コイルに働くトルクを「ドアノブ」で攻略する ── 電磁力 T=BIℓDcosθ
電験三種「理論」でつまずきやすい電磁力とトルクを、ドアを開けるイメージで完全攻略。フレミングの左手の法則で生まれる力Fと、回転力トルクTの違い、そして公式 T=BIℓDcosθ の cosθ がなぜ付くのかを、傾いたコイルの図でスッキリ理解。モーターが回る本当の理由が腹落ちします。
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「トルクって、フレミングの左手だっけ、右手だっけ?」——散歩中にふとそう思って、両手を広げてみたものの結局わからなくなった。そんな経験、ありませんか。
コイルに働くトルクは、電験三種の理論科目で毎年のように顔を出す頻出テーマです。それなのに苦手にしている人が多いのは、公式 が、いくつもの記号がくっついた「長い式」に見えるからです。
でも安心してください。この式は、実はたった2つの部品を掛け算しただけです。しかもその2つとも、前回学んだフレミングの左手の法則の延長線上にあります。今日この記事を読み終えるころには、公式を思い出すのではなく、自分の手で組み立てられるようになっています。
この記事で身につくこと
| 身につくこと | 到達レベル |
|---|---|
| 力FとトルクTの違い | 「押す力」と「回す働き」を図で説明できる |
| 電磁力の公式 F=BIℓ | 各記号の意味と単位を即答できる |
| 腕の長さがDである理由 | 半径rではなく直径Dを使う理由を言える |
| cosθの意味 | 「傾きによる有効な腕の目減り」と説明できる |
| 完全公式 T=BIℓDcosθ | 部品から自力で組み立てられる |
| 比例計算への応用 | B・I・Dを2倍→8倍を即答できる |
この分野でつまずく人には、決まって3つの壁があります。「力と回転力の違いが曖昧」「傾き補正の意味が不明」「直径と半径を間違える」——この3つです。

3つとも、今日ここで片付けます。順番に一つずつ潰していけば、決して怖い単元ではありません。
暗記フレーズ:トルクは、ビルのディーコサイン
先に結論からお伝えします。今日覚えていただきたいのは、この一言だけです。
トルクは、ビルのディーコサイン
語呂合わせに見えますが、これは単なる呪文ではありません。公式の構造そのものを言葉にしたものです。分解すると、こうなります。
| フレーズ | 対応する式 | 意味 |
|---|---|---|
| ビル | 導体1本にかかる電磁力 | |
| ディー | コイルの直径(=腕の長さ) | |
| コサイン | 傾きによる補正 |
この3つを掛け合わせると、そのまま完全公式になります。
中身のある暗記フレーズだからこそ、忘れにくい。ここから、部品を1つずつ組み立てていきましょう。
ステップ1:土台となるフレミングの左手の法則を思い出す

今日の話は、すべてここから始まります。3本の指を直角に開いたとき、それぞれが表すものは次のとおりです。
| 指 | 表すもの | 向き |
|---|---|---|
| 親指 | 力 | 導体が動く方向 |
| 人差し指 | 磁束密度 | N極からS極へ |
| 中指 | 電流 | 電流の流れる向き |
「電・磁・力」の順に、中指・人差し指・親指と覚えていた方も多いはずです。それで正解です。
コイルは「両側に逆向きの電流が流れる導体」
ここが、前回との一番の違いです。前回は導体1本の話でしたが、今日の主役はコイル全体です。
コイルというのは、導体を輪っかにしたものです。すると片側は紙面の奥から手前へ、反対側は手前から奥へと、両側で電流の向きが逆になります。
向きが逆なら、フレミングの左手も180度ひっくり返る。つまり、両側に逆向きの力が生まれるわけです。これがコイルを回す正体です。
左右の導体で発生する力の向きは、図の記号(●=手前向き、×=奥向き)から左手を当てはめれば、その場で導き出せます。暗記するものではありません。
法則そのものがまだ怪しい方は、先に〈フレミングの法則を「左手は動かす・右手は生む」で一発整理する〉に戻ってから読み進めると、この先が驚くほど楽になります。
ステップ2:導体1本にかかる力 F=BIℓ

「ビル」の部分がこれです。磁界の中に置かれた電流Iの流れる導体には、次の力が働きます。
| 記号 | 名称 | 単位 |
|---|---|---|
| 磁束密度 | テスラ[T] | |
| 電流 | アンペア[A] | |
| 導体の長さ | メートル[m] | |
| 力 | ニュートン[N] |
なぜ単純な掛け算になるのか。磁界が強いほど強く押され、電流が大きいほど強く押され、導体が長いほど力を受ける部分が増える——3つとも「増えれば増えるほど強くなる」関係だからです。
単位の確認も習慣にしてください。[T]×[A]×[m]=[N]。桁の見落としに気づける、地味ですが効く保険になります。
なお、この という形は電磁力の世界の共通言語です。導体が2本平行に並ぶ場面では、同じ顔をしていながら の扱いが変わって受験者を苦しめます。そちらが不安な方は〈平行導体間に働く電磁力は「ℓを掛けない」が9割〉も併せて押さえておくと万全です。
ステップ3:力とトルクは何が違うのか(壁その1)

さて、1つ目の壁です。力Fとトルクは、名前が似ているだけで役割がまったく違います。
一言でいうと
| 用語 | 正体 | 単位 |
|---|---|---|
| 力 | 押す力そのもの | ニュートン[N] |
| トルク | 回転させる働きの強さ | ニュートンメートル[N・m] |
ドアで例えるとわかりやすいです。ドアを押す手の力そのものが力F、そのドアが実際にどれだけ勢いよく開くかがトルク。同じ力でも、押す場所が変われば開き方は変わります。
腕の長さを掛ける
その「押す場所」を数式にしたのが、腕の長さです。
腕の長さとは、回転軸から力がかかる点までの距離のこと。レンチでボルトを締めるとき、柄が長いほど軽い力で締まりますよね。あれと同じ、テコの原理です。単位が[N]×[m]=[N・m]になっている点も、辻褄が合っていて気持ちがいいところです。
なぜ半径rではなく直径Dなのか(壁その3)
ここが3つ目の壁です。回転軸から片側の導体までの距離は、確かに半径です。しかしコイルでは、軸をはさんだ反対側にも同じ大きさで逆向きの力がかかっています。
このような「大きさが等しく向きが逆で、同一直線上にない2つの力」を偶力といいます。偶力は合力こそゼロですが、回す働きは消えません。両側からの寄与を合わせるため、腕の長さは半径ではなく直径Dになるのです。
❗ 試験本番で最も多い取りこぼしがここです。問題文に半径が与えられていたら、必ず2倍して直径に直してから公式へ入れてください。
ステップ4:なぜcosθを掛けるのか(壁その2)

今日の一番の核心です。ここまではコイルが水平の状態を考えてきましたが、実際のコイルはグルグル回ります。当然、途中で傾いた状態を通ります。
コイルが角度θだけ傾くと、実際に回転へ効いている腕の長さが短くなるのです。斜めの辺の長さがDでも、水平方向に効いている長さは になります。
理由は「回転に効くのは垂直成分だけ」
回転力を生むのは、腕に対して垂直な方向に働く力の成分だけです。フレミングの法則で3本の指を必ず直角に開くのと、根っこは同じ発想です。
コイルが傾いても、力Fの向きは真上・真下のまま変わりません。変わるのは腕の向きのほう。腕が傾くほど、力と腕のなす角がずれていき、回転に効く割合が という形で目減りしていきます。
またドアの例えです。取っ手をドア面に垂直に押すと最もよく開きますが、斜めに押すと同じ力でもスカッとして開きにくい。あの感覚そのものです。
前回の sinθ と、今日の cosθ は別物
ここで多くの人が混乱します。「前回はsinθだったのに、なぜ今日はcosθ?」——同じ記号θですが、測っている場所が違います。
| 公式 | θが表すもの |
|---|---|
| 磁界の向きと電流の向きがなす角 | |
| コイルの腕が水平からどれだけ傾いたか |
今日の場面では、磁界と電流は常に直角です。つまり で固定なので、sinθは式に登場しません。変化するのはコイルの傾きだけ。だからcosθだけが残るのです。
「θと書いてあるから、あの公式だ」と条件反射せず、何と何の間の角度かを毎回確認する癖をつけてください。これだけで失点が一つ減ります。
ステップ5:2つの部品を合体させる

いよいよ合体です。やることは単純で、ステップ2の に、ステップ4の を掛けるだけ。
これで「トルクは、ビルのディーコサイン」に到達しました。何もない状態から暗記した式ではなく、部品を積み上げて自分で作った式です。
実は面積が隠れている
補足として、 と を掛けた部分は、コイルが作る面積にあたります。ここに物理的な意味があります。
コイルの面積が大きいほど、そして傾きが小さいほど、大きなトルクが生まれる。
公式の中に、ちゃんとストーリーが詰まっているわけです。丸暗記していると気づけない部分ですが、意味がわかると急に忘れにくくなります。
ステップ6:水平時と垂直時で比べる

cosθの効き目を、両端の2つの状態で確認しておきましょう。ここが試験で問われる基準点になります。
| 状態 | 角度θ | cosθ | 有効直径 | トルク |
|---|---|---|---|---|
| 水平時 | 0° | 1 | 最大 | |
| 垂直時 | 90° | 0 | 0 | ゼロ |
実際のモーターでは、コイルが回り続けるので、トルクは最大とゼロの間を行ったり来たりしています。ずっと一定ではないのです。
そこで実機では、複数のコイルを角度をずらして組み合わせ、トルクの変動をならす工夫をしています。一つのコイルがゼロになる瞬間を、別のコイルが最大でカバーする。チームプレーで弱点を補い合っているわけです。
まずは原理として、この0°と90°の2つの状態を基準に押さえておけば十分です。
ステップ7:確認クイズで手を動かす

理解できたかどうかは、解いてみればすぐわかります。2問だけ、手を動かしてみましょう。
問1:コイルが水平から徐々に傾いていくと、トルクはどうなる?
答えは「徐々に小さくなる」。有効直径 が、傾くほど縮んでいくからです。
θが0°から90°へ向かうにつれてcosθは1から0へ減っていく。だからトルクも減っていく——理由から言えることが大切です。「なぜ小さくなるか」を説明できるかどうかが、応用問題での差になります。
問2:磁束密度B、電流I、コイル直径Dをすべて2倍にすると、トルクは何倍?
B、I、Dの3つが、それぞれ独立した掛け算になっています。したがって、
答えは 8倍 です。 と を変えなければ、この3つの掛け算の関係だけで答えが出ます。
この考え方は、前回の でもまったく同じように使えます。掛け算だけでできた公式なら、どの科目のどの公式でも通用する——比例計算は、覚える量を増やさずに得点を増やせる、コスパの良い武器です。
ステップ8:現場ではこう使われている
少し視野を広げます。この公式は、試験のためだけの式ではありません。
大型モーターは「磁力」で強くする
公式上は、電流Iを増やせばトルクは上がります。ところが現場の大型モーターでは、電流ではなく磁束密度Bを強化する設計が主流です。
理由は熱です。電流を増やすと熱損失 が急激に増え、モーターが焼損する危険があります。二乗で効くので、増やした分がそのまま跳ね返ってくるのです。
公式上は正しくても、現場では別の制約で選ばれない。この視点を持っておくと、機械科目に入ってからの理解が一段深くなります。
インバーター制御(VVVF)
もう一つが、電流と周波数を巧みに操ってトルクを一定に保つ技術、インバーター制御(VVVF)です。電車のモーターや工場設備に広く使われています。
電車が発進するときの「ウィーン」という独特の音——あれこそ、インバーターが周波数を変えている証拠です。今日の公式が、身近な音の裏で働いています。
まとめ
試験直前に見返すなら、この表だけで足ります。5つの記号さえ埋められれば、公式は自分の手で組み立てられます。
| 記号 | 意味 | 単位 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 磁束密度 | [T] | 実務ではここを強化してトルクを上げる | |
| 電流 | [A] | 増やすと熱損失 が二乗で増える | |
| コイル長 | [m] | はコイルの面積にあたる | |
| 直径 | [m] | 半径のまま計算しない(偶力だから直径) | |
| 傾き補正 | — | 垂直時(90°)はゼロになる |
迷ったら、この言葉に戻ってください。
トルクは、ビルのディーコサイン
「ビル」は導体1本にかかる力、「ディーコサイン」は傾きを考えた有効な腕の長さ。この2つを掛けるだけです。力とトルクの違いも、傾き補正の意味も、直径と半径の違いも、今日ですべてクリアになりました。
⚠ ここを間違える人が多い
この単元で失点が集中するのは、計算そのものより「向き」と「腕の長さ」です。3つに絞って挙げます。
❌ 左右の力が打ち消し合うから「何も働かない」と答える
コイルの両側には、大きさが同じで向きが逆の力がかかります。ここだけ見ると「合計するとゼロだから、何も起きない」と結論したくなります。
✅ 正しくは、力の合計はゼロでも回転力は残ります。 2つの力が同じ直線上に乗っていないからです。これが偶力で、 という形でモーメントがしっかり生き残ります。選択肢に「何も働かない」があると引き寄せられますが、力の向きが平行にずれている時点で回転は起きると判断してください。
❌ 半径をそのまま公式に代入する
問題文が半径で与えられているのに、 のDへそのまま入れてしまうパターンです。答えがきっちり半分になるので、選択肢にも「もっともらしい誤答」が用意されています。
✅ 半径が与えられたら、必ず2倍して直径に直す。 逆に、直径が与えられているのにトルクを半径で計算するのも同じミスです。計算に入る前に「Dは直径か?」と一度だけ自問する習慣を作ってください。
❌ 電子の動く向きと電流の向きを取り違える
電子は負の電荷を持つため、電子が進む向きと電流の向きは逆です。荷電粒子の問題で電荷の符号を見落とすと、力の向きが丸ごと反転します。
✅ まず電流の向きを確定させてから、左手を当てる。 そして電磁力は左手、発電(誘導起電力)は右手。この使い分けが揺らいでいる方は、〈電磁力は「右ねじ1本」で攻略できる——電流と磁界の方向〉で向きの決め方を固めておくと、本番で手が止まりません。
過去問ではこう出た
この単元は、電気技術者試験センターの公開問題でも繰り返し登場しています。動画と連動している範囲では、次の3問が該当します。
| 年度 | 問番号 |
|---|---|
| 平成28年 | 問12 |
| 令和2年 | 問3 |
| 令和4年下期 | 問12 |
出題の傾向は、はっきりしています。第一に、力の向きを問うタイプ。フレミングの左手を正しく当てられるか、電流の向きを勘違いしていないかが試されます。第二に、偶力を扱えるかを問うタイプ。合力はゼロでもモーメントは残る、という理解があるかどうかで正誤が分かれます。第三に、比例関係の計算。B・I・D のどれかを何倍かして、トルクが何倍になるかを問う形です。
いずれも、公式を丸暗記していると迷いますが、成り立ちを理解していれば手が止まりません。理解したつもりでも、実際に解いてみると詰まるものです。ぜひ手を動かして確かめてください。
よくある質問
Q. トルクの単位[N・m]は、仕事の単位[J]と同じでは?
数式の上では、たしかに[N]×[m]で同じ形になります。しかし意味がまったく違うので、区別して扱ってください。仕事は「力の向きに動かした距離」を掛けたもの、トルクは「回転軸から力までの距離」を掛けたものです。掛ける距離の意味が違うため、トルクは[J]とは書かず、必ず[N・m]と表記します。試験でも単位はそのまま出てくるので、混同しないようにしましょう。
Q. コイルの巻数がN回のときは、公式はどうなりますか?
導体が何本も重なることになるので、トルクもその本数分だけ増えます。つまり となります。この記事では原理を掴むためにN=1として説明してきましたが、問題文に「巻数N」と書かれていたら忘れずに掛けてください。逆にいえば、増える要素はNの掛け算だけで、構造は何も変わりません。
Q. 磁石そのものの性質が曖昧で、磁界の向きから怪しいです
正直な自己申告ができる方は、必ず伸びます。電磁力は「磁界の中で何が起きるか」の話なので、磁界そのものの理解が土台になります。N極とS極の関係や、同種は反発・異種は引き合うといった基本が揺らいでいると、フレミングの左手を当てる前の段階でつまずいてしまいます。
急がば回れです。〈電磁力の前に「磁石の正体」:同種は反発・異種は引き合うを一発理解〉で土台を固め直してから、この記事に戻ってきてください。また、電磁力の公式が静電気の公式と鏡うつしの関係にあることを知ると、覚える量が体感で半分になります。〈静電気と電磁力は「双子の公式」——εをμに替えるだけで全部解ける〉も、記憶の負担を減らす意味でおすすめです。
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