三相同期電動機のトルクを「棒磁石のナナメ具合」で丸暗記から卒業
電験三種「機械」科目の三相同期電動機のトルクを解説。トルクの正体は回転子磁極と回転磁界の角度差=負荷角δ。棒磁石のナナメ具合に置き換えて、無負荷・負荷・最大トルク(δ=90°)・乱調・脱調までをイメージでつなげて整理します。出力 P=3VEsinδ/xs とトルク T=P/ωs の計算も押さえます。
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「同期電動機は同期速度で回るんだから、速さはずっと同じ。じゃあ、重い荷物を回すときの力はどこから出てくるの?」
機械科目の同期機で、多くの独学者がここで手が止まります。速さが変わらないので、「力が増えた」ことが目で見えないんですね。
ご安心ください。答えは角度です。回転子が回転磁界から少しだけ遅れて、ナナメに引っ張られる。そのナナメ具合がトルクそのものです。棒磁石を1本思い浮かべるだけで、公式も脱調も乱調もひと続きで分かるようになります。
この記事で身につくこと
| 身につくこと | 試験での使いどころ |
|---|---|
| 負荷角δがトルクを生むしくみ | 穴埋め問題の用語選択 |
| 無負荷・負荷・最大トルクでのδの変化 | 「δ=何度で最大か」の正誤判断 |
| P=3VE sinδ/xs と T=P/ωs の使い方 | トルク・出力の計算問題 |
| 脱調と乱調の違い、制動巻線・はずみ車の役割 | 用語の穴埋め・正誤問題 |
暗記フレーズ:同期電動機のトルクは、棒磁石のナナメ具合(負荷角δ)そのもの
まずはこの一文だけ覚えてください。
同期電動機のトルクは、棒磁石のナナメ具合(負荷角δ)そのもの
回転子は電磁石なので、「回転磁界の中に置かれた棒磁石」と考えられます。この棒磁石が磁界に対してどれだけナナメを向いているか。それがトルクの大きさを決めます。
| フレーズの言葉 | 電動機の中の対応 |
|---|---|
| 棒磁石 | 回転子の磁極(界磁) |
| 磁界 | 固定子がつくる回転磁界 |
| ナナメ具合 | 負荷角δ |
| 回す力 | トルク |
同期電動機がそもそもなぜ回るのかがあやふやな人は、先に三相同期電動機の原理を「回転磁界に引っ張られるだけ」で丸暗記から卒業を読んでおくと、この先がぐっと楽になります。
ステップ1:磁界と平行なら、トルクはゼロ

方位磁針が北を向いてピタッと止まっている状態を思い出してください。棒磁石が磁界の向きと完全に平行なら、N極もS極も真っすぐ引っ張られるだけです。回そうとする力は働きません。
この「平行でピタッ」が、トルクゼロのスタート地点です。
ステップ2:ナナメになると回す力が生まれる

指で棒磁石を少しナナメにずらすと、磁石は元の向きに戻ろうとします。この「戻ろうとする力」が回転力、つまりトルクです。
ずらす角度が大きいほど、戻ろうとする力も強くなります。ここで出てきた「ズレの角度」に名前を付けたものが負荷角δです。
ステップ3:90°で引っ張る力が最大になる

では、どこまでずらせば力が一番強くなるでしょうか。答えは直角(90°)です。
棒磁石が磁界に対して真横を向いたとき、引っ張る力がすべて「回す向き」に使われます。力の大きさは sinδ に比例するので、sin90°=1 で最大になります。
| 負荷角δ | sinδ | トルク |
|---|---|---|
| 0° | 0 | ゼロ |
| 30° | 0.5 | 最大の半分 |
| 60° | 約0.87 | かなり大きい |
| 90° | 1 | 最大 |
ステップ4:無負荷のときはズレなし・トルクもゼロ

ここからは実際の電動機に戻ります。軸に何もつないでいない無負荷のとき、回転子は回転磁界とほぼ正面から向き合って回っています。δ はほぼ0、トルクもほぼ0です。
「トルクがゼロなのに、なぜ回り続けるの?」と引っかかった方、鋭いです。答えは慣性です。いったん同期速度に乗った回転子は、邪魔するものがなければそのまま回り続けます。自転車が平地で惰性で進むのと同じですね。
ステップ5:負荷をかけると回転子が遅れ、負荷角δが生まれる

軸にポンプなどの負荷をつなぐと、回転子はブレーキをかけられて、回転磁界から少しだけ後ろにずれます。
大事なのは、速度は同期速度のまま、角度だけがずれるという点です。回転磁界と回転子は、δ だけ離れた位置関係を保ったまま、一緒にぐるぐる回り続けます。
| 負荷の状態 | 負荷角δ | トルク | 回転速度 |
|---|---|---|---|
| 無負荷 | ほぼ0 | ほぼ0 | 同期速度 |
| 軽い負荷 | 小さい | 小さい | 同期速度 |
| 重い負荷 | 大きい | 大きい | 同期速度 |
誘導電動機のように「重いと回転が落ちる(すべりが増える)」のではなく、同期電動機は「重いとナナメ具合が増える」。ここが対比のポイントです。
ステップ6:回転子は回転磁界にナナメに引っ張られている

δ だけ遅れた回転子は、先を行く回転磁界にナナメ前方から引っ張られます。これはステップ2の棒磁石とまったく同じ状況です。
負荷が重くなって δ が広がると、引っ張る力も強まり、負荷の重さとちょうど釣り合うところで落ち着きます。つまり電動機は、負荷に合わせてナナメ具合を自動で調整しているわけです。
ステップ7:式で表す(出力とトルク)
イメージができたら、試験で使う式に置き換えましょう。円筒形の三相同期電動機では、次の式が基本です。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| V | 端子電圧(相電圧) |
| E | 誘導起電力(相電圧) |
| xs | 同期リアクタンス |
| δ | 負荷角 |
sinδ が入っているので、「δ=90°で最大」がそのまま式に表れています。この形は同期発電機の出力の式と同じです。発電機側の「1相分を3倍するだけ」の考え方は、三相同期発電機の出力と並行運転を「3倍するだけ・双子にそろえるだけ」で攻略で詳しく扱っています。
トルクは「出力÷同期角速度」
トルクは出力を角速度で割って求めます。
例:4極・50Hz・100kW の場合
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| ① 同期速度 | 120×50÷4 | 1500 min⁻¹ |
| ② 角速度 | 2π×1500÷60 | 約157 rad/s |
| ③ トルク | 100000÷157 | 約637 N·m |
②を飛ばして 1500 で割ると、とんでもなく小さな値になります。必ず角速度に直してから割りましょう。
ステップ8:90°を超えると脱調、δが揺れると乱調

脱調:ナナメの限界を超える
90°までは、ズレるほど引っ張る力が強くなるので、負荷と釣り合う位置で踏みとどまれます。
ところが90°を超えると、ズレるほど力が弱くなります。力が弱まるとさらに遅れ、さらに弱まる…という悪循環で踏みとどまれません。やがて磁極の関係が逆転して逆向きの力まで働き、回転子は同期速度から外れてしまいます。これが脱調です。
乱調:ナナメ具合が揺れ続ける
一方、負荷が急に変わると、δ は新しい釣り合いの位置を行き過ぎたり戻ったりして、ブランコのように揺れます。この揺れが続く現象が乱調です。
| 現象 | 何が起きているか | キーワード |
|---|---|---|
| 脱調 | δ が90°を超えて同期が外れる | 限界超え |
| 乱調 | δ が周期的に揺れ続ける | 振動 |
ステップ9:現場の知恵、制動巻線とはずみ車で乱調を防ぐ

実機では、乱調を放っておくと振動や脱調につながります。そこで回転子に次の工夫をします。
| 対策 | しくみ |
|---|---|
| 制動巻線 | 揺れたときだけ電流が流れ、揺れにブレーキをかける |
| はずみ車 | 回転部分を重くして慣性を増やし、揺れにくくする |
なお、今回の話はあくまで定常運転中のトルクのしくみです。同期電動機は止まった状態からは自力で同期速度まで上がれないため、起動のときだけ別の始動方法が必要になります。
まとめ
| 場面 | 負荷角δ | トルク |
|---|---|---|
| 無負荷 | ほぼ0(平行) | ほぼ0(慣性で回るだけ) |
| 負荷をかける | 回転子が遅れて δ 発生 | δ に応じて発生(sinδ に比例) |
| δ=90° | 直角 | 最大 |
| δ>90° | 限界超え | 脱調 |
| 負荷が急変 | δ が揺れる | 乱調(制動巻線・はずみ車で防止) |
計算は「P=3VE sinδ/xs」「T=P/ωs」の2本だけ。すべての出発点は、
同期電動機のトルクは、棒磁石のナナメ具合(負荷角δ)そのもの
です。棒磁石の絵さえ頭に浮かべば、機械の同期機はもう苦手分野ではありません。
⚠ ここを間違える人が多い
❌ δ は力率角のこと → ✅ δ は負荷角、力率角とは別物
同期機のベクトル図には角度が2つ出てきます。どちらも「電圧との位相差」なので、つい同じものに見えてしまいます。
| 角度 | 何と何の位相差 | 名前 |
|---|---|---|
| δ | 端子電圧 V と誘導起電力 E | 負荷角 |
| θ | 端子電圧 V と電流 I | 力率角 |
穴埋めで「δ は(ア)角」と問われたら、電流は関係ないので負荷角です。「E が相手なら負荷角、I が相手なら力率角」と覚えておきましょう。
❌ 最大トルクは δ=180°(π) → ✅ δ=90°(π/2)
「ズレが大きいほど力も大きい」と思い込んで、一番ズレた180°を選んでしまうパターンです。棒磁石を思い出してください。真逆(180°)を向いた磁石は、引っ張られても回りません。sin180°=0 です。最大は真横の90°です。
❌ 同期速度 min⁻¹ でそのまま割る → ✅ 角速度 rad/s に直してから割る
T=P/ωs の分母は角速度です。問題文の回転速度をそのまま入れると、答えが1桁も2桁もずれます。選択肢に「それらしい間違いの値」が用意されていることも多いので、2π/60 を掛ける一手間を忘れないでください。
過去問ではこう出た
同期電動機のトルク・負荷角まわりは、機械科目の中でも繰り返し出題されている定番テーマです。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 令和8年上期 | 問15 |
| 令和6年上期 | 問6 |
| 令和5年下期 | 問5 |
| 令和4年下期 | 問4 |
| 令和3年 | 問5・問7 |
| 令和2年 | 問5 |
| 令和1年 | 問5 |
出題の傾向
- 用語・性質の穴埋め型:負荷角という名前、最大トルクになる角度、乱調や制動巻線などを文章の空欄に入れる形。この記事の「棒磁石のイメージ」がそのまま効きます。
- 計算型:出力の式や、同期速度からトルクを求める問題。B問題で出ると配点が大きいので、単位変換まで含めて手を動かしておきたいところです。
電験ジムでは、このテーマに関連する過去問を75問収録しています。読んで分かった今のうちに、実際の問題で「分かる」を「解ける」に変えておきましょう。
よくある質問
Q. 負荷が重くなっても回転速度が変わらないのは、なぜですか?
回転子が回転磁界に「磁石どうしでくっついて」回っているからです。回転磁界の速さは電源の周波数と極数だけで決まる同期速度 Ns=120f/p なので、負荷をかけても変わりません。負荷が増えたときに変わるのは、速度ではなく「くっつき方の角度」、つまり δ です。
ただし引っ張れる力には上限があります。上限を超えると脱調して、くっついた関係そのものが外れてしまいます。
Q. 界磁電流を増やすと、トルクや負荷角はどう変わりますか?
界磁電流を増やすと誘導起電力 E が大きくなります。P=3VE sinδ/xs の式を見ると、同じ出力(同じ負荷)なら、E が大きいぶん sinδ は小さくて済みます。つまり同じ負荷でもナナメ具合が浅くなり、最大トルク(δ=90°のときの値)にも余裕が生まれます。棒磁石で言えば「磁石そのものが強くなった」イメージです。
界磁の強さで電圧や電流の性質が変わる話は、発電機側の同期発電機の外部特性曲線と自己励磁現象を「遅れは弱る・進みは強まる」で攻略でも扱っているので、あわせて読むとつながりが見えてきます。
Q. 突極形の場合も、最大トルクは90°ですか?
電験三種で「最大トルクは δ=90°」と覚えるのは、円筒形の同期機が前提です。突極形は回転子の形がデコボコしているぶん、式に別の項が加わり、最大になる角度は90°より手前にずれます。
試験で特に断りがなく P=3VE sinδ/xs の式が示されていれば、円筒形として90°で考えて問題ありません。まずは円筒形の考え方を確実にしましょう。
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