは合格ラインです。

Q. なぜ「押し退け仕事 pV」を足す必要があるのですか?

蒸気は、その場でじっとしているわけではなく、周りを押しのけながら存在しているからです。

配管の中の蒸気は、圧力 をかけながら体積 の空間を占めています。この「押しのけるために使われているエネルギー」も、蒸気が持っている能力の一部です。だから、内部エネルギー だけでは全体を表しきれません。

だけ見て「これが蒸気の全エネルギーだ」と考えてしまうと、実際にタービンで取り出せる仕事量と合わなくなります。 で合計するからこそ、実務で使える指標になるわけです。

Q. エントロピーが増えると、何が困るのですか?

取り出せる仕事が減る、これが困る点です。

エントロピーの増加は、摩擦や無駄な熱の出入りによって生じます。つまり s が増えたということは、その分だけエネルギーが「使えない形」に変わってしまったということ。

理想の等エントロピー変化なら真下にまっすぐ降りて、h の落差を最大限に仕事へ変換できます。ところが現実は右へずれるため、同じ圧力まで膨張させても取り出せる h の落差が小さくなる。この差が、そのまま発電所の効率低下として現れます。

だからこそエントロピーは、「理想からのズレを測るセンサー」と呼ばれるのです。

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この記事を書いた人

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電験三種を含め、さまざまな資格を一発合格した経験をもとに、 忙しい社会人が最短距離で受かるための教材とYouTube解説を作っています。 暗記シート・講義ノートは累計2,000部を突破し、 多くの合格報告をいただいています。

保有資格

電気主任技術者電気工事士公害防止管理者放射線取扱主任者中学校・高等学校 教員免許
  • ⚡ 電験三種・電験二種の解説動画をYouTubeで公開中
  • 📚「勉強の過程」より「結果を重視」した教材の制作・販売
  • 🏋️ 過去問対策Webサービス「電験ジム」を開発・運営

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